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魔術とはこの世界に存在する超自然的エネルギーであり、原子の動きを意図的に制御することによってあらゆる現象を任意に起こすことができる技術である。
原子の動きをどれだけ細かくすることが出来るか、それによって使える魔術の幅が広がり、魔術を起こすための魔力量の多さによって魔術の規模や使える量などが変わってくる。それは紛れもなく才能の世界であり、才の無いものを無慈悲にも人を振り落とす。
そう、才能。才能は自分の人生を語る上で大きなポイントになる。才の無いものものである自分が、どのようにして周りに追いつくか。
これは。この物語は、才能を否定する物語である。
「今回の筆記テスト、最高点はまたジオだ。」
魔術の筆記試験が終わり、テスト返しが行われた。またもや当たり前だが俺の名前が呼ばれる。今回の範囲は完璧に抑えておいたしテスト対策は万全。満点のテストを眺め心のなかで自らを褒める。 まあ、俺は天才なので周りに比べて勉強が出来るのは当たり前。本当に大切なのは魔術師としての力量だ。勉強をしても魔法が使えないのであれば意味が無い。努力の方向はそちらである。
思考にふけるついでに周りの声を聞くと、点数をひけらかす声、たわい無い会話で現実逃避する声。そしてクスクスと俺を笑う声などが耳に入る。
「アイツ鼻伸ばして偉そうに頬杖ついてやがる。」
「魔力障害のクセして魔法のことわかった気になっ てんだろ?使えないのにな。」
「言ってやんなって、才能無い奴にホントの事言っ ちゃ酷だぜ?」
ハッハッハとうるさい笑いが巻き起こる。耳ざとく聞くような内容じゃ無かったなと反省する。自分に対しての悪口に耳を傾けるとは我ながらガキだなと、心中ため息を付く。
俺はあんな奴を気にする余裕も、勉強にうつつを抜かす余裕もないのだ。迅速に自分にも使える魔法をもっと開発しなければならない。早く魔術師免許を取って独り立ちしなければならない。
俺は典型的な魔力障害者である。一般人の魔力量が魔石換算で46.2kgなのに対し、俺は5.6kgしか無い。 魔術師の平均は一般人のそれよりも遥かに多いということを考えると俺は魔術師に向いた体質ではない。
俺に使える魔術は限られる。どれだけ魔力を使わずに魔術を使うかが鍵になってくるのだ。しかし、技術だけではどうにもならないため、筆記でごまかさなければ退学もあり得るという崖っぷち状態なの
だ。
代々魔術師の血を受け継ぐウィンチェスターの名前に泥を塗ることは許されない。
ましてや魔術師学校を退学になる魔術師崩れになるなど論外も論外。大論外なのである。
母は名のしれた魔術師だった。父も研究者としてその生涯を魔術研究に捧げた。どちらももう死んだが、じっちゃんのというか、両親の名にかけて大成しなければならないというプレッシャーがあるのだ。俺は自分にも使える術を開発し、魔術師として有名になり、魔力障害者の希望となるという目標がある。その目標に向けて自らの才能にさらなる磨きをかけるため勉強をおろそかにせず魔術研究に没頭するのだ。
改めて自らの覚悟を再意識し、今日も魔術開発の思考を募らせて、寮への帰宅の準備を行う。と思っていたのだが、今日は担任に呼ばれているんだった。
行かなくては。
職員室の前まで行くと、先に扉の前で立っている少女がいた。たしか彼女は「ミリアなんとか」みたいな名前だった気がする。学園内の有名人だ。我がネプチューン魔術学園の首席である。最高クラスの魔力量と俺の次に来る頭脳。また学内一人気の高い女子。ファンクラブが4つあるとかなんとか。狂ってんね。まあ、魔術を使う才に溢れた人物であると認識している。俺とは真逆の天才として少なからず尊敬の念もあるが基本的に顔を合わせようとしたことは無かったため、新鮮であった。思ったよりも小さい。150センチ弱だろう。白髪に赤目、アルビノというやつであろうか。確かに異様な雰囲気を持ち、顔も整っていて男ウケは良さそうである。
そんなことを思いながら、同時にさっさと退いてくんないかなと思っているとミリアが俺を睨むなり近づいてきた。すると彼女は驚くべき事を言い放った。
「貴方が私のバディ?」
「は?」
「聞かされていないの?私とコンビ組む相手が決まったと言っていたから待っていたのだけれど。いや、貴方なわけが無かったわね。勘違いしてごめんなさい。」
ミリアはきっと俺の魔力を感じ取ったのだろう。あからさまに期待外れと言ったような反応をした。
「というか、部外者は校内立入禁止よ。速やかに出ていきなさい。」
「勘違いしているようだが、俺は生徒だ。制服を着ているだろう?俺も呼ばれたから此処に居るんだ。まだ待つなら用事を済まさせてもらう。」
そうしてミリアを退けてコンコンコンと職員室のドアを3回打ち鳴らす。すると出てきたのは校長のノイマン.グリザイアだった。ノイマンは魔法など必要なさそうなほど大きな巨体をドアにくぐらせるやいなや、 「来たねジオ、ウィンチェスター君。今日呼んだのはね、そこにいるミリアとコンビを組んで貰う事を伝える為だよ。コンビというのは実技試験の延長でね。実際に来ている依頼を二人一組で片付けてもらう。他の学生との競争になるから頑張ってね。」
と、意図の分からない冗談を言った。
まず反論したのは後ろで聞いていたであろうミリア。
「校長先生。何故私がこのような人物と組むのでしょうか?」
ニコニコと愛想の良い笑いを浮かべて棘のある言葉で質問するミリア。傷付くのは俺なんだぞ。
「それは自分で考えることだね。君に足りない物を探す足がかりとして考えてもらえば良い。ジオ君。君は障害を持っているが、私は君の能力を高く評価している。ミリアより高い筆記の優秀さ、そして他の部分もね。君の居るクラスはDクラスだったね。今日からAクラスに入ってもらう。明日からクラスの場所が変わると思うが間違えないでくれよ?」
まて、おかしいだろう。彼女はAクラスの首席。俺は最低クラスだ。いくら俺が才覚に満ち溢れているからと言ってそこまでの高い評価を下す理由が不明瞭だ。怪しさが拭えない。
「校長先生。僕は魔術が使えませんよ?」
と、少し不名誉だがカマをかける。普通なら僕に魔術が使えるとは思えないだろう。いくつか開発した術も他言はしていないはずだ。
「ふむ、そうかもしれんが、君がもたらす影響は彼女に取って良いものだと私は考える。君はウィンチェスターの名を冠する。君に何か有ると私は踏んでいる。それだけだよ。何も怪しむ必要はない。」
ふむ、校長の話が余りにも教職の意見として終わってる事は置いておくとして、こうも言われて悪い気はしない。
「分かりました。納得はしませんが。私は組むこと に反対しません。」
あとはそこにいる少女の判断だ。ミリアを向いて意見を求める。
「.........校長先生の御命令ならば。私も問題ありません。」
不服そうな顔である。うまくやっていける自身がどんどんと失われていくばかりだ。腹が痛くなってきたため、俺も顔をしかめた。