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宰相閣下と行儀見習の娘  作者: 春隣 豆吉
第2章:周囲にはいろいろな人がいる
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5.前公爵夫妻がやってきた!

公爵家、お約束のやり取り。の巻

 今日は朝から公爵家の屋敷では大掃除だ。なぜなら普段は別宅で過ごしているか旅行三昧の前公爵夫妻が久しぶりに本邸にやってくるからだ。

 来たばかりの頃は、普段から家政婦のアルテアさん指揮の下、塵一つ見当たらないくらいぴかぴかの屋敷なのに、これ以上どこを掃除するというのだろう・・・などと思っていた。

 しかし、私の認識は誤りだった。アルテアさんは「さあ。皆、一斉掃除に取り掛かりますよ!!」と号令し、私をふくむ使用人たちに担当箇所を言いつけ床の隙間、家具の飾りのちょっとした曇りなどの徹底清掃を命じたのである。

 当主様もアルテアさんから「セオ様はご夫妻が戻ってくるまで、王宮でお過ごしください。30分前にはピエルが迎えに行きますからね。それから机の上をきれいにしておかないと、捨ててしまいますからね!!」と叱られ「アルテアは本当に捨てるからなあ・・・エマ。手伝って」と私に命じ、二人かかりで机の上も本棚の中もきれいにしたのである。

 その後、当主様はアルテアさんに言われたとおり迎えがあるまで王宮で過ごしていた。


 当主様を追い出し、使用人総出で大掃除をした屋敷は・・・窓ガラスはぴかぴか、じゅうたんはふかふか。リネン類は白さがまぶしい。床と家具は磨きぬかれ、食器にも曇りなし・・・・これでご夫妻が来られないなんてことになったら、使用人一同脱力しちゃうんじゃないだろうか。

 しかし、前公爵夫妻はちゃんといらっしゃって今は当主様と一緒に居間で私が作っておいた一口サイズのパイを美味しそうにつまんでいる。

「やっぱりエマの作るお菓子は美味しいわねえ。この腸詰の入ったパイの美味しいこと!」

「そうだねえ。セオ、お前は贅沢なものを食べているよなあ。私はこのハーブが入ったパイが好きだね。」

「そうですか?」

「そうですか?ってどうして疑問形なのかしら。ここは素直に自慢したほうがかわいいのに。エマ、素直に褒めない雇い主なんていやでしょう?わたくしたちの家のほうに移らない?」

「へっ・・・え、えーっと、」奥様にいきなり話を振られて、私は焦る。

「母上。エマはここで母上の世話係兼行儀見習として働いています。当主としてここ以外のキンケイド家屋敷で働くことは認められません」当主様のきっぱりした物言いに、ご夫妻はあらあらと言った感じで顔を見合わせて笑う。

 私が屋敷に来てから、ご夫妻が来るのは3度目だ。このやりとりももう3回聞いているけど、いまだに慣れない。

 奥様のほうは「エマ、明日はわたくしと過ごしましょうね。公園でお茶をするのも素敵ね」とおっしゃるし、前公爵様のほうは「いやいや、エマ。まずは私と果樹園に行かないか?そろそろオレンジやレモンが収穫できるらしいよ」と私を誘う。

 なぜか、ご夫妻は私のことを尋常じゃないくらい気に入ってくれている。来たばかりの頃はこんな特別扱いを受けるのは心苦しいとアルテアさんに相談したんだけど、アルテアさんの答えが“お二人はお嬢様がほしかったのよね。エマ、好かれてよかったじゃないの”という実に期待はずれなものだった。

 どうやら、私がこういう扱いを受けても屋敷の人たちはかまわないらしい・・・なんでなのかさっぱり分からないけど。


 次の日、私は朝は前公爵様の果樹園での収穫につきあい、当主様の朝食を用意したあとは奥様の世話係として過ごした

「エマ、公園に散歩に行きましょうよ。」

「かしこまりました。今、ピエルさんに馬車を頼んできます」

 奥様は私と二人だけになると、いつも当主様の小さい頃の話をしてくれる。どうやら小さい頃の当主様は、一人できちんと起きていたし片付けもできていたようだ。それがどうして大人になってああなるのか。

 まあ、それはともかく当主様も子供の頃は悪戯好きの子供で、アルテアさんやピエルさんに叱られていたらしい。

「昔はハルやトビーも我が家に泊まりにきていたのよ。今は3人とも要職についているから忙しくて王宮でしか会えないみたいだけど、3人が今でも仲良しなのは嬉しいわね」

 奥様がそう言って笑った。



-その夜・公爵家執務室-

「母上も父上もエマをあんまり連れ回さないでくださいよ。」

「あら。わたくしの世話係なのですから、いいじゃないの」

「エマと収穫に行くのは楽しいぞ。年寄りの楽しみを邪魔するんじゃないよ」

「母上、それはあくまで名目ですから。父上、自分の都合のいいときだけ年寄りにならないでください。」

「ところで、今日わたくしとエマが散歩している間、わたくしではなくて、エマの動きをじっと見ている気配を感じましたよ。それも悪意を感じるものでした」

「・・・そういえば、トビーがエマの周囲が慌しくなりそうだと言ってたな」

「セオ、エマの周囲に気をつけたほうがいいですよ」

「わかっています。エマに何かあったらアリンガム殿に申し訳がたたない」

 キンケイド公爵は両親と真剣な面持ちで顔を突き合わせて相談し始めた。


読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!


宰相閣下の両親です。

エマ、とっても気に入られています。

ロックオンされているようです。


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