11.ブランジーニ侯爵の夢
侯爵と国王、魔道士。の巻
ブランジーニ侯爵視点です。
ダニエラがエルフリーデに気に入られたようで、家政婦とメイド全員を連れて王宮に向かった。
いよいよ自分の計画が実を結ぶかもしれない・・・そう思うと笑いがこみあげてきてしょうがない。
バトラーにお茶を出してもらって、しばらくすると玄関が騒がしくなり、バトラーが訪問者に断りをいれている声が聞こえてきたが、たいして気にとめることもなさそうだ。
それにしてもダニエラがこのまま順当に段階を踏んでいくと、ゲイリーが邪魔になる。
そもそもゲイリーとは、陛下やあの学友どもを排除するのに適当な人物を探していたら、キンケイドの息子に恨みを抱くあの男に行き着いたのが付き合いの始まりだ。
家の再興をえさにして取り込んだものの、ゲイリーの狙いはあくまでキンケイドの息子。その息子が気に入ってるというだけでアリンガム商会の娘を誘拐して、私の屋敷の一つに軟禁したと言ってきたのには驚いた。
そこで初めて私はゲイリーがやっかいな存在だと思い、ゲイリーに変わる人間を得なければならないと考えた。
そんなときに出会ったのがダニエラだ。行きつけの売春宿の女将に紹介されたときに、私の計画は現実味を帯びてきた。
ダニエラは貴族の娘たちの中にも見つからないくらいの美貌の持ち主だ。身寄りがないというのもいい。バトラーのようなやっかいな人間もついていない。
体もよかったので、私は表向き「自分の姪」として、本当は自分の愛人として屋敷に囲うことにした。ダニエラのことを知った別居中の妻からは「ご自由に」と短い手紙が来ただけだった。
上品な言葉遣いとマナーを覚えさせ、建国記念舞踏会に連れて行くとダニエラはたちまちたくさんの若い男に囲まれた。しかし狙いはラインハルトだ。奴に挨拶に伺うときに連れて行くと、ラインハルトが興味を持ったのがわかった。やっぱり血は争えないか。
奴の父親、前国王もカルロの母親である私の妹の美貌に目を見張ったものだ。
さてゲイリーをどうしようか・・・魔力を使う男だから、多少金がかかっても腕利きを頼んだほうがいいだろう。
そのとき、部屋のドアが開いた。「入れと言った覚えはない。下がれ」声をあらげて言うと、「ブランジーニ侯爵。私に命令できる立場かな?」と聞き覚えのある声。
そこにはラインハルトと、ブランデルの息子がいて、私は慌てて椅子から立ち上がった。
「陛下!今日は王太后やダニエラとお茶会なのでは?」
「ブランジーニ侯爵。あなたに反逆罪を適用することが決まった。本来なら、警護騎士を派遣するところだが、あなたはカルロの伯父だ。私が直々に王宮に連れて行く。同行していただけますね」
私は耳を疑った。反逆罪と言うのはいったいどういうことだ。
「陛下。反逆罪とはいったい・・・・」
「侯爵。私が何も知らないと思っているのか。愚かな。」
「愚かとは?陛下。ずいぶん失礼な言動ですが、証拠でもあるのですか」
すると、ブランデルの息子が私の前に伝達石を出してきた。
「ブランジーニ侯爵。失礼なのはそちらだろう。これを聞いてまだ何か言うことがあれば王宮で言うんだな」
そう言ったあとに石に手をかざす。
すると私とゲイリーの会話が再生された・・・・これはゲイリーに提供した部屋で話したものだ。いったいどうして・・・・
「こんなもの・・・・」私は思わず手を伸ばして、石をつかもうとした。
「侯爵。その石は複写だ。いくら破壊したところで、本物は王宮で厳重に保管されている。あきらめろ」
陛下の冷徹な声が私の手をとめた・・・私の計画の崩れる音が聞こえるようだ。
そういえば、ここにはラインハルトとブランデルの息子しかいない。もう一人はどうしたんだろうか。
「・・・陛下。宰相がおられないようですが」
私の問いにラインハルトはにっこり微笑んだ。
「宰相は、侯爵の客人であるゲイリー・バルフォアの部屋だ。今頃やつを捕らえているかな」
「ゲイリーを捕らえるとは・・・」
「とぼけてはいけませんね、侯爵。バルフォアはエマ・アリンガム嬢を誘拐し軟禁そして逃亡している。まあ、あなたの指示があったかどうかは王宮でじっくり聞かせてもらいます。」
「わ、私はアリンガム嬢の誘拐に関しては知らん!!ゲイリーが勝手にやったんだ!!」
「でもアリンガム嬢が軟禁されていた場所は侯爵所有の屋敷ですよね」
ブランデルの息子がのんびりした調子で私に向かって口を開く。きっとアリンガム嬢を誘拐した人間を特定した時点で調べはついていたのかもしれない。
座り込んだ私は服の内側に隠してある護身用のナイフに触れた。それをラインハルトにばれないように手に取った。一瞬のチャンスがあればいい・・・・
ところが、その瞬間私の顔に剣の切っ先が突きつけられた。
「反逆罪未遂でも重罪なのに、さらに罪を重ねるのか。なあ、侯爵。私は簡単にあなたを死なせないよ。生かして潰さないと粛清ではないだろう?」
陛下は冷たい目で私を見つめ、切っ先を少しも外そうとはしなかった。
「トビー。どうやらおとなしく王宮に来てもらうのは無理なようだ。拘束魔法をかけてくれ」
ブランデルの息子が私に拘束魔法をかけ、ラインハルトに腕をとられる。
「さあ。ブランジーニ侯爵。参りましょうか。」
もう何もかもが終わってしまった・・・・私はこれから自分に何が起こるのか予測もできなかった。
読了ありがとうございました。
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少しは国王様の見せ場っぽくなったでしょうか。
こういう緊迫した場面は描写が難しいです。




