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飛行機にのって

トランスオーシャン航空の機内サービス、オニオンスープは、当然レトルトだろうけど、なかなかおいしい。早朝の北陸は肌寒かったし、冷房の効いた機内ですっかり体が冷え切っていた。オニオンスープがあたたかくお腹を満たしてくれて、私は落ち着いた。機内ではそのスープを飲みながら、読書をした。落ち着いて、まとまった読書をするのは、ひどく久しぶりだ。私は、まだ見ぬ八重山諸島のことはそんなに気にもかけず、とてもリラックスして本を読むことに没頭していた。沖縄に強く行きたいと願ってきたが、だからといって特別なことや過剰な愉悦を期待するわけでもなく、私は、のんびりと海でも見ながら本を読むつもりで、なかなか普段読めなかった本をどっさり旅の荷物に備えてきた。



そうこうしてると、飛行機は、沖縄へもう近づいてきた。窓から見下ろすと、小さな島がいくつもいくつもつらなる。底のほうからきらきら発光しているような、特殊な青をした遠浅のサンゴの海が、島をふちどる。



うつくしい。眩めくような、うつくしさだ。もう私は、我を忘れ、窓にはりついて、その恐ろしくうつくしい海を眺めた。海の色はこんなに鮮やかにくるおしくうつくしいものだっただろうか?私は息をのんだ。目を閉じてしまいたいような、まばたきひとつせずに見つめていたいような、相容れない気持ちが同居して私は落ち着きなく、本を閉じてしまった。作家・灰谷健次郎さんが「それは生きているうちに見てはいけない種類の美しさだ」と形容した沖縄の海。飛行機はもうゆるやかに下降を始めている。



着陸。軽い衝撃。「ああ、帰ってきた」無意識にそんな言葉が出ていた。「帰ってきた」。沖縄へ。



空港で、石垣島行きの便に乗り換え。時間があるので、空港内をぶらぶら。ちょうど、琉球民謡・民舞のステージをしていた。ちらりと見るだけのつもりだったが、はまってしまって、じっくりと見た。NHK

朝の連続ドラマ、「ちゅらさん」で、えりぃが踊っていたような、素朴でかわいらしい踊りだ。


お昼にとりあえず、沖縄再会記念として、ビールで乾杯。もちろん「オリオンビール」。普段は絶対にキリンの「一番絞り」びいきの私。沖縄にきた瞬間、オリオンビールを飲まなきゃと思うのが我ながらおかしいが、沖縄にきた人はみんなそうみたい。と、この旅で出会った人々みんながどのビールメーカーも無視してオリオンを飲んでいるので分かった。ごはんは「ソーキそば」だ。沖縄のそばは、ひらべったくて、きしめんのような形状で、コシは全く無いのだけど、なんだかやみつきになるおいしさ。帰りに土産を選ぶ時間がないと困る、と土産の下見をする。前回買い損ねて、ちょっと心にひっかかっていたもの。それは、珊瑚の指輪。うすももいろじゃなく、血の色をした真っ赤な、小さな一粒が、華奢なプラチナにちょこんと鎮座しているようなそういうデザインのものに前回、めぐりあった。私はいまだかつて男の人に、指輪を贈られたことがない(父親除く)。花は、パリ旅行でついに念願を果たしたが(たまたまオプションツアーで一緒だった方と食事をしていると、花売りがやってきて、彼は一輪の深紅の薔薇を冗談めかして贈ってくれた。)、指輪も、やっぱり、いつか大切な人に、高価なものでなくていいから贈ってほしいという、少女じみた願望から、今回もその珊瑚の指輪は買わないだろうと予感する。



ビールをもう一杯。と思ったが、(きまったわけではないけど)妊婦にアルコールはよくないのかもしれないと、一応控えた。しかし直後、石垣島への便の搭乗口のすぐ隣の売店で、「青い海と空のビール」というオリオン以外の沖縄のビールを(地ビールということです)発見し、ぜひ味をたしかめたくなり、ついつい飲んでしまった。ただし、私の好みの味ではなかった。まずいという意味ではないので、みなさんは、お気になさらずに、見かけたら、試してください。壜詰めの、海と空の色をした涼しげなパッケージのビールです。「フルーティな味わい」がすると書いてあったので、きっとそうなのでしょう。



石垣島へ到着。約45分のフライト。このとき機内では、最初の

5分ほど本を読んでいたけど、朝が早かったこともあり、あとの時間は眠りこけた。


アテンダントさんに、着陸ですのでリクライニングを起こしてくださいと言われ、目を覚ます。沖縄にきたというのに、ずっと飛行機、空港内だったので、やっと初めて南国の空の下に立つ。空気を深く吸い込んだ。突き刺すような強烈な紫外線。暑い!!頭がくらくら、視界はぐにゃぐにゃ。でも、心底、嬉しいという高揚感。八重山諸島。日本の南の果てまで、ついにやってきた。ヨーロッパにいったときより、遠くへきた感じがした。洋上に、点々と連なる小島たちは、きっと、宇宙から見下ろすと、ほとんど見落とされてしまうに違いない。そんな場所に冒険のロマンを求めたわけでもなんでもなく、勝手に私は「懐かしい」という思いにとらわれて、やってきてしまったのだ

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