9.真実の間-2
彼女が頼まれたこと。の巻
引き続き、ダニエラ視点です。
宰相が私のほうをみた。
「ダニエラ、3日後に王宮に王太后の名義でお茶会の招待状を出すから、そのときに屋敷内で働いているメイドと家政婦もこちらに連れてきてほしい。」
「え。それだけ?」
もっと難しいことを言われるかと思っていたので、拍子抜けしてしまう。
「ああ。それだけだ。私たちの狙いは侯爵とバルフォアだけだ。あなたや使用人に用はない」
「それをすれば、私は元の生活に戻らなくていいのね?」
「保証する。どこか生活したい場所があればそれも考慮しよう。特になければ、仕事と居住地をこちらで決めるが」
「仕事も世話してれくるわけ?すごい厚遇ね」
「何か希望の仕事でもあるか?」
私の希望する仕事・・・私は最初から娼婦なわけじゃない。でも、それ以外なにができるんだろう。
「特にないわ。でも、両親が亡くなってから施設にいたから小さい子の面倒をみるのは好きだし得意よ」
私の言葉に、陛下をはじめ皆意外そうな顔をする。確かに、私の外見からは信じにくいか・・・思わず自嘲的に笑ってしまう。
「なら、どうしてそういう職につかなかった」
「恋人が出来て、その男に貯金を全部持っていかれて借金まで背負わされて。結果娼婦になっちゃったのよね。あの頃の自分に会えるなら全力で止めるわね」
だけど、こうなってなかったら陛下に対峙することもなかったのよね・・・ふつうに就職して、恋をして結婚したのかしら。想像もつかないわ。
「ダニエラ。それでは施設の職員などはどうかな。」
「元娼婦を雇う施設なんてないわよ」
「ちょっと立ち入ったことを聞くけど、娼婦歴は長いのか?」
無愛想な宰相が私を見ながら聞いてくる。
「そうでもないわ。店に出るようになってまだ3回目くらいのときに侯爵に出会ったから。すぐに身請けされたし」
もう私はすっかり開き直っている。というか、開き直るしかない。
宰相は私の返答を聞くと、陛下たちと何事か小声で相談をし始めた。私はその様子をぼんやりと眺める。
娼婦を前にすると、いやらしい笑いをする人が多いけど、この人たちは普通なのね。まあ黙っていても女が寄ってくるだろうから娼婦に用がないんだろう。
「ダニエラ。きみの落ち着き先は侯爵とバルフォアへの処分が終わる頃には決めておく。3日後のお茶会の件、無事に遂行してくれ。頼む」
「ねえ、どうして宰相が私に頭をさげるのよ?」
「事情がある」
「そう。」きっと、“事情”について細かく聞いてもこの男は答えないだろう。
とりあえず、私は頼まれたことをやるしかないんだわ。
「ダニエラ。首尾はどうだった?」
侯爵が私の手をさわりながら聞いてくる。
「王太后様にお茶に呼ばれて話が弾みましたの。すっかり意気投合しましたわ」
「それは上々の出来だ。エルフリーデに気に入られたのなら、ラインハルトも異存はないだろう」
侯爵は嬉しそうだ・・・・
「ええ。それでね、侯爵様」
「ん?なんだ?新しいドレスか?」
「違うわ。実は、王太后様が3日後に陛下も交えたお茶会をするから参加しないかと誘ってくださったの。」
「なんと!それはそれは。」
「だけど、そのときに使用人たちも連れていらっしゃいと言われたわ。なんでも女官が使用人同士も交流したいと王太后様に言ったんですって」
「は?じゃあ、家政婦やメイドも行くのか。それは珍しいが・・・」
「侯爵様、やっぱりダメよね。だって、そんなことになったらこの屋敷が侯爵様とゲイリーだけになってしまうもの・・・私、お断りの手紙を・・・」
「何言ってる!!屋敷にはバトラーがいるから不自由はない。今エルフリーデの誘いを断ったら元も子もないだろう!!」
「そう?それじゃあ、お言葉に甘えて皆で出かけるわね?」
「もう言うことはないか?」侯爵の荒い息が私の耳元にかかってくる。
「ええ。ないわ・・・」
3日後には、私はここからいなくなって人生をやり直す。侯爵を受け止めながら、私はぼんやりとこれからの人生について考えていた。
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ダニエラが頼まれたことを、彼女視点で書いてみました。




