サリー編①
R15ですが、あくまで保険です。
物心ついた時には、すでに孤児院で暮らしていた。
この国は貧しく、平民でさえ食べるのがやっとの状態だった。
身寄りのない孤児はさらに貧しかった。
孤児院で出る食事は、かろうじて飢え死にしない程度の物で、1つのベッドを2~3人で使う有様だった。
そんな時、孤児院に1人の貴族がやって来た。
何でも侯爵だとかいう、上品そうな紳士だった。
この国では裕福な貴族や王族は、孤児を引き取って15歳まで育てるよう定められており、孤児院を訪れることは珍しくなかった。
皆色めき立ち、貴族を取り囲んでアピールしていた。
私は皆の輪から少し離れたところで、その光景を眺めていた。
(バカみたい)
確かに貴族は孤児を引き取るが、そんな上手い話がそう簡単に転がっているとは思えない。
国で定められているのは引き取る事だけで、その後どう扱われるかは決められていない。
引き取った後、秘密裏に事故死か病死に見せかけて殺される…もしくは奴隷のように扱われるだけだろう。
そんな風に考えていると、件の貴族が近寄って来た。
「君はどうして来ないのかな?皆引き取ってもらいたくて、私にアピールしてきてるぞ?」
不思議そうに、屈んで目線を合わせて聞いてくる。
そんな事を聞いてくる貴族が不思議で、私も答えを返した。
「貴族の気まぐれなんて信用できない。引き取った後事故に見せかけて殺されるのも、奴隷のようにこき使われて衰弱死するのも御免だわ」
そう言うと、周囲で私を妬ましそうに睨みつけていた他の子達が、一斉に波が退くように距離を置いた。
その様子に貴族は苦笑する。
「正直な子だな…それに用心深い。確かに人の気まぐれなんて信用するものじゃない。だがこれはれっきとした取引だ。私は引き取った子に不自由のない生活を与える、代わりに引き取った子には、我が家の役に立ってもらう。どうだ?」
「それなら分かるわ」
私が言うと、侯爵はちょっと笑った。
「理解したのならどうだい、私と一緒に来るかい?君なら、役に立ちそうだ」
そう言って公爵は手を差し出して来た。
「いいわ。飢え死にしないで済むなら、何だってやるわ」
そう言って私は侯爵の手を取った。
「交渉成立だ」
そう言って、侯爵は嬉しそうにニンマリと笑った。
「今日からここが君の家だ」
そう言って侯爵は私を自分の屋敷に連れてくると、家族に紹介した。
「私の妻のアンと、長男のリカルドと、長女のカロリーナだ」
上品そうな夫人と、天使のように綺麗な年上の男の子と、私と同じくらいの女の子が目の前で優しく笑っていた。
「は、初めましてサリーと言います。これからよろしくお願いします」
緊張でどもりながら挨拶する私に、3人とも優しく接してくれた。
「そんなに緊張しなくていいのよ、今日から一緒に暮らすのだから」
夫人が優しく笑うと、2人も優しく話しかけてくれた。
「そうだよ、僕達の事は家族のように接してくれたらいい」
「えぇ、私の事も姉のように思ってくれていいわ」
「あ…ありがとうございます」
とりあえずは、気に入られたようだ。
心の中でホッと一安心した。
翌日から徹底的に令嬢教育を受けさせられた。
カロリーナは私と同じ年のため、一緒に受けることになった。
その頃から少しずつ、カロリーナに対してモヤモヤした気持ちを感じるようになった。
それは日を追うごとに、大きくなっていった。
(同い年なのに、何でこんなに違うの?)
カロリーナは優しい両親と兄に囲まれ、何不自由なく育てられ、いつも笑っている。
対して私は親もなく、その日の食べ物にも事欠く有様だったのに。
(不公平だ)
4人とも優しくしてくれるが、優しくされればされる程、カロリーナが憎らしくなっていった。
そんなある日、抑えこんでいたそれが爆発した。
「カロリーナ、それ何?」
玄関ホールでカロリーナと出くわす。
するとカロリーナは嬉しそうに笑った。
「これはお兄様から誕生日祝いにもらった物よ。綺麗でしょう?とても気に入っているの」
兄リカルドは少し前から、学園に入学し寮生活になった為、長期休暇にしか帰ってこられなくなった。
カロリーナが首にかけていた、綺麗なエメラルドのペンダントを見せてくる。
「何それ?私は貰ってない!」
ふくれっ面をすると、カロリーナが苦笑した。
「2年前の話だもの。貴方が来る前の事よ」
確かに2年前では私はおらず、貰い様がない。
納得はしたものの、感情は別だった。
気づけば、口から言葉が飛び出ていた。
「カロリーナ、それ頂戴!」
「え?」
目の前でカロリーナが目を丸くしていたが、自分でも内心驚いていた。
しかしカロリーナが驚きながらも「これは大切なものだから、ダメよ」と、断って来た。
その態度に、ますます意地になる。
(私と違ってたくさん持っているんだから、いいじゃない)
開き直って、更に強請った。
「嫌よ、ちょうだい!カロリーナはアクセサリーとか、いっぱい持ってるんだから1つくらい良いじゃない!」
くれと手を差し出すと、カロリーナもペンダントを両手で隠して、拒否の姿勢を見せる。
「ダメと言ったらダメよ!人の物を取ろうとするなんて、レディ失格よ。アクセサリーが欲しいなら、お母様に言って、商人を呼んでもらうからこれは諦めなさい」
「嫌よ、それがいいの!」
ホールで言い争っていると、声が聞こえたのか侯爵夫妻がやって来た。
「2人とも、何を騒いでいるんだ」
「一体どうしたの?」
夫妻の登場にカロリーナが、事情を説明する。
(マズイ)
ここにきて、私は冷静になった。
(もし夫妻が怒って、私を追い出したら…)
両手でドレスを握りしめながら、俯いて死刑囚のような気分で夫妻の宣告を待った。
しかし返って来たのは、意外な言葉だった。
「何だそんな事か、それはカロリーナが悪いな」
「そうね、カロリーナの気持ちも分かるけど…サリーは『かわいそうな子』なんだから、譲ってあげなくちゃ」
思いがけない言葉に、私とカロリーナは目を丸くした。
「さぁカロリーナ、サリーにペンダントを譲ってあげなさい」
「カロリーナには、また新しいペンダントを買ってあげるから」
再度夫妻に促されて、カロリーナも渋々と言った態度でペンダントを外して、私の手の平に乗せた。
そうして夫妻は、項垂れたカロリーナを宥めながら、去っていった。
私は事態についていけず終始呆然としてたが、落ちこむカロリーナの背中を見て、カロリーナに勝ったという喜びと興奮が湧いてきた。
(夫妻はカロリーナより私を優先させた)
その事実に優越感を感じた。
そしてこの件で味を占めた私は、次々カロリーナの物を奪い、それだけでは飽き足らずカロリーナを見下し、貶めていった。
そして数年が経った。




