6.その手をとること
エマ、認める。の巻
後夜祭の夜、当主様に連れられて私は家を出た。建国祭のなかでも前夜祭と本祭のときは夜中まで屋台が出て、どこもかしこも遅くまで賑やかなんだけど、後夜祭になると一転雰囲気がロマンチックになって、夜の散歩を楽しむ人や広場でダンスパーティーに参加したりする。
二人で夜の道を歩いていくと、いかにも恋人同士な人たちとすれ違う。
「ねえ、エマ」
「なんでしょうか」
「今日は私のことをセオって呼ばないか?この状況で当主様って変だろう?」
「え、そうですか?」
「エマ、セオって呼んでごらん」当主様が私に笑いかけてきた。
呼んでごらんって言われて、急に呼べるわけがないのに・・・・
「と、当主様」
当主様は聞こえないふりをする。
「セ、セオ・・・・様」
「様はいらないんじゃないか?」
「いきなりセオなんて呼べません。」
「しょうがないなあ。今日はそれで我慢してあげるよ」
なぜか上から目線で言われてしまった。それに“今日は”って当主様は言うけれど、これから先私が当主様を“セオ”と呼ぶ日が来るのかな。あ、でも神様が言うように、当主様が運命の相手なら・・・・
「エマ、どうした?」
「へっ?あ、何でもありません。あの、セオ様。どちらへ行かれるのですか?」
この方向は広場とは違うし・・・・どうみても屋敷の方向だけど。
「ん?屋敷。」そういうと、当主様は私の手をぎゅっと握って自分に近づけた。
「セ、セオ様!!」
「はぐれないように、ちゃんとつないでないとね」焦る私に対して余裕の当主様。
当主様・・・広場と違う方向なので人はまばらです。間違っても迷子になんかなりません・・・。
屋敷の庭は、月明かりでほんのり明るく、静寂さに包まれていた。花の香りが気のせいか昼より漂っている気がする。
そういえば、屋敷の庭って昼間はたまに散歩したり頼まれて花を切ったりしているので見慣れているけど、夜の庭は初めてだ。
「セオ様、静かですね」
「そうだろう?たまに仕事から戻ってくると少し歩くことがあるんだ。」
「そうなんですか?よく怪しい人だと思われませんでしたね」
「・・・・あのねえ。ま、いいか」
「エマは庭を隅々まで歩いたことはある?」
「いえ・・・。花壇を見るくらいです。」
「じゃあ、庭に東屋があるのは知らないだろう」
「え。そんなのあるんですか。」
「そこには明かりもあるから、歩いていこうか。」
「はい」
東屋に到着すると、当主様はさっそく明かりをつけた。二人でテーブルを挟んで向かい合わせに座る。
当主様が黙っているので、私もなんとくなく黙る。それにしても、こんな場所があるなんて、全然しらなかったよ。ここからだと屋敷が見えないんだなあ・・・
私は、ぼんやりと考え込んでいて、いつのまにか自分の目の前に当主様が来ていたことに気がつかなかった。
「エマ」
声をかけられて顔を上げると、当主様が目の前にいた。
「は、はいっ」私も思わず立ち上がった。すると、今までにないくらい顔が近づく。
「あ、すみませんっ。ちょっとぼんやりしてました」私が遠ざかろうとしたら、当主様が私の手をとった。
「セ、セオ・・・様?」
「エマ、私の妻になってくれないか」
神様に「ほら!!ここが決断のときよ!!」って言われている気がした。最初の出会いは微妙だったけれど、そばで働くようになって私の心に当主様が入り込んでくるようになった。気がつけば、いつも当主様のことを考えていたんだ、私。
うん。私はセオ様を運命の相手だって認めるよ、神様。
「エマ?」当主様が、心配そうに私のほうを見る。
「セオ様。私でよろしいんですか?私は貴族ではありませんし、美人でもありません。」
「私はエマがいいんだ。それに誰も反対なんかしない。むしろ大歓迎だよ」
当主様が私を腕の中に引き寄せる。私はその心地よさに目を閉じた。
読了ありがとうございました。
誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。
ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!
よ、よかった~。
やっと進展しました!!
第5章に入るか、閑話を入れるか考え中です。




