アナタの傍にいられる為の口実
お食事中の方は、回れ右でお願いします‼️
男は単純だ。自分と共通するモノを見つければ、それだけで此方に興味を抱いてくれる。
「それっ! 」
「……はい? 」
彼がキラキラとした目で、アタシーーのバッグに付けられたキーホルダーを見ていた。
無理もない。彼の大好きな作品は、マイナー中のマイナーで、グッズも数える程度しか出ていないのだから、同志を見つける事自体が難しい代物だから。
……だからこそ、合わせ易いというのもあるのだが。
「あっ…えー、っと……ッ」
「…あ、コレですか? 」
バッグに取り付けたキーホルダーを指でつまんで、尋ねる。その際、小首を傾げて、上目遣いも忘れずに。
「ッ……【頑張れっ! ウンコマンの逆襲】をしっ…知ってるんですか? 」
アタシの女アピールを華麗に無視…それとも気付いてないだけか、作品を知ってるかどうかを尋ねる男に、“オンナ”としてのプライドを傷付けられて若干傷付くも、めげたら折角掴んだ好機を逃してしまうと考え、
「えっ…えぇ。ジャジャウマコミックで連載していた、アニメ化やゲーム化を果たしたものの、メディアでの人気が振るわず、それがキッカケかどうかはわからないケド、作者がもう描けない…と宣言して、突然完結してしまった、伝説的な漫画ですよね? 」
と、話を合わせる。
……ネットでの情報だから、間違った知識を口にしていないか、心配だが…。
「そっ…そう、なんだ……俺…連載が始まった頃から、読んでてさ…すっっっごい、面白くて、好きだったんだ。だから……あんな形で、連載が終了した時は、悲しいし…如何してもっと、作者さんにメッセージとか送って、作品の存続を少しでも長く続けてもらえる様な、モチベを上げる事をしてこなかったのかと思うと……後悔やらで、悔しくて…ッ」
「………」
初めて見る、彼の熱量に……そういった感情、アタシにも向けてくれるのなあ? と思った。
「だっ…大丈夫ですよっ! いつか、作者も連載を再開するかもしれませんよ? 」
「ッ……そっ…そうかなぁ? 」
「しますって! だって……何周年記念とかで、作品の新作とか、グッズとか、出る事があるじゃないですか。だから、連載から十年とかで、再開する事もーー」
「十年? 二十年とかじゃなくて? 」
「………えっ? 」
彼は訝しげに、アタシを見る。
「あっ…えっ…えーっと……アニメ化してから、十年とか…」
「それは無い。やるんなら、自分が作品の中心に携わってる、本誌の連載を始めた年から数えてでしょ」
「でっ…でも、敢えてアニメに立ち向かうみたいな? 」
「もっとないね。作者さん、作品作りへの向き合い方が真摯で、だからこそ、アニメ化が発表された時は、めちゃくちゃ喜んでた。だから……トラウマになってしまったアニメに対しては、そもそも触れたくないと思う…」
「………っ」
「…で? 」
「………えっ? 」
「アンタの目的は? 如何して、好きでもない作品のキーホルダーをバッグにぶら下げてんの? 」
「っっ……自分から話し掛けてきたクセに、作品をちゃんと知らないと判るや否や逆ギレ!? コッチは只、このキーホルダー可愛いなぁと思ったから、バッグに取り付けていただけなのに…っ」
我ながら、よく平気でこんな嘘が吐けたなぁ、と思う。もしコレで、彼を騙せたとしたら……脈なしだという事だ。
だって……アタシは、お気に入りのキーホルダーは、外に持ち歩かない。少しでも傷が付くのが嫌だから…。その事実を予想してくれないのなら、アタシの事を考えてくれてない、という事だ。
「ッ……ごっ…ゴメン…。“また”、【頑張れっ! ウンコマンの逆襲】を利用して、俺に近付こうとしてきたコだと疑って、つい…」
「……“また”…?! 」
考える事は、みんな一緒なんだなぁ、と思った。
………待てよ。という事は、前例と違うアプローチをすれば、彼の近くに居られるチャンスじゃね?
「………」
“貴方の恋人にしてください”は、彼のアタシへの好感度以前に初対面に近い状態から考えて、断られる確率がほぼ高いから駄目だ。
かといって、友達になりたい発言も、警戒される恐れが高い。ならば、彼から友達になりたい、と思わせる必要がある。
………如何やって?
彼は現在、アタシに対して、ほんのちょっぴり、興味を持ってくれている…筈。自分目当てで近付いてきたと疑った事への罪悪感と、マイナー作品の同志になってくれるかもしれない可能性への喜びから。
「あっ…アタシね……可愛いキーホルダーだなぁ、と思って…それで、作品を調べて…こんな、悲劇的な完結を遂げた作品があるんだなぁ、と知って……興味を持ったの」
「………」
「作品を知ったばかりだし、それに…オレくんみたいに、作品の熱量があるワケじゃないから、まだまだ知識不足だけど……それだけじゃ、この作品を好きだってアピールする様な事は、駄目なのかな? 」
小首を傾げて、尋ねる。上目遣いも、忘れずに。これ以上、露骨に“オンナ”をアピールしたら、彼に逃げられてしまうから、あくまでも、“同じ作品を愛する同志”ーーという、体で。
彼の近くに居られる為なら、全く知らない作品に、興味があるフリをしてでも、繋ぎ止めてやる。作品の知識は、その後でイイ。だって、自分と共通する趣味を持っている人間だと、思ってもらえる事が、重要なのだから。
「だっ…駄目じゃ、ない、ケド…っ」
動揺して、目を泳がせるオレくんの手を握る。
「ッ!? 」
「有難うっ♡オレくん! 」
男は単純だ。自然な流れでの、女からのボディータッチに、かなり弱いのだから。
「そだ! 【頑張れっ! ウンコマンの逆襲】読んだら、感想聞いてほしいんだけど…一週間後にまた此処で、会ってもらってもイイかな? 」
「!? …なっ…なんで……」
「だって……【頑張れっ! ウンコマンの逆襲】の事を、ちゃんと知ってて、作品愛が強いの、オレくんなんだもん。…駄目、かな? 」
ズルいやり方だって、解ってる。それでも……彼の近くに居られる口実が、欲しかった。
オレくんは暫く考え込んで、わかった、と頷いた。
【頑張れっ! ウンコマンの逆襲】とは・・・
西暦2XXX年。食糧危機や健康を害さない水の確保が難しい世の中に陥った事で、食料などの奪い合いが、世界の各地で毎日の様に繰り広げられていた。
そんな中、生物というものは、お腹を満たしていなくても、生理的に出てしまうモノがある。それは、ウンコだ。
ウンコはーー意思を持っていた。自分を産み出した主に対して、復讐心を抱いて…。
復讐を果たそうと奮闘するウンコ達。だが、どれもこれも、上手くいかなくて……。
どのウンコも個性豊か!
主が違えば、サイズも違うワケで…。ウンコ達は、主達に復讐を果たせるのか!?
笑いあり、涙ありの、ウンコ達の日常を、みなさんも覗いてみては♡