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24.器のでかさ

 というわけで、何故か急いで甚平を作ることになってしまったオレ達は、母親の指導の下、外はとても天気が良いというのに、家に籠ってお裁縫だ。


 史也の希望で、何故かサイズも一緒だ。オレには少し大きいと思うけど、頑張って成長しよう。


 というわけで、サイズも布も一緒なので、まったくのお揃いを2着作る。


 一緒に型紙を切り抜いて、アイロンをかけた布に並べて、布を裁つ。ほつれ防止のために、それぞれのパーツにギザギザ縫いをする。

 オレは、小さい頃から母親にお裁縫を仕込まれているので、こういう作業はわりと慣れている。史也も一緒だし、何だかんだ楽しい。


 お姉さんとかけちゃんが作ってくれたおやつを食べたりしながら、史也もご機嫌で作業を進めているし、ヨカッタヨカッタ。


 なんて思っていたら。布と布をくっつける作業に入った途端、史也がソファーでゴロゴロとサボり始めた。


「ホラ史也、七夕祭りに間に合わせるんじゃないの?」

「だってオレ、こういうの苦手なんだもーん」

 えっ? そうだったの? いや、確かに誘ったのはオレだったけど……


 もしかして、物凄く面倒なことを始めてしまったのではないかという、怖い考えが脳裏をよぎる。

 史也が自由人なのは分かり切っていることだ。でも、決して無責任ではないと、オレは信じている。いや、信じたい。うん。


 とりあえず、作業を進める。


「ホラ史也! オレの分はもう袖と肩のところくっつけたから、ミシン使っていいよ」

 史也が作業できるようにミシンを空けて、いったんトイレ休憩。


 トイレから戻ると、史也が袖と肩がくっついたものを手に持っている。なんだ、やる気になればちゃんとやるんだと、ホッとした。

「もうできたの? ずいぶん早いね」と素直な感想を言うが、ニヤニヤ笑っていて何か様子がおかしい。


 オレの席に戻ると、そこにはバラバラのままの史也の生地が置かれていた。


「未知流も、早く作りなよ」

 史也が、威張ったポーズで言う。


「はあ?」

 やられた! そう来たか……

 オレはまさに、カクーンとアゴが外れた状態で固まった。横で母親が爆笑している。そうか、それをやるための『お揃い』で、同じサイズだったのか?


 オレは「くそー」と顔では笑って見せたけど、実は結構な打撃を受けていた。何故ならオレは、ミシンが苦手なのだ。ミシンが布を引っ張る力と相性が悪いらしくて、どうしても縫い上った線がヨロヨロしてしまう。せっかくミシンが終わったところだったのに、また同じことをもう一回やらないといけないのかと、がっくりしてしまった。


 それに、このまま史也の言いなりになっていては、史也のためにも良くないと思うし、オレたちの関係もいびつなものになりかねない。


 友情初心者のオレには手に負えない、超難題に今、直面している。


 考えろ、オレ。


 史也がふざけてやっているだけなのは分かっているんだ。これを『ズルい』と受け取るか『おちゃめ』と受け取るかで、オレの器のでかさが問われていると思う。

 この前、お姉さんに『器がでかい』と、褒めてもらったじゃないか。器がでかいオレはどう対応するのが正しいんだ……?


 どうしたものかと考えつつ、肩の部分に袖をあわせてミシンにセットする。


 オレは振り返って史也を見た。

「じゃあ、史也。ここ真っすぐ縫ってみて」

 さっきもジグザグ縫いはしていたし。男子だもん、機械を動かすのは好きなはずだ!


「最初と最後に1センチくらい返し縫いを忘れずに」

 そう言って史也をミシンの前に座らせるが、決してミシンを史也に押し付けているのではない。何故なら、これは史也の分なのだから。オレが苦手だからとか、そんなこととは関係ない。うん。


「え? 返し縫いってどうやるの?」

「このボタンを押すんだよ。押してる間は反対に動くから」


「で、何で返し縫いってするんだ?」

「糸がほつれないようにするんだよ。家庭科の先生が言ってただろ」

「へえ、そうなんだ」


「よし、じゃあこのライン上を真っすぐに縫って!」

 と、オレが一番苦手な注文をする。

「はーい」

 素直な返事をしてミシンを動かす史也。出だしこそ、少しよろけたけれど、ほぼ真っすぐ綺麗に縫い上げる。返し縫いもちゃんとできている。


「あれっ、上手いじゃん? オレのより全然キレイだ!」

「そう?」

「ホラ」と、オレのミシン縫いと比べて見せてあげる。


「あら、ホント。未知流のよりキレイね」

「そう?」

 母上も褒めてくれて、史也は上機嫌だ。そのまま、反対の袖も綺麗に縫い上げる。よし、大丈夫。史也はミシンが好きらしい。


 つまり史也は、布の形を整えてズレないように待ち針で留めておくとか、そういうチマチマと細かい前準備の作業が嫌いなのだ。一方オレは、そういうチマチマした作業は、形ができあがる工程を楽しいと思っている。そして、オレはミシンが苦手だけど、史也は楽しそうだ。


「分かったぞ。じゃあ、オレがミシンにセットするから、史也はミシンをかけてくれればいいよ。それなら、いいでしょ?」

「ミシンかけるだけでいいの? オッケー」

 史也はガッツポーズをして、ニッコリ笑った。


 というわけで、オレが形を整えてミシンをかけるばかりの状態にして、史也はそれに、ミシンをかける。2着の甚平を、お互いが得意なところだけやれば良いのだから、とても効率が良い。

 お互い、苦手なことをする必要もなく、その上、自分で作ったものよりも綺麗に仕上がるなんて完璧ではないか!

 これなら、七夕祭りも楽勝だ。


 それに何より、これからの史也との付き合い方のヒントとして、いいきっかけになったような気がする。それが嬉しい。


 そして、オレと史也が役割を分担して作っていると、いつの間にか、かけちゃんも史也にミシンをかけてもらっていた。

 かけちゃんはいつもおやつを作ってくれているから、史也もまったく文句は言わない。


 むしろ、「お前、本当に上手いなあ」と、かけちゃんにも褒められていい気になった史也は、すっかりミシン係としてミシンの前が指定席になっている。

 暇な待ち時間は、どこからかミシンの説明書を見つけてきて、糸巻きやボビンの入れ替えはもちろん、「へえ、こんなことも出来るんだ」とか言いながら、新しい機能を見つけては試している。


 一方、お姉さんは全部手縫いで仕上げるそうだ。なので、ミシン係の史也と交わることが無い。1人、黙々と浴衣を縫い続けている。


 そのお姉さんが、かけちゃんと史也のやり取りを横目で見ながら、「未知流くんは、史也の扱いが上手いね」と、こっそり褒めてくれた。ホントにお姉さんはすぐ褒めてくれる。





 というわけで、思っていたより甚平が早く仕上がったオレ達は、七夕祭りまで数日残して遊びに行く余裕ができた。


 なので、あの日以来行きそびれていた、神社の裏から落っこちて新しく開拓したあの場所に行ってみようと、オレから史也を誘い出した。


 外は良い天気で、爽やかな風が吹いているからあの日ほど暑くはない。


 階段の途中まで上って、手摺を乗り越え、横の垣根に潜り込む。すると、目の前にはあの日に見た光景が……と、思ったら。


「あれ?」

「どうした?」

「ここって……こんなに綺麗だったっけ?」


 目の前には、鬱蒼とした雑木林に木漏れ日が差し込んで、初夏の若々しい新緑を照らし、風が吹くたびに木々が揺れ、木漏れ日がそれに呼応してキラキラと輝いている。遠くから聞こえる、鳥のさえずりと川のせせらぎ。何て素敵な空間なんだ。


「この前もこんなだったよ」

「いや、ぜんっぜん違う! ああ、そうか。あの日より、日差しが強いのか?」


 プフッと史也が吹き出した。

「何言ってんの、あの日の方が暑かったよ」

「ええっ、でも……」


 先を歩いていた史也が立ち止まり、くるりと振り向いた。

「あの日、未知流はずーっと、ちゃんと帰れるか心配してたからだろ」

「え?」


「景色を見る余裕も無かったんじゃない?」

「ええ……?」


「オレには大丈夫って言ってたくせに」

「えーと、何ていうか……バレバレだった?」


「バレバレだよ。せっかく面白いところに出たのにぜんぜん喜んでないし、頑張ってふつうのフリするし。分からないなら、ちゃんと言っていいのに」

「うん、ごめん……」


 そうか、気の持ち方次第で、こんなに見える景色が変わるものなのか。この前来た時は、ただ、薄暗い雑木林の中を歩いていたという記憶しかない。史也の言う通り、出られるか心配で、こんなに綺麗な景色すら見えていなかったのかと、自分にびっくりだ。


 そしてオレ達は、この前見つけた川沿いの、横に長くて平らな石に腰かけた。


「というわけで。今日ここに誘ったのは、あの日オレがここで見つけた『大発見』を披露しようと思って」


 史也はオレの『大発見』を、『大発見』と認めてくれるかな……?


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