4.そして彼女に近寄るもの
彼女にとって光と闇のどちらだろうか。の巻
どうして、学生の頃見下していたあの子のほうが、私の上にいるのかしら・・・・
本来ならアチソン家の令嬢として、人を使っても使われることなんてないはずの私が、王太后様付のメイドとして女官の下で庶民出身のメイドたちとともに働いているというのに。あの子、エマ・アリンガムはキンケイド公爵家で行儀見習として働いている。
おまけに彼女の母親は 王太后様付きの元メイドで今でも手紙のやり取りをしているという。
私が衣裳部屋に手入れの終わった衣装を運んでくると、隣の部屋で王太后様と腹心の女官であるレリアさんが楽しそうに今日の出来事を話していた。
私はお二人から見えない場所にいるのをいいことに、そっと聞き耳をたてた。
「実はね、エマのことをフェイスから聞いたときに、ラインハルトとどうかしらって思ったのよ。」
「まあ、そのようなことを考えていたのですか」
「アリンガム家は貴族ではないけれど、王国でも有数の商家で裕福だし、一族の人間も皆しっかりしていますからね。
貴族ではセオドールのキンケイド公爵家、トビアスのブランデル公爵家というすばらしい後ろ盾があるけれど、市民ではやはりアリンガム家が一番でしょう?
どなたかがエマが貴族でないことに文句をつけたら、わたくしが後見人になろうかと思ったくらいよ」
「それで、実際にエマさんを見てどうでした?」
「ラインハルトと添わせることはあきらめました。セオドールの顔を見たでしょう?あれは恋をしている男の顔ですよ。小さい頃から知っているけど、あんな顔をみたのは初めてだわ。
彼からエマを取り上げるわけにはいきません。何よりラインハルトにその気がありませんよ」
「ですが、エマさんは宰相様の気持ちに気づいていないようです」
「そうね。でも、それはわたくしたちが介入するところではありません。傍観しているほうが面白いわ」
「確かにそうですわね。それにエマさんなら立派な公爵夫人になるでしょう。前公爵夫妻はどう思っているんでしょうね」
「反対はしないでしょう。二人ともセオドールが仕事ばっかりしているのをずっと心配していましたし、フェイスの手紙によるとエマが公爵家に行くことになったときに夫妻が挨拶に来てくれたそうよ。」
「アリンガム家は大変なことになりそうですね。ただ、クリフやフェイスはそれを望んでいるでしょうか」
「エマが自分で真剣に考えて決めたことなら反対はしないでしょう。ただ、それが強制されたり人としての道に外れてると分かれば、あらゆる力を使って止めるでしょうね」
私はそこまで聞いて、音を立てないように衣裳部屋からそっと出た。
冗談ではない・・・エマが公爵夫人ですって?
そりゃあ、アリンガム家は裕福だ。だけど、それだけではないか。あの子が貴族の仲間入り・・・しかも私の家よりはるかに格が上の人間になるなんて我慢ならない。
「冗談ではないわ」
「何が冗談ではないんです?」
不意に聞こえてきた聞き覚えのない声。王太后様の離宮には国王様と宰相様、ブランデル魔道士様以外の男性は入れないはずだ。
振り向くと、そこには一人の女官が立っていた。しかし、よく見ると・・・男性??
「あ、あなた、誰よ!!ここには男性は入れないはず!!」
「私はどこにでも入ることができますから・・・・あなたは、ロザリー・アチソン嬢ですよね。没落したアチソン家を復興させるのがあなたの望みでしょう?」
「ど、どうしてそのことを・・・・」
「そのために、有力な貴族をつかまえようと王宮に入ったものの上手くいかない。そこに自分が見下していた相手が公爵夫人になる可能性を知って苛立っているようですね」
「・・・・!」
その男性は、美しいけど温かみのない笑顔を見せた。
「エマ・アリンガムを消してあげましょうか」
「は?」
「もちろん、対価はいただきますよ・・・そうですね。あなたの体でいかがです?」
「え・・・」
「まあ、それは冗談ですが。でも、私の主の仕事を手伝うのが条件です。主の仕事が成功したあかつきにはアチソン家復興がかなうでしょう。さあ、どうします?」
男性は、私の手をとって指に口づけた。その瞬間、私はその男性にとらわれた。
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なんか怪しい雰囲気ですが、
今のところ、この章ではここまでです。




