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10話


やっべ、やっちまった。


神々しいというより、目が焼き潰れそうな破壊的な光を放つ私の目の前にある柱を見て思わず手を合わせて祈った。すんませんした私が悪かったですどうか怒りよ静まりたまへ。


さっきの爆発で一回死んだ。

運がよく8秒程度で生き返ったっぽいけど。

爆発で焦げて服は灰になって飛び散った。お陰様で私は今一糸まとわぬ全裸である。ざけんな。


あれれ、おっかしーなー。私こんなつもりじゃなかったんだけど。

むしろ全身全霊で慎重に書類の通りに呪いの全体図を描きだしていただけだ。いや、ごめん嘘ついた。

勿論呪いの形については大体把握した。魔王なんて、歴史に残る天才だ。くっっそ綿密な魔法陣の重ね合い、魔力の糸の絡まり、もうお母様に幼少期から呪いの専門知識を叩き込まれるという英才教育を受けた私じゃなきゃ把握できないね!…………いや、まぁ、呪い自体が膨大過ぎて全部は理解できなかったが。


それを。理解したうえで、暇になった私は次のステップに進んだのだ。


この城で魔王は死んだという話だから、要するに呪いの発生地はこの城という事で。

ついでに魔王の死んだ場所が呪いの発生地ど真ん中、呪いを解くにあたって手掛かりになりそうなものが見つかるんじゃないかと思いまして、「魔王様と勇者(クソったれ)」が戦った地。みたいなことが書かれている場所がこの城の地図の中にあったので行ったわけですよ。


森ん中でした。


私は調子に乗りました。

お母様が昔「呪いは地面に刻まれていることが多いわ、だからこうやると呪いに触れられることがあるのよ」とか言って地面から呪いのようなドロドロした魔力の塊を引っこ抜いていたのを真似して、昔お母様に教わった通りによっこらせと、地面に仄かに感じる魔力を引っ張ってみたのだ。


それが



ドゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!


である。


ぺりっと、はがすように持ち上げた瞬間私は死んだ。

爆死した。文字通り。


いやはや、どうしたものか。

いやマジでどうしよ。あたり一面更地なんだけど。


「やっべぇ、やっちまったよ」


光の柱が段々と消え、


結構城の地図に載ってたとは言え、城からは1キロくらい離れたところまで歩いてきたはずだ。

それが森の木々は全て弾け飛び、燃え、灰となり、城がここから見えるようになった。

わぁ、お空がきれい。世界って美しいわぁー。


呆然と空を見上げた。


あはっ、助けてお母様(ママン)。僕とんでもねぇことやっちまったっぽいわ、どうしよ。


何も考えたく無くって、ただ呼吸を繰り返した。



「―――ヒュ、ゴヒュ、、ッ、ゴホッ」


突然、喉の奥を絞めつけるような濃い魔力が現れた。

後ろを振り向く、




「おや、小娘や。お前が例の「魔女」か?」


宙で胡坐をついて、クスリと笑ったのは少年だった。


…………そうじゃない、、これは少年の見目をしているが違う、ただの魔族じゃない。

圧倒的な強者の瞳をしている少年をただ観察することしかできない。


目元に赤い紅のようなものを引いていた。

東の地方の伝承で出てくる狐の神様のような雰囲気を纏っている。

顔立ちは幼さく、まさに普通の少年と同じ容貌だ。やはり異質な感じはするが。

黒髪はインクを塗ったように漆黒で、なにも混じりものがないような色で艶があった。


黒曜石みたい。


そういう感想を思った後、少年は悪戯っ子のように笑った。


「あぁそうじゃな、儂が名乗っとらんのに、お前が先に名乗る道理はないわな」



宙から飛び跳ねるように地面に足をおろし、少年は胸に手を当てて言った。


「儂は四天王が一人、ヨイナガじゃ。好きに呼んでくれて構わんぞ」



四天王……ミアージュと同じ。


ヨイ、ナガ。


宵………長い、宵。

変わった響きだ、それでいて奇麗だとも思った。


「して、お主に一つ聞きたいことがあってなぁ」


少年、ヨイナガは獲物を射るように目を細めて胸元から扇子を取り出した。




「これは、なんじゃ?」


「―――この更地はなんじゃ?」


扇子をゆっくりと地面に向けて仰ぎながら私の顔を覗き込んだ。


の、喉から声が上手く出ない。

人外、まさに人外のように瞳孔を鋭く獣のように細めて目を見開きながら、ヨイナガは私に問いかける。


これほど、じんわりと身を蝕む恐怖を私は感じたことがない。

どうしよう、何か話さないといけない、のに、


私の頭ン中では「やっべー、コイツこっえーよやっべーw」くらいしか文章が浮かんでこないのだ。



「のぅ、聞いておるぞ小娘」



あっ、すんません、ホントスンマセン、いやマジでなんか喋れねぇよ喋れるわけねえだろアンタその威圧どうにかしろよボーイ。いやコイツどう考えても少年じゃねえだろ。こんな威圧放てるボーイがいてたまるかクソったれ。絶対ショタジジィだろコイツ。


脳内で罵詈雑言と恐怖がごっちゃになって自分でも訳が分からなくなっているのに、目の前の東洋風美少年は威圧オーラを放ちまくりでさらに冷や汗が体中滴る。

頬がありえんくらい熱い。


「なんじゃ、こむす………………め。」


目の前の淡麗な顔が、いきなり腑抜けたような、唖然とした表情になった。


なんですかおめぇ。至近距離で顔を覗き込むなっつーの。

ただでさえいま涙目でひでー顔だと思うのに、そんなにがっつり見るんじゃねーですよこんにゃろー。


いきなり彼は、はぁ、と息を吐いて眉を顰め微笑んだ。

威圧ではなく、ふんわりと謎な色気が肌を掠めた。


「なんじゃ、酷い顔しておるぞ、お主」


そう言って優しく撫でるような手つきで私の頬に触れた。

瞬間、私は潜在能力を開花させ、信じられねぇくらいのバネで宙を飛び一回転して少年から距離を取った。


「やめろぉぉォォォ!!!私に触れるなこのお色気ショタジジィ(仮定)が!!」

「え?」


「どうせあれだろぅ!お前私の事、なんだこいつめっちゃ顔やべー不細工―とでも思ってたんだろう!泣くぞ!」

「いや違…」

「そりゃあね!誰でも至近距離であんな威圧されたら顔グチョングチョンにもなりますよ!悪かったな不細工でよぉ!」

「ちょ、」

「もうヤダぁ!この更地?知らねぇよ!呪いに弱いこの地がいけないんだ(?)!私悪くないよー!うわぁあああああん!!!お母様ァァ!!!」


あぁあぁ、!と泣き崩れた私を見てオロオロしている美少年。


そんなことはどうでもいい。

私が今一番危惧してこれほどまでに絶望しているのは、


そう、城の森一帯を更地にした罪でこの城から追い出されるという事だ。


やめてくれあんなグロデスクな日々はもうこりごりだ。

だからと言って各地を転々と旅するほど私に勇気はない。でも一か所にとどまっていると姫様は必ず私を捕まえるだろう。あの人謎に執念深いし。

この、「魔王城」という最強の盾に隠れていれば私は姫様に見つからないはず、そう思っていた。


その盾を取り上げられてしまえば私はホントに何もすることができなくなってしまう。


いやワンチャン極刑が狙える。

いいな極刑。極刑になりたいな。うん。

極刑なら私死なないし。別に。あ、でも死んで生き返った後どうなるんだろ私。そこまで考えてなかったわ。





「ちょ、っ、どうしてこんなことに、というか、なんであなた服着てないんですか!?」


聞き覚えのある声がした。

反射的に横に振り向く。


あっ、あ、み、


「ミアージュぅっ…………!!!」

「なっ、ちょ、服着………!インデュメンタム(生糸の綾衣)!!」


ミアージュに手を伸ばして駆けだそうとするが、ヤベェ、腰が抜けて立ち上がれな、


い、


と思う前か。それは分からないが、彼女の魔力が瞬く間に私の体をまるで衣のように包み、具現化されて服となった。

すっ、すっご。何この魔法見たことない。


流石四天王。


知っている存在が現れて思わず安堵で涙が出てきそう。

というか私さっきまであの少年の前で全裸だったってことだよね?あの子私に来ていたコート羽織らせるとかなんか、こう、慈悲なかったの?


ミアージュがたったっと軽い足取りで私の前でしゃがんだ。


「状況が呑み込めません、一体どうしてこのようなことが………」

「そっ、それは、」


どうやって話そうか。


「うーん、凄いね、流石魔女の血だ。どうやら呪いが解けてるらしい」


ふと頭上から降ってきたのはまたしても聞き覚えのある声だ。

にしても随分久しぶりだが。


「イケメンさん………」

「僕の渾名それで固定なの?」


ムッとした表情のイケメンさん。

この間は訳も分からず彼に自分がおかしくなったのかというほど腹が立ったが、今回はそんなことはな……いやなんだかすごくムズムズする。


「ちょっとごめんなさい、私に近づかないで下さい、イライラするんです謎に」

「ごめんね、それは多分……僕がさっき魔法陣を使ったから」


んー、と、こめかみに親指を当てて何やら考え事をしているような彼。


あっ、ちょっと待って、深刻な問題が頭の中で浮かび上がった。

もしかして、このイケメン、いやコイツ……………。



「イケメンさん……………」

「ん、なに?」



「さっき、私の裸見ましたか?」


「あぁ、






……細身でいいと思う」


彼は一瞬私の胸に視線を向け、直ぐに逸らしてそう言った。



………………よし、殺そう。


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