10.崩れゆく足元
変態ゲイリーと宰相閣下。の巻
ゲイリー視点です。
かなりの長文となっております。
申し訳ありませんが、ご了承ください。
朝から屋敷が騒がしい。
いったい何事だろうと窓から外を見ると、一台の馬車にダニエラを始め使用人の女性達が全員乗り込んでいるのが見えた。
「ゲイリー様。おはようございます」
バトラーが朝食を載せたワゴンを押してくる。
「おはよう、バトラー。今朝はなにやら騒がしかったね。どうやら女性たちが全員でどこかへ出かけたようだけど」
「ええ。なんでも王太后様のお茶会に使用人たちも招待されたそうです」
「ダニエラだけじゃなくて、全員かい?それは珍しいね。」
「ええ。」すると、どこからかけたたましくベルの音がする。
「バトラー、侯爵がお目覚めのようだ。お茶でも入れて差し上げろ」
「私はゲイリー様の従僕で、あの方の使用人ではないのですが・・・」
「あの方が自分でいれるのは酒だけだ」
「そうですね。仕方ありません」そういうと、バトラーは頭を下げて部屋を出て行った。
使用人とダニエラを呼んでお茶会とはね・・・・果たして、本当にお茶会だけなんだろうか。
しばらくすると「ここから先は通すわけにはまいりませんので」というバトラーの声が聞こえてきた。
何事だろうかと玄関のほうに向かうと、そこにはあの男が陛下や魔道士とともに立っていた。
どういう経緯なのか知らないが、侯爵の計画は陛下たちにばれたようだ。
「バトラー。ゲイリーと侯爵がいるのは分かっている。ゲイリーに関してはエマ・アリンガム嬢の誘拐について話を聞かなくてはいけない。案内してもらいたい」
「ですから、お通しするわけにまいりません」
押し問答を繰り返してるのを苦笑いしながら眺めているのも悪くはないけど、バトラーが気の毒なので「バトラー、かまわないよ。やあ、宰相閣下。おや、国王陛下にブランデル魔道士殿までそろっているとは」と声をかけた。
「ゲイリー・バルフォアだな」あの男が私を睨みつける。
「宰相閣下。いつぞやはエマ嬢を見事なキャッチでしたね」
「どうしてエマを誘拐する必要があった」
「その件については、私の部屋で話をしませんか。ただし、宰相閣下お一人とね」
「はあ?何を言っている」魔道士が不快感をあらわにしたが、宰相閣下は何事か考えているようだった。
「よし、わかった。お前の部屋で話そう」
「セオ。やめておけ」魔道士がとめている。
「二手に別れたほうが効率がいいだろ?お前とハルで侯爵を押さえてくれ。あとで王宮で合流しよう」
「セオ、おま「分かった。セオの言うとおりにするよ」魔道士の言葉をさえぎって、陛下がうなずいた。
バトラーが入ってこようとしたのをとめて、私は宰相と二人だけで部屋に入った。
「宰相閣下。エマ嬢はあなたの家の使用人ですよね。たかが使用人一人のためにそこまでお怒りと言うのはずいぶん思いやりのある方だ」
「私にとっては、キンケイド家で働く者は大切だ。なかでもエマは特別だ・・・・私の婚約者だ」
「おや!そこまで話が進みましたか。よくあのエマ嬢があなたの気持ちに気がつきましたね。それはそれは」
「それが誘拐と何か関係があるのか」
「私はね、あなたに報復したかったんですよ。」
「報復?」
「父は爵位没収のうえ永久追放の処分にあった挙句、よその土地で死にました。バトラーはあなたのせいだと思っているようですが、私は父の自業自得だと納得しています。ですが、どうしても納得できないことがあるんですよ」
「・・・なんだ」
「私にはバルフォア男爵家を継ぐ資格がある。以前にそれを願い出たら見事に却下されましたがね。」
「爵位没収の処分にあった家を再興させるには、きちんと手続きを踏んだ後継者が現れた場合のみだ。ゲイリー、お前はどうやって男爵の息子だと証明する?」
私は自分のポケットから一通の手紙を取り出した。それは息子が産まれたことを報告した母への父からの手紙。そこには私の誕生が嬉しいと書かれている。
「この手紙が証明になるはずだ」私が差し出した手紙を宰相は受け取り、読み始めた。
「・・・なるほど。証明するのはこれだけか?」宰相はそういうと私に手紙を返してきた。
「それだけとはどういう意味だ。私が息子だと言うことは証明されただろうが。」
「確かに、おまえはバルフォアの息子のようだ。しかし、これを見てみろ」
「・・・・どういうことだ。」私の問いに、宰相は画像記録石を取り出して手をかざした。
すると、そこには椅子に座っている俺によく似た男と、対峙している人間が映し出される。
“・・・・バルフォア男爵。ここからは家族について聞く。ご家族、または血のつながった人間はおられるかな。いるなら、あなたを廃嫡して領地は爵位取得前のものだけになるが、爵位を継続させることは可能だが?”
すると、私によく似た男・・・母が言う“私を捨てた男”つまり父が、口を開いた。私はここで初めて父親を見た。
“私には子供などいない。さっさと没収してくれて結構だ。”
“だが、こちらの調査によると息子が一人いるそうだが”
“ああ・・・・。確かに戯れに手をつけた女が身ごもったと手紙をよこしたな。だが、あの女は身分が低い。庶子として認知はするが、一族として記載した覚えはない。だから、私には子供などいない”
そういうと父は背もたれに寄りかかり、低い声でクククと笑った。
バトラーは“お父上は家の再興をゲイリー様に託して亡くなりました”と私に告げた。だけど、画面の父にはそんなそぶりは全然見当たらない。
「ちなみにこれは、永久追放直前の画像だ。きみが持っている手紙の2年後だな。本人の意志として日付の新しいほうを優先するのは当然だ。ゲイリー、きみには最初から後継者を名乗る資格はない」
「そんな馬鹿な。ブランジーニ侯爵は、協力すればバルフォア家復興に力を貸すと」
「ゲイリー。侯爵は確かに王弟殿下の伯父という身分で裕福だ。確かに今の陛下には目の上のたんこぶのような存在でもある。
だが、今回いろいろ企ててくれたおかげで、そのたんこぶも消えそうだよ。そういう意味で、きみには感謝するべきだろうね」
「私のしたことは、全て無駄だったということか」
「簡単にいうと、そういうことだ。ゲイリー・バルフォア、エマ・アリンガム嬢誘拐の件で聞きたいことがある。王宮に来てもらう」
「誰が行くか!!」私は手から火の玉を出そうとした。
「・・・ゲイリー、無駄だよ」宰相が何事かつぶやくと、私の体に異変が起こった。手のひらから何もでない・・・。
「何をした!」
「魔法封じ。私は宰相になる前は陛下の護衛だったからね。悪いがきみ程度の魔法を封じるのはお手の物だ。なんなら剣で勝負するか?」
「陛下の護衛じゃ剣も一流なんだろう?私は剣など使ったことがない。そんな人間と勝負をするのは愚かじゃないか?」
「なんだ、わかってるようだな。」
宰相とともに出てきた私にバトラーが駆け寄る。
「ゲイリー様!!」
「バトラー。私は王宮に行く。お前はどうする?」
「もちろん、ゲイリー様と一緒にまいります。あなたは私の主ですから」
「・・・そうか。宰相閣下、バトラーはエマ嬢誘拐には最後まで反対していた。このことは覚えていてほしい」
「その事情は本人から聞こう」
宰相閣下が乗ってきた馬車に乗り込む。屋敷は遠ざかり、やがて見えなくなった。
読了ありがとうございました。
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始めは二話に分けようかと思ったのですが
一気に決着をつけたほうが、書いてる私も読者様も
すっきりするかと思いまして分けるのをやめました。
携帯・スマホでお読みの方、長くてすみません・・・。




