2.エマと誘拐犯たち
エマの居直り。の巻
「あの~、聞いてもいいですか」私は「主」に話しかけた。
「いいよ。どうぞ」主がやっぱり面白いものを見るように私を見る。
当主様と最初に会ったときも、なんだか人のこと面白そうに見てたけど、そんなに面白いかなあ。貴族のお嬢様ってやっぱり皆ロザリーみたいにどんなときも取り澄ましてるのかしら。
「エマ嬢。君の思っていることはダダもれだねえ。」
「はあっ?」
「貴族の令嬢はね、たいていどんなときも表情を崩さないのさ。我慢できないときは持ってる扇で顔を隠す。庶民の娘さんたちは分かりやすくていい」
「む。バカにしてます?」
「してないさ。でも、エマ嬢はそのなかでも面白いけどね」そしてやっぱり、くくくって笑う。
私と主のやりとりを、中間管理職は驚きの目でみている。
「それで、聞きたいことってなに?」
「あなたとそちらにいる人の名前は教えてもらえないのですか?用があるときに名前を呼ばないのは失礼でしょう?」
意外な質問だったらしく、「主」と中間管理職は目を見開いていた。私は半分居直っていた。当主様と実家は私が誘拐されたと知ったら絶対助けてくれる。だったら殺されないように、生き延びなくちゃ・・・そのためにはここでの生活を踏ん張らなくてはいけないんだ。
ぜーったい、こいつらの前ではおびえたりするもんですかっ!
「・・・・きみさあ、誘拐されたって自覚ある?」
「ありますよ。でもすぐに殺されるんならともかく生存してるんですから、ここで生活しなくちゃいけないんですよね。いろいろ聞きたいことはあるけど、まずはあなたたちの名前です」
二人は顔を見合わせて、小さい声で話し始めた。「なんであんなに腹が据わってるんだ」とか「やっぱりまだ自分が誘拐されてるって自覚がないのでは」とか時折もれてくる。
二人は私のほうに向くと、主が口を開いた。「・・・名前を教えるわけにはいかない。しかし、まあ不便だというきみの言い分もわかる。私のことは主、この男はバトラーと呼んでくれ。」
「わかりました。主にバトラーですね。それでですね、まだ聞きたいことがあるんですけど」
「なんだい?」
「あと、部屋に窓がないと息苦しいんですけど」
「・・・・わかった。確かにここは息苦しいな。窓のある部屋にしてやろう。でも、窓の風景で場所を特定しようとか思わないように。」
ちっ。ばれたか。でも、窓から風景くらい見てもいいじゃないか。
「わかりました。あと」
「まだあるのか」
「お腹すいたんですけど、もしかして飢え死にさせる予定ですか。それと、私のバッグ・・・」
「きみのバッグはここに持ってきた。あやしいものが入ってないか調べていたのだ。それから飢え死になんてさせる予定はない。すぐに食事を用意させるから待つように」
「無断で人のバッグを見るなんて!!壊してないでしょうね。このバッグ、すごく欲しくて並んで買ったんだから。食べ物以外で並んだのなんて、これしかないのよ」と私が文句を言うと、主はバトラーに「おい、ほんとうにあれはエマ嬢か?もっとおとなしくて家庭的っていう話じゃなかったか?」などと失礼なことを言っている。
おとなしく家庭的・・・そんなイメージだったのか私。
主とバトラーが部屋を出て行き、私はまた一人になった。
自分の側においてあるバッグの中身を確かめた。財布、ハンカチ、化粧道具袋、裁縫セット・・・見た感じ、欠けたものは一つもない。バッグも壊れてない。
「中身は無事ね。あとは窓のある部屋に早く移動したいよなあ・・・周囲が壁ばっかりなんて息がつまってしまうわ。」
今頃、屋敷と実家は大騒ぎになってるんだろうな。私、生きてここから出られるかな。
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次回は宰相閣下の様子になる予定です。




