3.王太后様も庭にいる
庭にいるのは国王様だけじゃありません。の巻
長文になります。
ご了承ください。
国王様が私の作った食事を召し上がったあの日、当主様が「ハルの顔には3日で慣れる」とおっしゃっていたけれど、私はもう二度と近くで顔を見ることもないだろうとタカをくくっていた。
ところが、あれから当主様と私はラルフに荷物を持ってもらって庭園にある東屋に週に一度は足を運んでいる。そして当主様のおっしゃっていたとおり、国王様の顔が近くにあっても動揺しなくなった自分・・・慣れってこわい。
「エマ、明日は東屋で食事にしよう。王宮の守衛場所までラルフを行かせるから荷物を持たせるといい」
「かしこまりました。」
当主様は私にそう伝えると、移動魔法で王宮へ。国王様は、当主様同様好き嫌いがなく私が作る庶民的な食べ物が気に入っているらしい。王宮で出る食事のほうが素材も高級だし、料理も洗練されてると思うのだけど。
そこでいつも思い出すのは“食事が豪華だからって食べている人にはご馳走に思えないときもある”という当主様の言葉だ。
確かにそのときの気持ちで、食べ物の味って変わるような気がする。悩んでいるときは、どんな好物を食べていたって味わう気分じゃないときがある。また逆に気分が浮上するときもある。
もしかして、国王様にとって王宮の食事って辛いときが多いのかなあ・・・。
次の日、3人分のお昼が入ったバスケットを二つ抱えて、私は王宮の守衛場所でラルフを待っていた。
すると、「・・・エマ?」と誰かが私の名前を呼んだ。
「?」と思って声の方向を見ると、そこにはロザリー・アチソンが立っていた・・・同じ学校に通っていたものの、彼女は金髪、青い目の美人で家はアチソン家という古い家柄。成績も優秀でまさに「女王様」。庶民の私やクラスメイトを見下していたものだ。
内心「うげ~」と思いつつ、「ロザリー。久しぶり」とにこやかに声をかける。
ロザリーは私とバスケット二つを見て鼻で笑うと「エマ。あなた王宮に物でも売りにきたわけ?アリンガム商会って裕福なのに娘にそういうことをさせるのかしら」と言ってきた。
うーん、彼女に今の自分のことは言いたくないなあ・・・と逡巡していると、「エマ、悪い!!遅くなった」とラルフが走ってきた。いいタイミングだ、ラルフ!!
「ラルフ、いいタイミングだよ!!ごめんね、ロザリー。私急ぐの」
「は?ちょっと??」何か言いたげなロザリーを無視して、私はラルフに荷物を持ってもらって先を急いだ。
「エマ、さっきのは誰?」ラルフは興味津々だ。
「・・・ロザリー・アチソン。美人で成績優秀、家柄ばっちりな学校の女王様。私のような庶民は彼女に見下されていたから、あんまり会いたくない相手だったな。」
「美人なのに、性格が残念だな。」
「・・・美人だと、それもカバーできちゃうんだよ。男の人ってやっぱり美人が好きじゃない。」
「エマ。宰相様や国王様、それに変人の魔道士や俺だってそんな女には引っかからないよ」
「世の中、そういう人ばかりだといいけどね~。あ、ラルフ、この話は当主様にはしないでよ。ロザリーに何か言いそうだから」
そうじゃなくても、当主様はなんか最近私の周囲を見張っているようなのだ。
ラルフは納得いかないようで「どうせいずれはバレると思うけどなあ・・・」などとぶつぶつ言っていた。
宰相室の前に到着すると、すでに当主様はドアの前にいた。
そのまま二人で並んで、庭園にある東屋に向かう。そこにはすでに国王様が座ってる。
「やあ、エマ。待ってたよ。今日のお昼はなんだい?」
「はい。今日の昼食は魚の素揚げと生野菜のサンドイッチ、具沢山のトマトスープ、それからハーブのクッキーです。」
「今日も美味しそうだ。やっぱりセオが羨ましいな」
ラルフも交えた3人でお昼を食べているさまは、結構面白い。この3人プラス魔道士のトビアスさんは小さい頃から一緒に過ごしていたらしく、ラルフも二人に遠慮がない。
私がお茶とクッキーを配っていると、さっきまで笑っていた国王様の顔がなぜかぎょっとしている。当主様もラルフも同じだ。
なんだろうと思って、3人が見ている方向をみると、東屋に向かって3、4人の女性達が歩いてくるのが見えた。
「セオ、ここのことを誰かに話したか?」
「いいえ。トビーも漏らしていないはず。ラルフもだろ?」
「もちろんです」
「・・・まったく、どこで見られているか分からんな。エマ、すまないが少々堅苦しくなる。許してくれ」
「エマ。私がついてるから大丈夫だ」と当主様が私の前に立った。
「は、はい」
「ラインハルト、あなただけそのような楽しいことをしているなんて。いけませんね」
「母上。どうしてここが分かったのですか」
私たちの前に現れたのはエルフリーデ王太后陛下・・・国王様のお母様だった。国王様って、王太后様似なのか・・・そこで私はさらにぎょっとした。後ろにいるメイドたちのなかにロザリーがいる。
ロザリーは私を見て、なぜか睨みつけてくる。
王太后様はそんなことに気がつきもせず、当主様を見て「セオドール、久しぶりですね。あなたの後ろにいる可愛い方を紹介していただけないのかしら」
「・・・・彼女はエマ・アリンガムです。当家にて前公爵夫人の世話係兼行儀見習をしております」
「エマ・アリンガムと申します」私もあわててお辞儀をする。
「わたくしはエルフリーデ。ラインハルトの母です。よろしくね、エマ。クリフとフェイス、スコットは元気?」
私は思わず顔を上げて「はい、皆元気です。あの、王太后様は私の家族を知っているのですか?」と聞いてしまった。
すると、王太后様は「ええ。フェイスはクリフと結婚するまでわたくしのメイドでした。賢く働き者で明るいお嬢さんでした。レリア、フェイスの娘のエマよ。フェイスを覚えているでしょう?」と一番近くにいる女官に話しかけた。
レリア、と呼ばれた女官の方は「ええ。覚えていますよ。よく働く気遣いのできる娘さんで。エマさん、フェイスはお元気ですか?」と私を見て微笑んだ。
「はい。とても元気です。」母のことを聞かれて、少しは笑う余裕が出た。
「フェイスとは今でも手紙のやり取りをしているの。だから、あなたが公爵家で行儀見習をしていることと・・・・そうなった理由も知ってるわよ?」王太后様は私にウインクしてふふふと笑った。
当主様はぎょっとし、私は顔が赤くなった・・・・そうか・・・・私の母か。ばらしたのは!!そういえば、この間実家帰ったときに母に国王様にお昼を出したことを話したっけ・・・。
王太后様は、私の作ったハーブのクッキーを少しつまんで「今度はわたくしにも少し届けてくださいな。いいわね?セオドール」と当主さまに念押しして東屋から離れていった。
国王様も「なんか疲れたな・・・すまないね、エマ。今度はばれないようにするからね」と言って王宮に戻る。
「当主様・・・どうやら王太后様にばらしたのは私の母のようです・・・この間、実家に帰ったときについ話してしまいました。申し訳ありません」私は当主様に謝罪した。
「エマ。王太后様にはいずればれると思っていたから、気にすることはない。母上を責めてもいけない。わかってるね?」
「はい・・・でも、私は自分を責めます。国王様、せっかく楽しそうだったのに」
「それこそ気にするな。ハルだって、いずれ知られることくらいわかっていた。それに、王太后様は結構いい人なんだぞ?私も小さい頃は世話になった・・・今はちょっと緊張してしまうがな」
当主様がおどけた感じで言い、私は思わず笑ってしまう。
「そうそう。今みたいに、エマには笑っていてもらいたいな」
そういう当主様の顔があまりにも甘いので、私はなぜか恥ずかしくなってしまった。
後ろではラルフがニヤニヤ笑っていることなんて、私たち全然気づいていなかった。
読了ありがとうございました。
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宰相閣下とエマがちょっと接近した回です。
長文になってしまって申し訳ありません。
携帯の方、見るのが大変ですよね・・・。