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RIPUREI..../  作者: 96ちゃん
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「―――和真さんッ!!」


 桜舞う季節―――それは春。

 その春がもたらした麗らかなる日差しの下、義務教育の最終過程となる中学校の卒業式の日に、上下黒のスエットを着たガラの悪い少年が声高々に前を歩く少年を呼び止めた。


「んあ、なんじゃい騒がしい?」


 その騒がしい声に少年は足を止め、面倒臭そうな声で振り返った。

 その表情は、酷く眠たげだった。


「お、俺。深雪さんから聞いたんっすけど……か、和真さんが他所に行っちまうって、本当なんすか?」


「ああ、その事か……いや、行っちまうも何も俺は今年で卒業だし、他県の高校に行こうが行かなかろうが違う学校に通うだろ」


「そりゃそうっすけど……引っ越すってのはマジなんすか?」


「マジなんすか、って……んな事で嘘を言っても仕方ねぇーべ」


 言って少年―――(さかき)和真(かずま)は大きな欠伸をした。


「じゃあ、姉貴は……振ったって事っすか……」


 俯きがちに、歯切れの悪い口調でスエットの少年は言った。

 その言葉に和真は何も応えず、やれやれと肩を揺らした。


「ま、縁があったらまた会うだろうさ……」


 一応は里帰りもするつもりだしな、と呟いて和真はスエットの少年に背を向けた。


「―――そんじゃあな。また、縁があったら会おうぜ」


 言うと同時に和真はクルリと背中を向け、少年へと手を振るった。

 ネクタイも着けず着崩された中学校の制服―――学校指定のブレザーの下に、ワイシャツではなく半袖のボーダーシャツを着込んだ格好。

 その見た目から容易に予想が付く“見たまんまの素行の悪さ”で、三年と言う時間を過ごした学校を後にした―――。



 ※



 ―――もう10年も経ったのか……


 人通りの少ない道を歩きながら、誰に言うでもなく和真は一人でに呟いた。

 あの日、あの場所で頭を撃ち抜かれた時、和真の生涯は終わりを迎えたはずだった。

 しかし、朦朧とする意識のなか情けなくも願った生への執着は、意外な 事態へと発展を迎えた。


 ―――まさか、五歳の時分まで時間が戻っちまとはな……


 そう、何も終わってなどいなかったのだ。

 何の奇跡か、死んだはずの和真がふと目を覚ました時その目が捉えた光景は、心配そうな表情で自分を窺う母親の顔だった。

 その時、まるで夢でも観ているのだろうか、と和真は己の目を疑った。

 それもそのはず、彼女は和真が17の誕生日を迎えた日に自宅のマンションから飛び降り自殺を図ったのだから―――。


 ―――お袋の顔はうろ覚えだったはずなんだけどな……


 今だからこそ、ははは、と笑ってしまう。

 案外覚えてるもんだな、と和真は笑ってしまう。

 っと、丁度その時―――。


「―――何がそんなに可笑しいんだい」


 回想に浸り思わずも笑顔を作ってしまった和真に、凜とした声で話し掛ける少女が居た。


「……テメェ」


 最悪だとばかりに肩を落とし、和真は声の主に振り返った。


「毎度の事だがよう……心臓に悪いからいきなり現れんな、って何回も言ってんだろーがッ」


「いやいや、そうは言われてもねぇ……生憎と私はここで君を待っていただけなんだ。そしたらたまたま、君が一人笑いながら歩いて来たんじゃないか。なのに私が悪いと言われてもどうしようもないだろうに……ああ、そうだとも。私としては、そんな事を言われても困ってしまうよ」


 そう言って少女は、やれやれ、と首を振った。

 その少女の仕草が、良く分からないが非常にムカつく、と思えた和真はあからさまな舌打ちをして返した。


「チッ―――で、今日は何の用だよ」


「ふむ、何故か分からないけど君はご機嫌斜めなようだね……何かあったのかい?」


「ハッ、何かじゃなくテメェに遭遇したから苛ついてんだよ。神様の使い(自称)何だからそんぐらい察しろや」


「……何やら腑に落ちない部分があったけど、まあそこは良いよ。話しが反れるから、そこは聞かない事にしておくよ」


 私は心が広くて優しいしね、と少女はしたり顔で頷いた。

 その仕草に対し、やっぱりコイツはムカつく、と再び思った和真は深い深いため息を溢した。


「ハァ……んで、本当に何の用で来たんだよ?」


「これと言って何がある訳じゃないんだけど、今日は君の卒業式じゃないか。だから心優しい私は君を祝う為に待ってたんだけど―――ああ、勿論これは本題のついでだよ。だからそんなに嫌そうな顔をしないでくれ」


 話しの途中―――内容が卒業祝いへと差し掛かった辺りから、見る見る内に面倒臭そうな顔をしてさっさとこの場を去ろうと歩き出した和真に、少女は苦情しながら言い直した。

 そんな少女に、和真は呆れを含ませた視線を向けながら言う。


「本題って言うとアレかい……何時だかアンタが言ってた“天国へ逝く為の10の試練”とやらか」


「そうそう、ソレだよソレ。君の地獄行きを回避する為に慈悲深い神様が用意した、大変素晴らしい試練だよ。いやはや、良く覚えていたね」


 うんうん偉い偉い、とばかりに頻りに手を叩いて、少女は満足げな笑みを浮かべた。

 その笑みに和真は苛立ち、睨み付けるようにして両の目を細めた。


「オイコラ、こちとら機嫌が悪いんだ。テメェの御託は要らねぇから、さっさと本題を話せよッ!!」


「ふふふ。私もまた随分と嫌われた物だよ……さて、榊和真―――」


 “―――君に告げる。”


 それは、人とは異なる存在が発した異質なる声―――。


 「―――これは天命。これは神が君に与えた試練」


 それは、限られた人間にだけ聞く事の許された言葉―――。


「試練の期限は、来月4月の7日から再来月の5月の7日までの一ヶ月間。それまでに君は、望月(もちずき)早苗(さなえ)と言う少女と友達になる事―――もし、それが出来なければ……君には即座に死んでもらい、永遠の地獄へと逝って貰う。ちなみにチャンスは一度切りだ。二度なんて都合の良い物はないから心しておくように」


「…………」


「試練の詳しい内容など、望月早苗と言う少女に就いては後日追って説明する―――以上。これまでが神の御告げである。それまでの間、悔いのないように日々を過ごしたまえ」


 それじゃあね、と付け足すと少女は煙のように姿を消した。


「……あいよ」


 少女が消え去り最早誰も居ない場所に向けて、和真は小さくも確かに頷いたのだった……










RIPUREI....1/

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