2.緊張の再会
エマは決意を新たにする。の巻
この屋敷は、なぜか執事も料理人もいない。こんなに大きな屋敷なのに、屋敷内で働いているのはアイリーンとメイドのネリーだけだ。
じゃあ日々の食事はどうしてるのかといえば、ネリーとアイリーンが交代で作っているそうだ。
ネリーは王都で雇われたメイドで、侯爵領から来ているのはアイリーンだけというのも分かった。
私とネリーは同じ王都で雇われたもの同士ということで、互いにすぐ打ち解け、今は二人でリネン室の整理をしていた。
「どうして侯爵様は執事や料理人を雇わないのかしら。」
「侯爵様はけちなのよ。執事の役目はアイリーンさんができるし、料理も私たちが交代で作ればいいというお考えなの。部屋の掃除も使う部屋だけでいいとおっしゃるし」
なるほど。使わない部屋は、使うときに掃除すればいいってことか。合理的だな、侯爵。
「でも、ダニエラ様って私たちが食べるものが口に合うのかしら」
国王様が食べた私の料理を見て、嘲笑していたダニエラ様を思い出す。
「ダニエラ様の食事は別よ~。よそから取り寄せてるわ。侯爵様がいらっしゃると二人で食事に出かけるのよ」
「うわあ・・・贅沢ねえ」
「ほんとよね~」
しゃべりながらも的確に手を動かすネリーはメイドの鑑だ。私も見習わなくては。
「エマ。ちょっといいかしら」
アイリーンがリネン室に入ってきた。
「はい、なんでしょうか」
「これからお客様がいらっしゃるので、客用寝室の掃除をお願いできるかしら。2階にある続き部屋にお客様が入りますから」
「はい、わかりました。お茶の用意などはどうしましょうか」
「それはこちらで用意しますから。」
「はい」
私はネリーに断ると、リネン室を出た。もしかして、さっそくチャンス到来かもしれない。
自分の部屋にちょっと寄って伝達石の入った袋を取り出し、いくつか洋服のポケットにいれると私は掃除道具を持って客用寝室に向かった。
アイリーンから言われた部屋は、主にメイドや従僕を連れてくる人が使用するように作られた部屋のようだ。
主の部屋と隣の狭い部屋が、内側の扉でつながっていて外に出なくても内部で行き来できるようになっている。
前にも何度か使用したのか家具に埃は少なく、掃除はそんなに時間をかけなくてもよさそうだ。
「さて。どこがいいかなあ・・・」
とりあえず、掃除のときしか見ない戸棚の上とか額縁の裏とかがいいかなあ・・・私は試しに石を置いてみた。
部屋の掃除を終えた頃、アイリーンがいいタイミングで顔を出した。どうやら私の仕事をチェックしに来たようだ。
「きれいに掃除してあるわね。これならお客様も満足でしょう」
「ありがとうございます」
「もうすぐ、こちらにお客様がいらっしゃるの。出迎えに玄関に行きますよ」
アイリーンが私を呼びに応接間にやってきた。
「アイリーンさん、お客様ってどなたですか?」
すると、アイリーンはちょっと言いづらそうに口を開いた。
「侯爵様のお知り合いの男性です。いつも従僕を連れていらっしゃるの」
「そうなんですか。」
もしかして「変な人」だろうか。もしそれがゲイリーなら・・・私は思わず自分の髪の毛を確かめたくなってきた。
ここでトビーさんのかけた術がばれたら元も子もない。
私は緊張の面持ちで玄関に待機した。馬車の到着する音がして、誰かが降りてくる。
扉が開き、侯爵様の後に入ってきたのは・・・・ゲイリー&バトラーだった。
以前と変わらない冷たさが漂う態度、どこか周囲を見下した表情。やっぱり私、ロザリーはこの変態のどこがよかったんだかさっぱり分からない。
「さあ、ゲイリー。この屋敷でくつろいでくれ」
「ありがとうございます、侯爵様・・・おや?」
ゲイリーはなぜか私の前で足をとめた。な、なんなの??まさか、ばれた?いやまさか。
「どうした、ゲイリー」
「こちらのメイドは、この間はいませんでしたね」
「これはカルロの紹介で新しく雇ったメイドです。エマ、ご挨拶しろ」
「は、はいっ。エマと申します」
「エマ?ふうん・・・・私は同じ名前の人間を知っているよ・・・きみと少し似てるかな」
ゲイリーはそういうと、私をじっと見た。
「そ、そうですか」ひえー、もしかして怪しんでる??
「・・・でも、似てるだけだな。私の知ってるエマは地味な琥珀色の髪と瞳で、きみみたいな黒髪で緑色の瞳ではないし。何より、あれでも令嬢だしね。メイドなんかしないだろうな」
そういうと、興味をなくしたようでそのままアイリーンに案内されて客室に向かった。
あれでも令嬢って・・・誘拐されたときの態度のことか。地味な琥珀色で悪かったな・・・ゲイリー、最後に絶対一発くらわせる!!私は改めて決意したのである。
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ゲイリー&バトラーが再登場です。




