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9話


四天王が一角、ミアージュはキレていた。


理由としては色々ある。

仕事が多すぎる、寝れない、他の四天王が働かない、だけれど彼らは長い年月を生きてきた古株なので魔族としても四天王としても未熟な自分が注意することなどできない。


どうしてこうなってしまったのか。


そこまで考えて、ふと思い出した。

こうなってしまったのはもともと自分が原因だった、と。


一度彼らに回された仕事を断れなくて引き受けてしまったことがある。

ミアージュもまだ四天王になってすぐの頃だった、先輩たちにいいとこ見せたくって張り切りまくってしまったのだ。

それはもう、他の四天王の予想していたよりもはるかに上回る成果を叩きだした。

他の四天王は「なんだこいつおもしれぇ!」と今まで自分のやっていた管轄を「こいつに任せた方が早く終わるんじゃね?」と、器用な彼女に任せるようになってしまったのだ。優秀すぎるのも悩みどころである。


そしてつもりに積もってきたストレスが今、爆発した。


「――何で貴方が私の執務室にいるんですか?!」


「いやちょっと休憩したくって……ここのソファー随分と寝心地が良かったから」

「最近体が動かせなくってイライラしてました。中庭行きましょう」

「君他の四天王には強く言えないのに、この城で一番古株の僕には結構ズバズバいうよね」


そう言って立ち上がった背の高い優男を魔族の中では低身長のミアージュは睨みつけた。

ほんっと信じられない、こんな男が自分の何倍もこの城で生きてきたなんて。


この世で最も長命な種族、エルフ。

その血を半分受け継いでいるらしい彼の本当の年齢はこの城の誰も知らないらしい。

そう、彼はそれだけ自分のことを話さないのだ。一応名前は名乗っているが、それすら本当の名なのか分からない。

彼はこの城にずっと昔からいるが野心が無いのか、全く権力や高い地位を得ようとしないため彼の立場は一応普通の一般兵と同じである。しかし彼は四天王の中でも最も古株の者になぜか気に入られているというか慕われている。彼のこの城での立ち位置はなんというか…………本当に訳が分からない、あぁ苛々してきた。


ミアージュの内心などつゆ知らず、男はニコニコしながら言った。


「いいよ、手合わせしたいんだったら中庭行こうか」

「待ってください、中庭であなたが魔法を使ったら城がとんでもないことになります」

「別に壊れてもいいよ、僕が魔法で修復すれば大丈夫だろう?」


そういえば昔の魔王と戦ったときも城何回か壊したことあったなぁ。


真実か虚言か分からないことをペラペラと話すこの男に、ミアージュは更に腹が立った。

壊す気で言うな。つかはよ帰れや。


下手したら本当に中庭に行きそうなこの男に、じわじわと湧いてくる怒りを抑えて用件を聞いた。


「何のために来たんですか。本当にこのソファーが好きならばあげますから帰ってください」

「あはは、冗談だよ」

「冗談じゃなかったら頭おかしいです」


さっさと話せ。

ちょっとばかし殺意を練り込んだ目線を送った。

男はへらへらとした笑いを、途端にゆらりと気味の悪いものに変えた。


気味の悪いもの。いいや違う、美しい。

顔の造形が彼は整いすぎている故、気味が悪いと言っても美しかった。


違う、そんなものではないのだ。

その美しい顔の、……………その奥に隠された底気味悪さ。


ミアージュの背筋に寒気が走った。

にこりと笑ったまま、男は口を開いた。


「随分、気に入ったみたいだね。あの人間を」

「……………………人間?魔女ではなかったのですか?」

「うーん、正直微妙なんだよね。僕と同じ混ざりものかもしれないけど。……魔女にしてはあまりに魔力が少なすぎる。あんなんじゃ水のちっさい球も作れないよ」

「は??弱すぎませんか?」

「そう、あまりにも弱い。普通の人間でも、日常で魔法を使うことはあるだろうけど、彼女はそれすらもままならないだろうと思って」


それを聞いて思わずゾッとした。

今更人間だと魔族たちにばれたら、あの娘はどんな目にあうだろう。


この間の人間が攻めてきた戦いで、複数の死者が出ているのだ。

人間という単語に特に敏感なこの時期に。彼女が………………。

しかもあれは弱い、牢に食事を届けていた時、至近距離で見て弱そうだとは思っていたが話を聞いて確信した。魔族の生まれて間もない赤子でもあの娘は負けるかもしれない。弱すぎる。


「まぁ、僕の魔力に本能が反応して怒ってたのは魔女の特性だし、魔力を体内で操作するっていう高度なテクニックができてたから、……そういやなんであれ出来てたんだろうね」

「魔力の体内操作?人間の魔術師で、できるものは限られてると聞きます。余程すぐれた師がいたのでしょうか」

「そんな優れた魔術師を雇える程位の高い貴族じゃなかったっぽいよ、一通り彼女の生まれを調べてみたけどただの男爵家だった。しかも没落寸前で、女当主は病。…らしいけど」


ソファーの肘置きに肘をついたまま、何か言葉を選ぶように彼は息を吐いた。


「けど?とは?」


「いやぁ、魔女っていつの時代も情報操作得意だからね、正直病なのか?とは疑うよ、生まれもきちんと調べたら出てきたけど、本当の人物を殺してその人物そっくりになり替わったりもできるから」

「それは……随分よく調べましたね。気分屋で有名なあなたが珍しい」

「あはは、エルフの血が濃いのかな、気になったことはとことん調べたいたちなんだよね」


ぱちりとウインクを飛ばしてきた男。

恐らくミアージュの祖父母よりも年が上であろう人物にウインクを飛ばされ、ミアージュは何とも言えない気持ちになった。その姿さえ様になっているものだから腹が立った。


「そうそう、彼女、君の部下と何か企んでるのを見たよ」

「私の部下ですか?」

「うんそう、サキュバスの子」


頭の中でまるで妹に接するように、優しく笑いかけてくる美しい部下の姿が浮かんだ。

リメヌ。


「リメヌ………」

「結構貴重な書類を持ち出してたからさ、あれ許可取ってるの?」

「さぁ………歴史的な書類はオーヴィタ様の管轄ですので……」

「うーん、許可は取ってるかどうかわからないけど、あの子に渡してたからさ」

「はい??」


ミアージュは思わず立ち上がった。


そうなれば話は違う。

リメヌは四天王の下につく十六魔官のなかでも相当な実力者、しかも前魔王様に気に入られていた人物だ。ミアージュよりも年上で、彼女にその気はなかったからいいものの、四天王の空席をもしかしたらミアージュと争っていたかもしれない、確かな実力者。

この城の中では彼女は上司であるミアージュに必ずしも許可を取らなくっても彼女の意志で状況に応じて部下を動かすことができる。


他の四天王にも顔が利く、しかも人付き合いの上手い彼女のことだ、多少粗相をしても誰からも基本許されるだろう。


しかし、あの娘…………ラズベリーは立場で言えばただのメイドに過ぎない。

しかもこの間まで捕虜の人間として扱われていたメイドだ。いきなり、実は魔女だったんです。と、この城のメイドになった彼女を未だに怪しむものは少なくない。


特にミアージュの他の四天王は彼女のことを魔女だと認めていないものもいる。

この間の四天王会議でも言われた「あの娘にとって都合が良すぎないか」と。


そりゃそうだ、この間までどうしてやろうかと牢獄にぶち込まれていたのに、いきなり目の前の男の一存でこの城のメイド、要するに魔族と同じ扱いを受けることになったというのだから。

ラズベリーが仕組んだことだとでも言いたいのだろうか。確かに自分も話だけ聞けばそう考えるかもしれない。


だけど一か月、たった一ヶ月だがミアージュは彼女の人柄や性格を見て判断したことがある。



あの娘に、なにかを仕組めるほどの頭はない。



この言葉をラズベリーが聞いていたら「ちょ、酷すぎムリ泣いたマジ病むんゴ」とでも言いそうだが、それはともかくミアージュは彼女にまぁまぁ絆されていた。


「あの娘、………ラズベリー、は、どのような書類を受け取ったのですか?」


「ん?あぁ、



………………魔王の呪いを死ぬ前に前四天王のクロウメーデが記したやつ」











「はい??????」


ミアージュが啞然と口を開いた瞬間だった。






ドゥゥゥゥゥゥゥゥン、!!!!!


突然床が揺れた。

まるで巨大な隕石が地に降り注いだような轟音が轟く。


「っ、な、なにが」


「あぁ、なんか膨大な魔力が瞬発的に弾けたね。………ちょっと待って今『辿る』から」


男は立ち上がり、指先を軽く振って空間の魔力をかき乱した。


「ん、そうだ、ね。………………アハッ。…ミアージュ、例の娘の所に行くよ」


ミアージュはごくりと唾をのんだ。

そのまま床に広がった、やけに楽しそうに笑う彼の転移魔法陣に身を任せた。


あぁ、また胃痛が酷くなりそう。

次の四天王会議のことを考え、ミアージュは思わず胸中で頭を抱えた。


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