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RIPUREI..../  作者: 96ちゃん
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過去・現在・未来

初めまして。どうぞ、末永くよろしくお願いします。

 



 ―――あれはいつの頃だったのだろうか……


 感情のままに人を殴り、暴力を以て痛め付け、従わせた自分の右腕。

 それは利き腕であって、それと同時に唯一の武器であって、誰かを傷付ける為に存在した右腕。

 だが、そんな右腕が今は幼い少女の手を引いて、確かな温もりに当てられている。

 今の今までこんな事に使った覚えはないのだけれど、何故か今は少女を守るように握られている。


「どうして……」


 それは力のない、まるで蚊の鳴くような弱々しい声で発せられた。


「どうして、知らない人と一緒に暮らさなきゃならないの……ねえ、どうしてなの?」


 それは怯えを含んだ瞳だった。

 その言葉が……その弱々しい瞳が伝えたい事は分かっていた。

 どうして見ず知らずの人達―――正確には今日知り合ったばかりの自分と女性(はは)が家に上がり込み、訳も分からぬまま同居しなければならないのか、とそう言いたいのだろう。


 ―――ああ、少女の言いたい事は良く分かる。


 何故なら、これが初めてではなく二度目なのだから、それこそ嫌と言う程に良く分かると言う物だ。

 仮に自分が逆の立場であったのなら、間違いなく同じ反応をしていただろうし……そもそも自分は反対をした挙げ句に家出をした記憶があるぐらいなのだから、これで分からない方が可笑しいと言えるだろう。


 だから、今は取り敢えずと―――。


「わりい、俺から言える事はあんまねぇーんだわ。だから家に帰って、うちのお袋とお前の親父さんに聞こうぜ。んでまぁ、そんでもってよ―――」


 それから改めて自己紹介をしようぜ、と今日から自分の妹になる少女へと笑い掛けた。


 自分の母と少女の父が、お互いの親が選んだ再婚は余りにも唐突だった。

 いきなりと言うべきなのか、または突然と言うべきなのか、まさに今のさっきに紹介されたばかりの赤の他人が明日から家族になるなんて、聞かされた側からしてみれば余りにも突拍子のない事を淡淡と告げられた。

 前もっての顔見せもされてなければ名前すら知らない相手との再婚を、自分は唐突に告げられたのだ。

 こんな事を産みの親に対して言いたくはないのだか、それは余りにも突然で、余りにも身勝手だと言える。

 しかし、当人達は何度も、それこそ何度も何度も悩み話し合ったのだと思う。

 そもそも、母も再婚相手も互いに連れ子を抱えているのだから、それが当然と言えば当然なのだろう。

 その上で二人が選んだ、「再婚」と言う一つの答えなのだろう。

 ならきっと、これが二人の見出だした幸せで、同時にこれからを見据えた選択なのだろう。


 ……だが、もし―――もしも結末が同じなら、数年も経たないうちに破綻してしまう。

 何せこれは、かつて一度通った道なのだ。

 それだけに、この再婚が迎える結末が分かっていて、胸の中には言いようのない不安が募った。

 でも、それは酷く最近の事のように思えて、それと同時にとても昔の事のようにも思えて、それなのに―――それなのにそれは、不思議と決して迎えぬ間違えた未来のようにも思えた。

 なら、これはきっと一つの結果てしかなくて、つまりは過ぎ去った物なのかも知れない。

 もし、明日を作るのは今日を生きた自分だと言うのなら、今日を自分がどう生きるか次第で明日は決まるのだろう。

 だったら自分は、母親の門出にぶちぶちと文句を言う訳にはいかないのだろう。

 他人事ではないのだろうが、如何に母と言えど一人の人間だ。

 その人にはその人個人の幸せがあって当然だろうし、自分自身ただの子供ではないのだから、家族として母を見守ってやりたい。

 勿論、だからと言って態々おべっかを取るつもりもなければ、無理をしてまで再婚者と仲良くしたいとは思わない。

 あぁ、そこらへんは流れ任せと、最低限の礼儀を持って付き合っていけば良いだと思う。

 だから、ただ純粋に―――昔も、そして今も変わらず女手一つで自分を育ててくれた母が、その母自らが選んだ相手と決めた選択ならば……“俺は”納得して受け入れてやりたい。


 きっとそれだけで、たったのそれだけで、今は十分なのかも知れない―――。



 ※



 全ては一発の鉛弾によって終わりを迎え、同時に始まりを告げた。

 火薬の炸裂する渇いた音と、薬莢の落ちる高い音。

 そして、飛び散るピンクは赤と混じり赤黒く散らばり、火薬の焼ける独特の匂いを伴い雑踏の中に静寂を生んだ。


 ―――人間は簡単に死ぬ。


 今、一発の鉛弾によって頭を撃ち抜かれた男がまさにそうだと言えるだろう。

 これまで散々好き勝手に生きて来た代償か、または身勝手の利子や付けなのか、あまりにも呆気ない最後だと言えるのだろう。

 ……だが、これも因果応報なのだろう。

 この男、いったい今までに何人もの人間を傷付け不幸にして来たのか、余りにも業が深った。


 “まだ……死にたくない……”


 自業自得だと、身から出た錆びだと言うのに、男はそんな事を願う。

 死ぬのは怖くないだとか、自分は死なないだとか言って、今まで散々と思い上がっていた男が最後に願った物は生だった。

 死にたくない、まだ生きていたい、と何度も何度も声にならぬ心の声で叫び、嗚咽を漏らしながら謝罪した。


 “……すまない。許してくれ。やり直しを、償いをさせてくれ……”


 自身の身勝手が生み出した顔も知らぬ被害者達にすがり付いて、だらしなくも涙して、惨めにも懇願して―――。


 ―――そして、人間はこんなにも呆気なく、それこそ“いとも簡単に死ぬのだ”と思い知ったのだ。



 ※



 ―――人生とは何だろうか。

 それは、失敗と成功が織り成す物語りなのだろうか―――。


 ―――罪とは何だろうか。

 罰とは……償いとは、いったい何を指すのだろうか―――。


 ―――愛とは何だろうか。

 体面、外聞、偏見、それらを捨て去った先に存在する感情なのだろうか―――。


 ―――生とは何だろうか。

 ―――死とは何だろうか。


 ―――人は、家畜は―――。


 ―――過去でなければ未来でもない世界で神は告げた。

 “罪深き人間に試練を”と、小さな使いへとそう告げた―――。






 RIPUREI..../

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