4.新しいメイド
ゲイリーの気持ち。の巻
ゲイリー視点です。
ブランジーニ侯爵家に入った新しいメイドは、髪と瞳の色は違うが顔立ちはエマ・アリンガムにそっくりだ。しかし、バトラーの質問には同じ名前の親戚はいないと言った。
本当だろうか?何か引っかかる。
こういうときは本人の履歴を調べてみるのが一番だ。
「新しく入ったメイドのエマについて、なにか分かったことはあるか?」
「はい。彼女はカルロ殿下の紹介でこの屋敷に来たようです」
「カルロ殿下の?」
カルロ殿下は侯爵の甥に当たる。陛下の異母弟だが存在感も政治力も陛下に比べて劣るし、何より本人が侯爵や自分の母親みたいに野心を持っておらず、陛下に劣っている自分をよしとしている。
現在は母親が側室になる前に相続した地所を受け継ぎ、趣味の読書を楽しむかたわら地味ながらも堅実に治めている。
はっきりいって私の後ろ盾である侯爵よりも領地の経営感覚は優れている。そのへんはさすが陛下と血がつながっているだけのことはある。
「なんでも、カルロ殿下のご友人のもとで働いていたそうなのですが、その方が高齢のため息子さん家族と暮らすことになり、カルロ殿下にエマの就職先を頼んだそうです」
カルロ殿下は、老人に好かれるタイプだ。そして頼まれて断れなかったのだろう。
「でも、ここは期間限定だろ?もっとも特に期間は決まっていないが」
期間は、ダニエラが陛下を篭絡するまで・・・もしくはこちらの計画がばれるまで。
「あ、それはですね。どうもあのエマは、半年後に結婚が決まっているようでして」
「おや。そうなのか」
「働かなくてもいいらしいのですが、少しでも結婚費用を貯めようということらしいです」
「それは本当なのかな。他人であんなに似るものか?バトラー、もう少し観察してみたほうがいいな。」
「そうですね。主、もし同一人物だったらどうしますか」
「そのときは、状況によって決めるしかないね」
もし、あのエマが彼女だったら。その場合はきっと、裏にあの男がいるだろう。
私はエマと、あの男を思い出す。男のほうはエマに女性としての好意を持っているが・・・エマは鈍いからなあ。まだ、口説けてもいないんじゃないだろうか。
それにしても、エマ・アリンガムとのやりとりは楽しかった。私を産んだ母は、“あなたの顔を見ると、私を捨てた男を思い出す”と言い育ててはくれたが、冷たい溝があった。
バトラーと知り合ったのは、私が15歳のときだ。もともと彼は父・バルフォアの部下で、王国を永久追放となった父について王国を去り、父の最期を看取った人間だ。
「あの男さえ余計な進言しなければ、あなたの父上・・・男爵は終生幽閉の罰は受けても爵位没収も追放もありませんでした」
バトラーには悪いが、正直、父が爵位没収・永久追放の罰を受けたのは自業自得だと思っている。しかし、息子がいることが分かったなら爵位くらい私にくれてもいいではないか。
そうすれば母だって私を蔑まなかったはずだ。
「ゲイリー様?」
「ああ。悪い・・・ちょっとエマとあの男の事を思い出していたんだ。」
「ああ、宰相閣下ですか。ところでゲイリー様は侯爵の計画は成功すると思われますか」
「バトラー。ずいぶん率直に聞くね。」
「あの方は裕福な野心家ですが、荒唐無稽な夢を持ちすぎのようです」
「確かに。まあ、逃げ道だけは確保しておくか」
「逃げ道ですか」
「私は荒唐無稽な野心家と共倒れになる気はないよ。計画が頓挫しそうになったら姿を消す・・・だけど、宰相閣下には一矢報いたいな」
「そうですね」
「そのときはエマを悲しませてしまうかな。あの生意気な口調は話してて面白かったが、今度は恨まれてしまうかもしれないね。でも、そのぶん私を忘れなくなるから、それもいいか」
決して好みのタイプではないが、印象深い彼女・・・。
私はそのとき、外を見た。
見たことのない馬車がとまり、侯爵が出迎えている。中から降りてきたのはカルロ殿下だった。
読了ありがとうございました。
誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。
ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!
”変態”ゲイリーの視点で書いてみました。




