5.カルロ殿下とエマ
カルロ殿下の提案。の巻
カルロ殿下の訪問は突然のものだった。
侯爵様があわてて出迎えている間に、私たちは広間に集合し殿下を迎えるために並んでいた。
「ご連絡いただければ、馬車を差し向けましたのに」
伯父と甥の関係だけど、身分は殿下のほうが上なので言葉遣いは丁寧なものになる。
「申し訳ありません、伯父上。懇意にしている書店から興味のありそうなものを手に入れたと連絡をもらって、どうしてもすぐに見たくて来てしまったのですよ。
ついでに私が伯父上に紹介したメイドの様子も知りたくなりましてね。」
「お気持ちはわかりますが・・・・」
侯爵様がすこし不満気だ。まあ、約束なしの訪問は迎えるほうは大変だからな。ましてや王子だもんな。
「伯父上。エマはこのあと、忙しいのですか?」
「は・・・どうでしょう・・・」
「殿下。エマはこのあと夕食の当番ですが、それまでは特に忙しくありません」
答えられない侯爵様に代わって、アイリーンが答える。
「そう。それなら庭をエマに案内してもらってもかまわないかな」
「ええ。かまいませんわ。エマ、殿下を案内してさしあげて」
「はい。アイリーンさん」
侯爵様はもともと庭いじりに興味がないのか、この屋敷の庭園は屋敷を建てたときの庭師が作った庭園の形を維持しているようだ。花瓶に飾る用の花が一部に植えられているだけで、残りは常緑の低木ばかりになっている。
カルロ殿下と私は、屋敷の人間に話を聞かれないようになるべく離れた場所まで歩いていった。
「もう、このへんで大丈夫かな」
「そうですね。」
「何も変わりはない?」
「ゲイリーとバトラーが滞在しています。なんか、私を怪しんでいるみたいで・・・あ。ゲイリーたちの客間にしかけた石を回収しました。」
私が見えないように石の入った袋を渡すと、殿下もそ知らぬふりをして受け取る。
「石に何か入ってればいいのですが」
「エマ。たとえ何も石に入ってなくても気に病むことはない。伯父上の家にゲイリーが滞在してることが分かっただけでも充分だよ。私はね、自分が兄上の役に立てて嬉しいんだ」
「殿下は国王様を慕っているんですね」
「うん。私と兄上が異母兄弟のなのは知ってるよね。私の母上は王妃様に対抗心満々でね。ときどき母の目を盗んで庭でぼんやりしてるのが一番幸せだったな。」
殿下の子供時代は、常に国王様と比較されてきたのか・・・・でも、よくこんな穏やかな人に育ったよな。
私の考えを読み取ったのか、殿下がちょっと笑った。
「庭でぼんやりしているとね、いつも兄上が現れて“これをカルロとたべるようにと、ははうえがくれたのだ。いっしょにたべよう”と菓子をくれたりしたものだ。私の母上は、そんなことはしてくれなかったから、よけいに嬉しかったな」
王宮の庭園で、幼い王子ふたりがお菓子を食べる風景・・・国王様、今でも美形だからさぞかし子供の頃も美少年だったろうし、カルロ殿下も美形の部類だもんね。国王様に比べると地味なだけで。・・・想像すると、かわいいなあ。
「兄上が国王になったとき、誰よりもほっとしたのは私だよ。これで母上や伯父上からの重圧から解放されたんだから。私は今が一番自分らしい時間を過ごしていると思っているんだ。」
カルロ殿下は、葛藤することもあったはずなのに自分でこの境地にたどりついたんだろう・・・穏やかに笑うその顔からは、想像もつかないけど。
「ところでさ、エマ」
「はい」
「今度、休暇がもらえるだろう?」
「ええ。来週の水の日です。」
「伯父の家を出たら、まっすぐ私の滞在している家へ来るといいよ。」
「は、はあ・・・・」
殿下が滞在してるのは王宮所有の屋敷の一つなんですけど。
「私は留守だけど、エマが来たら通すように言ってある。ゆっくりくつろぐといい」
「え。殿下のお屋敷でくつろぐなんて無理ですよ。実家に帰ります。」
「エマ。これは兄上からの命令だから、逆らってはいけないよ?」
「う・・・わかりました。」
私がしぶしぶ承諾すると、カルロ殿下は満足そうに頷いた。
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前回のゲイリーと今回の殿下の小さい頃の話は
番外編をUPする機会があったら書いてみたいです。
次回は宰相視点です。
同じ提案を陛下からされた宰相側の話です。




