2.東屋に来たひと
噂の相手?の巻
3人のやりとりを楽しく聞きながら食器を片付けていると、こちらに歩いてくる人影が見えた。
「セオ様、どなたかこちらに向かっております・・・女の方のようです」
私が声をかけるとセオ様はちょっと顔をしかめた。
「ハル。ここにお前の他に誰か来る予定があるのか?」
「いや。母上は視察で離宮から出かけているし。」
自然と国王様が身構え、ラルフも緊張感を漂わせる。セオ様は私を隠すように立ち上がった。
到着した女性は艶やかな茶色の髪の毛を流行の形にまとめ、濃い紫色の瞳。すごい美人だ。
「陛下が、こちらで昼食をとっていらっしゃると聞いて、わたくしもご一緒したくて来てしまいましたの。でも遅かったようですわね。」
「なんだ、来る予定なら連絡してくれれば出迎えたのに」
そういうと、国王様はその女性の手をとった。
も、もしかして・・・この女性が噂の“恋人”ってやつ??うわー、帰ったらアルテアさんたちに話さなくちゃ。
私はセオ様の後ろで、どきどきしながらやり取りを見ていた。
「陛下、そちらの女性はどなたでしょうか」
セオ様は内心面食らっているはずなのに、とても冷静に聞いている。
「ああ、セオにはまだ紹介してなかったね。彼女はダニエラ・ブランジーニ。建国記念舞踏会のときに一緒にダンスをしてね。」
「ブランジーニと申しますと・・・」
「ブランジーニ侯爵はわたくしの伯父ですの。あなたがキンケイド宰相閣下ね?よろしく」
「初めまして、ブランジーニ様。」セオ様が会釈をした。
「陛下は、どのようなものを召し上がったんですの?」
国王様が食べた料理をつたえると、ブランジーニ様は声をあげて笑った。
「まあ・・・全部庶民の食べ物ですのね」
「私はこういう食事が好きなんだ。宰相の婚約者が作ってくれたのだよ」
「そういえば宰相閣下の婚約者は貴族ではないとか。よく公爵家が許可しましたわね」
ブランジーニ様は意外だという口ぶり。
二人の様子を黙って見ていたセオ様は「陛下、私はそろそろ戻らないと。午後は少し遅れてもかまいませんので、ごゆっくり」そういうと、片付け終わった私とラルフを連れてその場を離れた。
宰相室に到着すると、セオ様はラルフに少し休憩しておくように言ったので、二人きりになった。
「エマ。不愉快な思いをさせてすまない」
「なんともありません、あれくらい」
確かにちょっとカチンときたけど、一般的な貴族って庶民にはああいう対応だし。私の身近にいる貴族の人たちの対応のほうが珍しいのだ。
「そうか。エマ、私はあんな人間には絶対にうちの敷居をまたがせないからね」
「セオ様。大丈夫ですから・・・それにしても美しい方でしたね」
「私の好みじゃないな」
「セオ様の好みは聞いていません。一般的な意見です。あの方が、国王様の恋人なんでしょうか」
「ハルの恋人?なんだそれ」
「国王様に恋人ができたと噂が流れているんですよ。ご存知ないですか?」
「あ、そういえばラルフがそんなこと言ってたような。でも、あの女性なのか?」
「そういうのはセオ様のほうが詳しいじゃないですか」
「そりゃそうだけど。あ、そろそろ屋敷に戻らないといけないな」
時計を見ると、確かにちょっと長居をしすぎたようだ。
私は荷物を持つと、「それではセオ様。ここから先はわかりますから」とお辞儀をして部屋を出ようとした。
「エマ。送るよ」
「いいえ。ここで大丈夫ですから」
「うん、だから・・・」そういうと、セオ様は私の体を抱えあげた。またお姫様抱っこか!!
なにげに気に入ってないか?セオ様。
「え?ええーっ??」
「ここから移動魔法で屋敷の図書室まで送るよ。ほら、もっとくっつかないと」
「セオ様、重いですから!!」
「エマは重くないし。それに・・・」
「それに?」
「これから先、これが出来ないと困るだろう?」
私が何で?という顔をすると、セオ様は「ま、今は意味がわからなくてもいいけどね」とにっこり笑った。
その顔は・・・・まるで大好物を前にした子供の顔だった。
読了ありがとうございました。
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最後はちょっとラブラブな感じで。
しかしなぜR15にたどり着かないのだろう・・・




