4.夜の台所
建国祭と当主様。の巻
私とテッサは休憩時間が久しぶりに一緒になったので、台所でのんびりしていた。話題は自然と、もうすぐ開催される建国祭の話になった。
なんでも800年前のこの時期に初代国王様が建国宣言を行ったとかで、町の中央部にある公園にはその旨を記載している石碑が建っている。
祭は前夜祭と後夜祭を併せて3日間開催されて、仕事も休みになることが多く、公爵家も祭り期間は一斉休暇が決まっている。
「もうすぐ建国祭ね。エマもデートとかするの?」テッサがお茶を飲みながら聞いてくる。
「そんな予定はないよ。実家が毎年出店を出してるから、その手伝いだよ。それが終わるともう気力も体力もないから家でのんびりしてる。」
「ええっ。後夜祭のダンスに行かないの?」
「あー、そんなのあったねえ・・・・」
実は独身で特定の恋人がいない男女にとって、建国祭というのは出会いの場でもある。
「あー、そんなのあったねえ・・・じゃなーいっ!!ねえ、まさかエマって建国祭のときずーっと実家の手伝いしてたの?」
「まさか。ちゃんと祭を楽しんでたわよ。出店を手伝うまで屋台めぐり。祭のときしか食べられない限定ものを食べまくってたわよ。」
「・・・・エマ。なにその枯れぐあいは。・・・まあ、当主様からすると安心でしょうね」
私は最後にテッサが言ったことが引っかかった。
「テッサ、なんで私が枯れてると当主様が安心するのよ」
するとテッサは「そんなの当主様に聞きなさいよ。さあ、休憩時間が終わるわよ」と言い席を立つ。私もつられて席を立った。
夕食の時間が終わり、私は食器の片付けと朝食の仕込みをしていた。当主様は仕事が忙しいらしく、夕食はいらないとピエルさんから聞いた。
「それにしても、私って枯れてるのかしら・・・」食器を片付け終わり思わずポツリと独り言を言ったところ、後ろから「枯れてるって何が?」と声をかけられた。
びっくしりて振り向くと、そこにはちょっと疲れた顔をした当主様が立っていた。
「おかえりなさいませ、当主様。」
「ただいま、エマ。お茶を一杯くれないか?」そういうと、台所の椅子に座る。
私がお茶を差し出すと、「ありがとう」と当主様はおいしそうに飲む。
「当主様、お疲れのようですね」
「んー、ちょっとね。さすがに長時間書類やら伝達石やら確認してるとしんどい」
当主様が思いっきり伸びをする。
「当主様。夜ですから、あまり重いものは出せませんが・・・」私は生野菜のサラダと小さな丸パンを追加で出した。
「ありがとう、いただくよ。ところでエマ。さっきなんで枯れてるって言ってたの」
「あ。それは・・・・」私はテッサとのやりとりを話した。
だけどテッサの言った“私が枯れてると当主様が安心する”というのは言わなかった。
「そうか、もうすぐ建国祭か・・・エマは、店の手伝いを終えたあとは家でのんびりしているだけかい?」
「そうですね。」
「それじゃ、後夜祭のとき私と出かける気力はない?」
当主様が真面目な顔をして私を見つめた。
どうしよう。なんて答えればいいんだろう・・・
「え。当主様、祭のときは王宮で記念舞踏会が開かれるって両親から聞いたことがあるんですけど、そちらに出席ではないんですか?」
「私はここ数年参加してない。もっぱら宰相室で仕事だ」
どんだけ仕事好きなんだ、宰相閣下。
「そうなんですか。」
「だけど、今年は祭を楽しもうかな・・・エマと一緒にね。エマ、前夜祭と祭はちょっと私も仕事が忙しくて無理だが、後夜祭には迎えにいくからね。」
「そ、そんなこと言われても。家にいきなり当主様が来たら皆びっくりします」
「大丈夫。アリンガム殿には話しておくから。じゃあ、エマ」
なぜか当主様が私の手をとった。
「は、はい・・・」
「後夜祭は誰に誘われても家にいてくれ。約束だ」
そういうと当主様は、私の顔に近づいて耳にキスをした。
「な、なななにすんですか!!」
「何って、耳にキス。エマは耳が弱いのか・・・なるほど」
いつのまにか当主様はサラダもパンも食べ終わっていたらしい。「ごちそうさま、美味しかったよ」そう言って、当主様は台所から消えた。
あとに残された私は、耳を押さえて座り込んだまま動けなかった。
読了ありがとうございました。
誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。
ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!
当主様が少し積極的に。




