5.エマと誘拐犯たち-3
エマがリボンにこめたもの。の巻
「主さん、私の髪の毛をどうするんですか?」
「これかい?これは今から宰相閣下に送ってさしあげるんだよ。あなたの大事な女性は私の手の中ですよってね」
私が当主様の大事な女性だと大いなる誤解をしている主は人の髪の毛を鼻に近づけてかぎ始めた。うぉ~変態だ!変態がいるっ!!
「君の髪の毛はさらさらで艶があって、野の花のような香りがする。香水くさくないのは私の好みだよ」
「ソレハヨカッタデスネ」思いっきり棒読みで応対してやったら、なぜか楽しそうに笑う主。
私の髪の毛は、顔の近くのがごっそり切られてしまった。ああ、横がスースーする。耳が丸見えじゃんか。
恨めしげに睨むと、主は「髪の毛だけにしておいてやったんだ。顔に傷はついてないだろう?」などとサラリと言う。
「この髪型、変ですよ・・・それと主さん。それ、そのまま当主様に送るんですか。せめてリボンでまとめるとかしてくださいよ。何か布があれば、私が作りますから。そのままの髪じゃ私の髪だと分かってもらえないと思いますし」
「ふむ・・・この髪の毛はたしかにありふれた色だからな。おい、バトラー」と主はバトラーを呼んだ。
ありふれた髪の色で悪かったな。お母様と同じ色で私は気に入ってんだよ、この変態。
バトラーが何色か端切れを持ってきたので、私はその中から黒の端切れを手にした。裁縫セットから同じ色の糸を出して、ちまちまと縫い始める。主とバトラーはこっちを見ていない・・・私は密かにリボンにメッセージを縫った。当主様はともかく家族は気づくはずだ。
「エマ 無事 ロザリー 原因」・・・・ロザリーと言う名前に家族が反応してくれるといいけど。
「終わったか?」
「はい。終わりました。私の髪の毛なんですからリボンも結ばせてくださいよ。私が小さい頃にしていた結び方をすれば、家族なら分かりますから」
私がそういうと主はちょっと考えて、私に髪の毛の束をよこす。私は二人の見ている前でリボン結びをした。
「リボンと髪の毛を絡ませるのか」
「昔、こういう髪型をしているお姫様の絵本をみてマネしていたんですよ・・・はい、できました。先をさわると解けるんで、固く結んであるほうを持ってくださいね」
メッセージは毛先のほうにくるように結んだ。頼むから、ちゃんと固いほうを持ってくれ~。
バトラーはきちんと固いほうを持ち、封筒に入れた。そこに主がメッセージカードも入れて封をした。
「あとは、これをあのメイドに王宮の宰相室に届けさせればいいか。さっそく呼びつけるか」
そう言った主がにやりとした。
あのメイドって誰だろう?なんてとぼけたことは言わない。あの日、ロザリーに裏路地に連れて行かれて、ここにいる。
でも、王太后付のメイドであるロザリーは王宮の外に出ることはめったにないはずだ。いったいどこで、この変態主と知り合ったんだろうか。
私の疑問が例によって顔に出ていたんだろう。主は私のほうをみると、「これを届けさせるメイドは、どうやらきみのことを憎んでいるようだ。心当たりはあるかい?」と聞いてきた。
ロザリーが私を憎んでる?・・・・学生時代は見下されてて、親しくなかったからわかるわけがない。
「心当たりがありません。」
「ふうん。そうか・・・じゃあ、あのメイドが一方的に憎んでいるわけか。面白いな」
「はあ」
私は、リボンに縫ったメッセージに当主様と家族が気づいてくれるように願った。
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次回、宰相閣下視点です。