カロリーナ編
朝目覚めると、晴れやかな気分だった。
昨日の朝まで使用人部屋の隅っこで、息をひそめるように小さくなっていたが、昨夜のうちに事情と家族の謝罪を受け、昔の部屋に戻された。
(ようやく取り戻せた)
ホッと息をつくと、身支度を済ませて家族の待つ食堂へと向かった。
「おはようございます。お父様、お母様、お兄様」
「おはよう」
「おはよう、よく眠れたかしら?」
「はい、久しぶりによく眠れました」
「でもまだ顔色が良くないね、疲れが残ってるのかな?」
挨拶をすると、笑顔で返事を返される。兄が私の顔をみて心配してくれる。
懐かしいやり取りに、嬉しくなり少し泣きそうになった。
「大丈夫です、心配して下さってありがとうございます。お兄様」
「それならいいんだけど…本当にすまなかったね、ずいぶん辛かっただろう?」
「あの孤児は売り払ったし、もう心配ないわ。これからは何でも言ってちょうだい。苦労させた分やり直したいわ」
「ありがとうございます、お母様。やり直しましょう」
笑顔で返すと、母もホッとしたように笑ってくれた。
「本当にすまなかったなカロリーナ。さぁ食事にしよう。今日はお祝いだ、カロリーナの好きな物を用意させた」
「「「はい」」」
父の言葉に、全員が食事に手をつけた。
「そういえば、あの子はどこに売られたのですか?」
朝食も終わる頃一通りの話題が済むと、ふと気になった。
「ふむ、確か…マーダー国の第一王子が競り落としたそうだ」
私の疑問に、父が答えてくれた。
「マーダー国ですか?」
「第一王子というと…ジャック王子ですね」
私が首をかしげると、兄も話題に加わった。
(マーダー国の王家って確か、殺人が趣味の精神異常者揃いだったわよね?第一王子は確か…」
「もうどうでもいいじゃない。いなくなった子の事なんて、考えても仕方ないわ。『かわいそうな子』は王子様に引き取られて行った、それでいいじゃない」
母の言葉に、思考を中断する。
「そうですね、もう終わった事ですしね」
「そうだな、もう済んだ事だ」
「そうですね、そんな事より久しぶりに家族で出かけませんか?あの孤児のせいで、ずっとご無沙汰だったでしょう?」
兄の提案に皆笑顔で頷き、次の話題へと移っていった。
『かわいそうな子』はもういない。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。