5.建国祭
屋台と当主様。の巻
建国祭が始まり、いつものように店を手伝う時間まで屋台をうろうろすることにした。
「あら!エマちゃん!」そうやって声をかけてくれるのは、タコのから揚げに甘辛いソースをかけた料理が抜群に美味しい屋台のおばちゃんだ。
「あ!おばちゃん!!一つちょうだい!」
このおばちゃんは、私が子供の頃から屋台のときだけタコのから揚げを出しており、現在は屋台の仕切り役でもあるらしく新規の屋台や調理担当が変わった屋台、おすすめの屋台などを教えてくれる私にとっては屋台の師匠とも言える人なのだ。
「はいよ!揚げたてだからヤケドしないようにね」そういうと、紙の器にぶつ切りにしたタコのから揚げにたっぷりと刻みねぎの入った甘辛ソースをかけてくれる。
おばちゃんの屋台の隣には座れるスペースが少しあるため、そこで今年の屋台について聞きながら食べていく。
タコのからあげは外の衣はカラッとしていて中身のタコは柔らかい。ソースの具合もすごくいい。
「おばちゃん、やっぱり美味しいよ。これを食べると建国祭が来たって思うよ」
「嬉しいことを言ってくれるわねえ。でもエマちゃん、食い気ばっかりでいいのかい?」
「ん?いーのいーの。」
「やっぱり、あれかい?皆エマちゃんの家にびびっちゃうのかねえ」おばちゃんのタコのから揚げは家族がそれぞれ空いてる時間に買っているので、家族全員と顔見知りだ。
「んー。どっちかと言うと、アリンガム家だと分かると、擦り寄ってくる人が多くてさあ、ちょっといやなんだ」
「なるほど、そりゃあ嫌だね」
おばちゃんといつものように屋台談義をしていると、そこに「私にも一つもらおうかな」となんだか聞き覚えのある声がした。
横を見ると、当主様が立っていた。
「当主様!!今日は仕事じゃなかったんですか」
「少しだけ時間を作った。アリンガム殿に後夜祭の話をしにいったら、屋台を楽しんでいけといわれてね。エマが最初に立ち寄る屋台を教えてもらったんだ」
「エマちゃん、彼氏かい?」おばちゃんが楽しそうに私に聞いてくるけど・・・
「え、えーっとね」私が答えに詰まっていると、当主様が脇から「これから彼女を口説こうと思ってるんだ」と口を出してきた。
「はあああっ?」困惑する私をよそに、なぜか盛り上がっている当主様とおばちゃん。
「・・・・まあ、あんたならエマちゃんによさそうだ。これから二人でデートなんだろ?エマちゃんも内緒にしてたなんてひどいじゃないか」
「ち、違うよ。おばちゃん!!」私も驚いてるんだよ!!デートなんて聞いてない!!
「エマちゃん、彼氏のほうに新規の屋台と今年のおすすめを教えておいたからさ。楽しんできな」
おばちゃんは、何かを誤解したまま私と当主様を送り出してくれた。
当主様は屋台が珍しいらしく、きょろきょろと楽しそうだ。まあ、確かに貴族は、ああいうざっくばらんな口調で話しかけられることや屋台を食べ歩くなんてしたことないだろうな。
「当主様、楽しそうですね」
「うん。何しろ屋台は初めてだからね。エマ、あそこの屋台はいい匂いがするね」
「あ。あそこのオレンジロールは美味しいんですよ。私、ちょっと買ってきますから当主様はここで待っててください」
私が走っていこうとすると、当主様が私の手をつかんだ。
「エマ。私たちはデート中だよね」
「デートなんて聞いていません。おばちゃん、誤解したままじゃないですか」
「誤解じゃないからいいんだ。ここは二人で行かないと意味がないだろう」
「手を離していただけませんか」
「離す意味がないね。」当主様は私の手を握る力を強めた。
その後、当主様が立ち食いはまずかろうと思ったので、屋台でおばちゃんのおすすめである“スパイスに漬け込んだ鶏肉の炭火焼”と“白身魚とたまねぎ、トマトのチーズ焼き”、私のお気に入りであるオレンジロールを買い込んで、アリンガム家で食べることにした。
「エマ、今度お昼か夕食にこれを作ってくれないか?」
「同じものができるかわかりませんが、それでよろしければ」
「うん。エマの特製が食べたいな」
「わかりました」
私が売店に立つ時間になるころ、ラルフから当主様に戻るように連絡が入った。
「それではエマ、後夜祭にまた会おう」当主様はそう言ってにっこり笑って移動魔法で消えていった。
読了ありがとうございました。
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「魔道士」に引き続き屋台出しました。
引き続きの読者様は読み比べるのもありかも・・・
次回こそは二人を進展させるぞ~
おー!!




