サリー編②
私が侯爵家に来てから、数年が経った。
「サリー、1週間後に王宮で15歳の祝宴があるから、準備しておきなさい」
ある日の朝食で、お義父様が話を切り出した。
「祝宴?」
私が首をかしげると、お義母様が補足した。
「貴族に引き取られた『かわいそうな子』は、15歳になると王宮で特別パーティが開かれるのよ」
その言葉に、パッと顔を輝かせる。
「王宮でパーティなんて初めてだわ、嬉しい!」
喜ぶ私に、リカルドお義兄様も笑顔を向けてくる。
「そうだね、他国の王子様もいらっしゃるし、きっと楽しいパーティになると思うよ」
楽しみだと笑う私達に、隅から声がかかった。
「あの…お父様、私も行ってみたいです…」
視線を向けると、カロリーナだった。
カロリーナは私の指示でここ数年はずっと、使用人の扱いになっていた。
地味なカロリーナを見ると、とても気分が良かった。
奪ったアクセサリーやドレスをこれみよがしにつけてみせると、悲しそうな顔をして見ていて最高だった。
家族も持ち物も全て私のもの。
もっと痛めつけてやりたいが、さすがに体罰は止められた。
そんなカロリーナが王宮のパーティに行きたいなんて、身の程を知らない。
さてどうやって、罵ってやろうか。
そんな事を考えてる間に、お義父様の制止がかかった。
「何を言ってるんだ、カロリーナ。お前は行く必要はない」
お義父様に続いて、お義母様とお義兄様も追従する。
「そうよ、カロリーナ。これは『かわいそうな子』のためのパーティよ。貴方は行かなくていいわ」
「そうだよ、王宮は危ないよ?いい子だからお留守番してようね…もう少しの辛抱だから」
「………はい」
その言葉にカロリーナは泣きそうになりながらも、頷いた。
罵ってやれなかったのが不満だったが、気持ちを切り替えて一週間後のパーティを楽しみにする事にした。
「うわぁ、さすが王宮ね」
侯爵家よりもさらに広大な建物に圧倒された。
パーティ会場も侯爵家より広く、立食パーティのようで、あちこちにご馳走の乗ったテーブルが置かれていた。私くらいの年代の子も、ちらほら集まっていた。
やがて王様の挨拶が始まる。
「皆の者、今日はよく来てくれた。ここまで無事に『かわいそうな子』達を育ててくれて、感謝する。挨拶が終わると、後は各々自由行動になった。
私は早速近くのテーブルで、ご馳走に舌鼓を打つ。
やがて眠くなり、そのまま眠ってしまった。
「ん…?」
ボンヤリと目を覚ますと、私は知らない部屋に寝かされていた。
横を向くと王様と、お義父様達が何か話していた。
「お義父様…?」
呟くと、聞こえたのか4人がこちらを向いた。
「何だ、もう起きたのか」
「睡眠薬が足りなかったのかな?」
王様とお義父様の言葉に、ボンヤリとした頭で首をかしげる。
「睡眠薬…?」
「まぁいい、まだ動けないようだからな。では侯爵ご苦労だった、これが養育費を含めた代金だ」
そう言って王様が、お義父様に金貨の入った袋をたくさん渡していた。
「ありがとうございます」
「まぁこんなに沢山!」
「今日まで我慢して、育てた甲斐がありましたね」
お義母様とお義兄様も、金貨を見て目を輝かせてる。
「どういう事…」
呟くのが聞こえたのか、お義父様が冷たい目で見下ろして来た。
「これが我々、いやこの国の商売だ。身寄りのない孤児を育て教育を施し、他国に売る。そうやってこの国は、生き永らえて来たのだ」
お義父様に続いて、王様も言葉を続ける。
「そうでもなければ、我が国のような小国は財政難で破綻していただろう。不要な孤児を売り払い、我が国は潤う。一石二鳥の商売だ」
「!」
その言葉に、私は今まで何不自由なく育てられてた理由を知る。
いつの間にかお義母様とリカルドお義兄様も、冷たい目で私を見下ろしていた。
「全く…孤児が調子に乗って、私の可愛いカロリーナを虐めるなんて、何て身の程知らずな」
「全くだ。売り払うまで当主夫妻と嫡子しか知ってはならない秘密を、カロリーナに教える訳にもいかないし、大事な商品に傷をつける訳にもいかないし、どれほど腹立たしかった事か」
「お、お義母様…、お義兄様…」
ずっと愛されてると思ってた三人から睨まれて泣きそうになったが、三人はもう私に見向きもしなかった。
「では我々は、これで失礼します」
「これでカロリーナに、何か買ってあげましょう?今までのお詫びに」
「そうですね。でもそれは後日にして、今日は早く帰りましょう。カロリーナが寂しがって待ってる」
三人共王様に一礼すると、そのまま談笑しながら立ち去って行った。
「さぁ、お前はこっちだ」
そう言って未だ睡眠薬の効果で動けずにいる私を、兵士達が運んでいった。
そのまま私は競りにかけられ、他国に売られて行った。