9.因縁の相手
過去の出来事。の巻
長文になります。
ご了承ください。
「エマを誘拐した人間がわかったよ」
図書室に現れたトビーの言葉に、俺やアリンガム殿は色めきたった。
「トビー、誰だ」
「ゲイリー・バルフォアだ。バルフォア男爵の息子だな」
「バルフォア男爵に息子がいたのか」
「息子って言っても、認知はされてるけど一族として記載されてない。誰が引っ張り出してきたんだか・・・そっちのほうも興味があるね。」
「バルフォア男爵か・・・そうなると、そいつの標的は俺か」
「いや、セオだけじゃない。ハルと俺だって関わりはあるさ」
俺たちの話を黙って聞いていたアリンガム殿がそこで初めて口を開いた。
「キンケイド様、ブランデル様。バルフォア男爵というのはあの窃盗団の・・・」
「そうです。私が男爵を王国から永久追放しました」俺はあの頃のことを思い出した・・・。
いまから10年前、貴族や裕福な市民を狙った窃盗団が王国内を荒らしまわっていた。当時はまだ前国王も健在で、ハルは王太子だった。俺はハルの秘書兼護衛として王宮に仕え、トビーもまだ魔道士として働きだしたばかりで、3人とも今より自由に行動できていた。
国王は政治手腕も悪くないし人柄もいい。しかし、常に抵抗勢力との争いがあり宰相である俺の父ともども苦労していた。
そこに窃盗団の話だ。国王は自分の代理としてハルにその討伐を命じたのである。
俺たちはまず、被害者たちを調べることにした。窃盗団は金品だけではなく、その家の主人を殺すか、家の人間に怪我を負わせて立ち去っている
渋る被害者に話を聞きに行くと、窃盗団の共通点がわかってきた。
まず、被害は何かしらのパーティーが催された夜が多かった。そこで招待客を調べてみると、どのパーティーでもバルフォア男爵が被害者宅に宿泊をしていることが判明した。
どのパーティーにも参加している人間は他にもたくさんいたが、宿泊までしていたのは男爵ひとり。
俺たちは男爵のことを調べ始めた。 バルフォア家は、もともと地方領主で、3代前の当主が戦場で武勲をあげたことから男爵の位を授かった。この初代と2代目まではバルフォア家も安泰だったのだが、2代目が早世し親戚筋の人間が3代目・・・つまり現在の当主になったあたりからおかしくなっていた。
財産を食いつぶした3代目は賭博にはまり、借金で首がまわらなくなっていた。ところがある日突然金回りがよくなったようで、再び社交界に顔を見せている。その金回りが良くなった時期がちょうど窃盗団が王国内を荒らしまわり始めた頃と一致していた。
「それにしても。初代は武勲をあげたというが、この男はそんなかけらもないな。」
ハルは調査結果につけてあった男爵の映像を見て鼻で笑った。確かに男爵は細身で剣なんか一度も握ったことはなさそうな体つき。整ってはいるが冷たい眼をした男だ。
「男爵は軽妙な話がうまい伊達男として社交界ではそれなりに人気ある。少しばかり軽率な奥方や娘が気に入ってる場合が多いな。」トビーは社交界に対してはいつも冷ややかだ。
「一番手っ取り早いのは現場を押さえることだ。たぶん、目当ての家に宿泊して内側からドアを開けることと内部を把握して窃盗団に金品のありかを教えてるんじゃないだろうか」俺は自分の推測を二人に話す。
「ああ。それならこの男でもできるかもな」トビーは合点がいったといった顔をした。
「よし、現場を押さえるか。トビー、近いうちに男爵を気に入ってる奥方がパーティーをする家があるかどうか調べてくれないか」ハルが方針を決定した。
その後はあっけないくらいに物事が進み、窃盗団は自分たちは絶対に捕まらないと舐めきっていたようだ。トビーが特定した家のパーティーに顔を出した男爵は俺の推測どおりの行動をし、一旦帰ったふりをして隠れていた俺たちに取り押さえられた。
窃盗団は異常を感じて逃亡したが、王宮の騎士や魔道士ともに追跡し全員捕縛に成功した。
メンバーのほとんどは死刑となり、男爵も同様だった。当初、貴族たちから男爵は実際の盗みには加担していないのだから、爵位そのままで終生の幽閉でいいのではと国王に意見が出された。
しかし俺は、男爵が自ら進んで窃盗団に加わった事実と傷ついた人も多いことを考えると財産と爵位没収のうえ永久追放しかないだろうと進言した。国王は俺の意見を聞き入れて男爵に永久追放の判決が下されたのである。
「あの事件は貴族が加わっていたことで騒ぎが大きくなりましたよね。」
アリンガム殿が当時を思い出したようにしみじみと言った。
そこにラルフが部屋に飛び込んできた。
「皆さん!エマが閉じ込められてる場所がわかりました!!」
「本当か!どこだ、それ!!」
トビーが急いで王都の地図を広げた。ラルフはそれを見てある一点を指した。
「ここです」
「ん?ここって、男爵が前に住んでた屋敷じゃないか。」トビーが驚く。
「そうなのか?」
「ああ。でも男爵が永久追放になってから、住んでる人がいなくて荒れ果ててたはずなんだが・・・やっぱりだれか裏にいるな」トビーが俺の問いに答えた。
「エマを救出するときに、ゲイリーを捕らえられればわかるな」
「セオ、いつやる」
「今から行く。トビーつきあえ。ラルフは疲れてるから休んでていいぞ」
「いやですよ!!僕も行きます。あ。国王様には知らせますか?」
「知らせないつもりだったのかい?」
「「ハル!!」」俺とトビーは驚き、ラルフとアリンガム殿はあわててお辞儀をした。
「二人とも、俺を置いていくってのは気に入らないね。それにしても便利な魔方陣だ。エマが戻ってきたらここに食事をしに来ようかな」
「・・・・ハル。お前は国王だぞ。むやみに外に出ると危険だ」
「セオ。俺は王宮にこもりっきりの王様になったつもりはないのはわかってるだろ」
「・・・ハルがそんな王様になるなんて、俺も嫌だな」トビーまでハルの味方かよ・・・。
「わかりましたよ、陛下。その代わり帰ったら大量の仕事をこなしていただきますよ」
俺は言葉ではハルを叱ったけど、本当は嬉しかったのだ。
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すいません。
削ったのですが、長文になってしまいました。




