1.キンケイド家使用人会議
台所で密談。の巻
※この話はメイドのキュカ視点になります。
誘拐されていたエマさんが2週間ぶりに戻ってきた。でも、すっかり髪の毛が短くなってしまいそれを見たテッサさんはエマさんに抱きついて泣いていた。
エマさんもテッサさんを抱きしめて涙ぐむ。私やアルテアさんも、泣いてしまった。この国では、女性の髪形は別に決まっていないけど圧倒的に肩より長い人が多い。短い髪の毛の人もいるにはいるけど、王宮に勤める女性騎士様くらいしかいないだろう。
「他言無用」と当主様に言われて、エマさんが戻ってくるまでは皆平常どおりに働いていたけど、やっぱり夕食の時間になると皆で休暇になったら町を探しにいこうとか話していた。
その矢先に、無事に戻ったことを聞かされてほっとしたけれど・・・・。
短髪のエマさんにも慣れ、ようやく屋敷が以前のようになってきた。そして、私たちはエマさんが当主様の部屋で夕食の給仕をしている間、こっそりと集まっている。
場所は台所。参加者はピエルさん、アルテアさん、テッサさん、私だ。
「アルテア、私たちをエマに内緒で集めるなんてどうしたんだい?」ピエルさんの疑問はもっともだ。
「今日集まってもらったのは、当主様とエマのことについてなの。あなたたちはあの二人を見ててどう思う?」
「どうって言われても」ピエルさんは困惑しているけど、私とテッサさんはすぐに合点がいった。
なんというか・・・・当主様とエマさんは互いに惹かれあっているはずなのに、もどかしいのだ。
当主様が「エマを迎えに行く」と言って屋敷を出られたとき、アルテアさんは「やっとセオ様が行動を起こしたわ。」と言っていたのだが、戻ってきた二人を見て恋人同士っぽくないのを見てがっかりしていた。
「もう、ピエルは黙って聞いてるだけでいいわよ。」
「アルテア。セオ様は大人なんだから、干渉するんじゃないよ。」
「そんなことは分かっています。でも、使用人たちが意見を一致させておくことは後押しになるかもしれないじゃないですか。テッサ、キュカ。あなたたちは、エマが公爵夫人になることに賛成かしら」
ああそうか・・・当主様は公爵様でもある。一方のエマさんは裕福な家の出身だけど庶民。日常生活で感じることはあんまりないけど、この国にはうっすらと身分差が残っている。
それが顕著に出るのが結婚で、ほとんどは同じような生活レベルの人間同士で結婚している。
でも、エマさんが公爵夫人になることに反対しないし、違和感もない。もしそうなったら、私は精一杯お世話をする。
「テッサ、キュカ。どう?」
「私は賛成ですよ。エマが公爵夫人になったらこの屋敷はますます楽しくなりそうですし。だいたい、本人は普通に台所に立って料理をすると思います」
テッサさんはあっさりと賛成する。
「私も賛成です。もしそうなったら、私、精一杯お世話します。それに、テッサさんも言ってますけど、エマさんはきっと公爵夫人になっても朝早くに台所に立っていそうです」
「キュカ。朝は無理かもしれないわよ」テッサさんがなぜかニヤリとし、アルテアさんもちょっと顔を赤らめながらうなずいた。
「え?」
「まだキュカはお子様だから察せないか~。そうねえ、昼食と夕食は作れるんじゃないかな。当主様も仕事でいないだろうし」
「あ・・・」私もそれで察して、顔が赤くなる。そ、そうだよね。そっかあ・・・私もまだまだだわ。
「三人とも、いい加減にしなさい」ピエルさんにちょっと怒られてしまった。
結局ピエルさんも、エマさんが公爵夫人になることに反対する理由はないため、満場一致で「エマさんと当主様の結婚に賛成」ということでまとまった。
その後、エマさんが戻ってきて、台所に私たちがいることに驚き「何かあったんですか?」と聞いてきたけど、「「「「なんでもない」」」」とごまかしたのだった。
不思議そうなエマさんを見てると、なんか笑いがこみあげてきちゃう。テッサさんに「キュカ。顔に出すとエマに問い詰められるわよ」と小声で言われ、私はあわてて表情を引き締めた。
お二人はいつ結婚するのかなあ・・・その日が早くくるといいのに。
読了ありがとうございました。
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第4章です。
第3章が、カテゴリーに記載している「ほのぼの」「のんびり」とは
ちょっと違っていたので、第4章はほのぼのさせたいです。




