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2話


あぁー幸せ。


ここに来てから、丸1週間が経ちましたが、なんと私、………!


一度も死んでません!素晴らしい!拍手!



いやぁね、段々と今いる自分の状況が分かってきた。

私もそこまで馬鹿じゃない、今自分が置かれている環境が、あの国では絶対にないという事くらい分かってる。あぁ、三食風呂付!なんて神待遇!


あのイケメンのオニーサンは二日おきくらいに少しの間だけ、私に会いに来てくれる。

どうやら気が狂ってる(と思われている)私の生存確認だという。

はっはっは、こんな天国みたいな環境で舌を噛みちぎって自害でもすると思ってるのか。ありえないな、そもそもそんな度胸はない。私は今まで散々死んできたが、一度も自殺したことなんてない。怖いからね。


オニーサンが言うには、オニーサンの部下が勝手に、死んで地下室に運ばれている途中の私と、私を運んでいた城の兵を、あの城から勝手に拉致ってきたらしい。すげぇなオイ。

ん?でも私王様に売り飛ばされたって言ってなかった?どゆこと?まぁいいか。深く考えても得することはなさそう。

私のスキルについて知っているものはごく一部だ。それもかなり身分が高い。

私をえっちらおっちら運んでたであろうやつらも、兵と言えども、相当身分は高い方であろう。おそらくきている服も他の兵に比べて豪華だったはずだ。


そんな奴らが二人して、担架に乗せて運んでいる私。


オニーサンの部下はどうやら、怪我して医務室に運ばれている途中の貴族のすごいご令嬢だと思ったらしい。


まぁ、それで理由は知らないが兵の二人と丸ごと拉致ったという。



「……城に侵入できるくらいなら、我が国を滅ぼすことくらい簡単だったはずでは?」

「それは違います、我らが魔族は貴方たち人間と違って、戦争を好き好んでいません」

「うぉビックリしたぁ!」


この城の人は、急に現れるのが好きなのだろうか。


黒い小さな角が頭に二つ付いている、おそらく鬼系の魔族の女の子。年は人間で言うと15くらいだろうか。

黒いメイド服のような恰好をしていて、私を少し睨む彼女は、毎日食事を朝昼晩と届けてくれる。


この子も魔力の扱い方が普通の魔族とは別格だ、かなり高い地位の子だろう。

そんな子がどうして一捕虜の私に飯を届ける役割なんかしてんのか分からんが、……というかなんとなく想像はつくが考えたくないですね。

ここは天国だが敵国のど真ん中らしい。私の命は蝋燭の灯のようなものである。

私は感情を隠すのが苦手だ、変なことを考えているとすぐバレるのだ。


それよりもおいしそうな香りが鼻腔を掠めた。

女の子の持っているトレーを見て、思わず涎が垂れそうになった。


「あぁもう、ここって天国?」

「あなたにとっては敵国ですが?」

「もうほんと……ぜひうちの国滅ぼしてください………!」


顔を抑えて幸せに悶えていると、女の子はため息をついて鉄格子をすり抜けて、牢屋の中に入ってきた。

この女の子は多分外見からして鬼系の魔族。かなり魔族の中でも戦闘力が高く、魔法はあまり使えないがその分常人離れした身体能力を持っていることで有名だ。

魔法があまり使えない??鉄格子をすり抜けれるんだぞ??使えないってどういうこと??


「はぁ、やはり気が狂ってしまいましたか。拷問をして情報を吐き出させよという声もありますが、こんな人間から情報なんて………」

「えっいま拷問って言った??」


この子さらっと怖いこと言ったな。


「もしかして私、近日中に拷問されちゃうの?」

「……いいえ、その可能性は低いですよ。貴族のご令嬢を拷問したところで出てくる情報はたかが知れていますし、廃人になったら捕虜として役立ちませんからね。相手にとって都合の良い火種を自ら作るなんて愚かなこと、魔族はしません」


………貴族のご令嬢ね。


私の家なんて没落寸前の男爵家なんだけどなぁ。

お母様は病で、治療費のために私を王城に売るレベルで金ないし。

お母様、夜な夜な起き上がって危なそうな薬を地下室で作ってるの見てたけど、本当に病なのだろうか。

もし趣味の、薬を研究するための費用がうんたらかんたらで私を王宮に売り飛ばしたんだとすれば家出してやる。もう二度と戻ってやんねぇ。


んなことを考えている間に、カチャりと食器が鉄製の机の上に置かれた。


「……温かいご飯が食べれる幸せ………」


湯気が立ち上がるご飯を見てそう呟くと、女の子は更に眉間に皴を刻んだ。


「何を言うんですか、貴族のご令嬢にとって粗末なもので悪かったですね」

「美味しいですよ?」

「馬鹿にしてらっしゃるんですか?それとももともと味覚がおかしかったのかしら」


キッと、眼光を鋭くして彼女が私を睨む。

嫌われてんなぁ、まぁよく考えれば敵国の人間だもんなぁ。

人間って長い間魔族を虐殺してきた歴史があるから、そりゃあ恨まれても仕方ないよね。むしろこの位の殺意、魔族の中ではかなり少ない方なのではないか。


私が城に勤める少し前に起こった、国全体で大きな話題となった、魔族の話がある。

ある日城に一人で攻めてきた幼い子供の姿をした魔族は「もう捨てるものは何もない、呪いが発動しても何も困ることはない」そう言って城の兵をかなりの数惨殺したという。

その魔族は沢山の人間を魔法で首を飛ばした数分後、何故かそのまま倒れ込み死んだという。


怖い話だ、関わりたくないし深読みする理由もなかったので過去の歴史と思っている。


「………私ってどうなるんですか?」

「…教えると思いますか?」

「私ここに居たいです。ご飯も美味しいし、寒くも熱くもないし、確かにちょっと暇だけどでも幸せ」


そう言うと、魔族の女の子は少し目を丸くした。


スプーンにチーズリゾットのような粥を乗せ、口に含む。

うん、美味しい。


私が食べているのを感情が読めない目で見た後、踵を返してそのまま鉄格子をすり抜けた。


「くれぐれも、逃げ出すなんて馬鹿なことは考えないで下さいね」


もう一度私を睨んだ後、彼女は闇に溶けるように消えた。



………逆に逃げて何のメリットがあるんだろう。

よくわからないや、そう思いながらまた一口、匙を口に入れた。


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