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11話


横を向くと膨大な魔力。前を向くと膨大な魔力その二。


この時点で思ったことがある。

もしかして私が今から連れていかれる場所は処刑場なのでは。


なんてったって四天王二人に挟まれてる状況らしいですからね私。

我が母国の将軍でもこんな目に遭ったことはねーでしょうよ。貴重な体験と言われればそうだ。


連行されていく私を見てヒソヒソと何か話している魔族の方々。

うん、だよねー。


だって今私手錠してるしね☆

服も吹き飛んでしまってミアージュが即席で作ったシンプルな無地のワンピースだしね。

まさに囚人と言いますか。いや、この間までこんな感じだったか。手錠はつけられなかったけど。


ちらりと、左側を向く。

ミアージュはいつも魔力を体の外に放出するのを制限していたらしい。

今、彼女の体からは膨大な魔力が流れ出している。私の左側にいるヨイナガ、と言った私をさっき威圧してきた美少年はミアージュに様呼びされていた。どうやら本当に四天王らしい。


この美少年はミアージュと違ってずっと魔力を垂れ流していた。

まぁ私を威圧するためだろうけど。そりゃいきなり森が更地になってそのど真ん中に全裸の女が座り込んでたら、なんだこの女、となりますよね。

さっきイケメンさんとミアージュとこの美少年で私を置いて何やら難しい話をしやがってから、このショタは私を見ようとしない。一体何を話したんだよ。


無性に気まずくて、髪を触ろうとするとカチャリ、と金属音がした。


「……あっ、あっの、ミアージュ」

「……………申し訳ありませんが、城の森があんな状態になってしまったので一応拘束は外せません」

「ですよねぇ、……やっぱり私これから処刑されちゃう?」

「いいえ、……今向かっているのは、会議室です」

「会議室?」


なんで………と言おうとした時、何となく妄想が浮かび上がった。


横にいるのは四天王二人。


前にミアージュと食堂で話したときのことだ。

いつもは彼女は私を見かけると、目を合わせて彼女と話したそうにしている私に気を使って、私の席の向かいに座って長話に付き合ってくれるのだ。


が、あの日は違った。



「え、もう行っちゃうの………?」

「っ、………そ、今日は会議がありまして」


「会議?」


私が首を傾げるとミアージュは咳払いをして言った。


「…………四天王会議です。西の地方で魔族同士の内乱があったようで、臨時で行われるんです」



四天王会議。


なにか、それなりに大きい出来事があった際に緊急で行われる、魔族で現時点で最も権力のある四者だけの、誰も聞き耳を立てることのできない空間で行われる会議。


この城で孤立しているが故にあまりに世間知らずな私に、リメヌさんが教えてくれた。


「もしかして、」


「そう、四天王会議じゃ」


くるりと私に振り向いて、覗き込むようにクスリと笑ったのはヨイナガだった。


「お主、ほんっとうに魔力量が少ないのう、人間でもここまで少ない魔力量の者は見たことないぞ」

「えっ、どうして」

「儂はおしゃべりなんじゃ、興味がある事柄についてはな。……ずっと黙って無口な美少年だと思ったら大違いじゃぞ。、ずっとお前の魔力を測っていた。いや、あまりに少なすぎて驚いて測りなおしてたんじゃ」


さっきまでずっと無言だったのはそういう事かよ。

にしても本当に測られたのか?……クッソ、鈍ってるな。お母様とあのボロ屋敷にいた時は自分になにか魔法を掛けられるのに敏感だったのに。


段々魔族の通りが少なくなってきた。


同じ城の中でもこれほど差があるのか。いや広すぎだろ。もう20分くらい歩いてるんだけど。


踏んでいるのはさっきの絨毯と同じだが、下の床は石になっている。さっきまでは木だったのに。


「ヨイナガ様は、なぜこの娘と一緒に居られたんですか?なぜ、この子は服を着ていなかったのです?」


ミアージュが突然口を開いた。

思わず足を止めそうになったが、彼女も、少年も足を止めることなく歩いていたので焦って歩調を合わせた。


「ん?何じゃミアージュ……こいつは元々服を着取らんかったぞ」

「えっ」

「えっ、ちょ、やめて下さい人のこと痴女みたいに言うの」


なっにを言い出すんだこいつ。

あっ、やべぇ、ミアージュが私の事をドン引きしているような気がする、違うんだ。私はやってない。なにも。………………えっ、なにを?


「ちっ、がうよ?あの爆発で服が木端微塵になっちゃって」


慌てて両手を動かしてミアージュに弁解する私を隣にいる少年は楽しそうして言った。




「それにしてはお主、身体に傷一つなかったのう」







―――――あ、やっちまったわァ!!



私を目を見開いて見つめながら黙り込むミアージュ。

ニヤリと意地が悪そうに笑い、私を覗き込むヨイナガ。


「………………」

「………………」

「………………えと」





――――――いっけね、やっちまったわァ!!!!!!!


―――そら、確かに服が吹き飛び灰になるほどのダメージを受けて、どうしてお前は生きとるん??って話になるわぁ!!!!


頭の中が真っ暗になった。

え、どしよ、、え、本当に!どうしよう!!


思わずその場に立ち竦んだ。

冷や汗が額から頬をつたう。


………私がこの人達に自分のスキルを話さなかったのは理由がある。


このスキル関連で、私は何か得をしたことがない。それが言葉として表せる理由としては最も大きい。

だが、だが。本当は。


怖かったのだ。

私は。怖かったのだ。



小さい頃、町にお母様に内緒で遊びに行った時、優しくしてくれたおばあさんがいた。

そのおばあさんが獣に襲われた時のことだ。山菜を取って帰る、森の帰り道だった。私はそのおばあさんによく懐いていて、おばあさんを会ったことのない祖母として見ていた。

町に遊びに行くたびにおばあさんの行くところに引っ付いてった。


その時もそうだった。

おばあさんと歩いていると、魔物が現れた。

大きい、名前は分からないが種類はウルフだった。


おばあさんは顔を顰めて私に行った。逃げなさいと、今までに聞いたことないほど強張った声で。


私はおばあさんに一度たりとも自分のスキルを話したことがなかった。

お母様に屋敷の外の者に話してはいけないと、耳にタコができるまで言い聞かされていた。


でもまぁ、おばあさんにその狼が飛びかかった時、わたしは無意識に駆け出していたのだ。


だって、私は死なない。


痛かった。肩を噛まれた、鋭い爪で胸を裂かれた。

私の後ろで腰が抜けて、おばあさんは悲鳴を上げていた。


ダラダラと私の体から垂れる鮮血を、私はぼおっと見つめた。

死ぬのは初めてだった。

その場に倒れ意識が消え、ふと目が覚めると狼はおばあさんを食おうとしていた。


いけないと思った。


身体はむしろ寝て起きた時よりも元気で、山を登って降りて消耗していた体力も全快していた。

おばあさんを殺そうとしている狼の目の前に立った。


ゾッとするほど、狼の瞳に映っていた私の姿はどこか浮世離れしていた。

狼は怯えるように吠えた。なぜお前が生きているのかと。

一歩一歩、覚束ない歩調で近づくと狼は逃げて行った。


なぁんだ、大したことない。私は何度でも襲われて、その間におばあさんが目覚めればよいと思っていたけど。この程度で逃げるような腑抜けでよかった。


後ろで怯えて腰が抜けているはずのおばあさんに笑いかけた。


「大丈夫?けが、な………………」


そこまで言って、目の前の老人の様子がいつもと違うことに気づいた。



「化け物!!!」


な。

なんで、あぁ、………そういうことか。


「おばあさん、私ね。死なないの」


私は自分のスキルについて語った。

自分の血濡れて破けた服を見つめて、あぁ、お母様に後で怒られてしまうかも。


そのくらいしか悩むことがなかった。


お母様に屋敷の者以外に自分のスキルを言ってはいけないのだと、そう言われてることをおばあさんに言い終わった後。

おばあさんは噛みつくように、悲痛な声で私に言ったのだ。


「なによ、なによそれ……!」

「え?」


「何で貴方みたいに、恵まれてる貴族が!毎日の食事にも困らない、なにも苦労することのない貴族が!そんな、まるで女神さまに愛されているようなスキルを持ってるの!」

「おばあさ」

「私の娘は!!獣に食われて死んだ!私の娘は何も悪いことをしていなかった!」

「な、」

「それなのにお前は!このっ、化け物が!!どうしてっ!」

「おばあさん、ねぇ、」

「あぁ、あぁ!ルーリア!なんでルーリアは死んだの!お前は生きているのに!なんで!」

「っ、あ、」

「………………この、化け物が………」








「……………私の娘の代わりに死ねばよかったのに……!!!」




あの血走った瞳が今でも網膜に鮮明に焼き付いている。


おばあさんは私の事がずっと嫌いだったのか。それとも………。いやそんな考えはよそう。

あの後屋敷の使用人がたまたま私の近くを巡回していて、私の手を引いて屋敷に戻った。

複数人屋敷の使用人がそこに集まってきて、屋敷に帰ってきた後、お母様にも「駄目じゃない、ラズちゃん」と少しだけ叱られた。

あのおばあさんは、もうあれからずっと見かけていない。今、何をしているのだろうか。



「……………ヨイナガ様、あまり意地悪をしないであげてください」


ミアージュの声でフッと意識が浮上した。

背中に回された手が暖かい。


「はぁ、どうせ会議でそのことについても吐いてもらうんじゃ。今言っても変わりはなかろう」

「そうですが、」

「なんじゃ、ミアージュは随分その娘に絆されておるの。そんな調子じゃ、オーヴィタ翁の口車にまぁた乗せられるぞ」


はぁ、とため息をついて再び歩き出す彼をぼおっと見た。

すると突然立ち止まってこちらを振りかえった。


「言っておくが、儂は優しいんじゃぞ」


…………マジですかい。


「今から会う二人はもう、曲者以外の表現がない奴らじゃ。


………………しかと覚悟せぇ」


にんまりと目元の紅を揺らして笑った美少年に鳥肌が立った。

あと、汗の滲んだ私の背中を撫でてくれるミアージュに少し申し訳なくなった。


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