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21.落ち込む史也と神社のハト

 珍しく、史也が落ち込んでいる。


 何故かというと、あれから少し調べてみたところ『バリアー』について、実はもう既に世界中でいろいろと研究されていることが判ったからだ。


 史也は落ち込んでいるけど、史也がちゃんといろいろ考えていることが分かって、オレとしては嬉しく思っている。


 史也は、枕を抱えてベッドにうつ伏せになったまま動かない。


 しばらく自力で復活するのを待ったけど、起きる気配が無いので仕方がない。せっかくの遊べる時間がどんどん過ぎてしまってもったいないから、史也が動きやすいきっかけを作ることにした。


「ちょっと前にさ、『要研究』って言ってたオレの西京トーストあったじゃん? 覚えてる?」

「うん……」

 返事はある。


「あれからいろいろ調べてみたんだけどさ、西京みそには野菜がいいみたいなんだよね。ねぎとかしめじとか、和風なヤツ」


 史也がガバッと顔を上げた。

「改良された?」


 史也が食いしん坊で助かる。

「うん。食べる?」

「もちろん」


 2人で下に降りていくと、リビングではかけちゃんとお姉さんと母親が、何かの話題で盛り上がっていた。


 邪魔をしては悪いと思って、そのまま台所で冷蔵庫の野菜を漁る。

「うーん、しめじは無いけどえのきがあるから、半分貰おう。ねぎはあるな」


 野菜を炒めるのが面倒だったので、バターと西京みそを塗った食パンにそのままえのきと薄く切ったねぎと、おまけのウインナーを載せてトースターで焼いた。えのきとねぎがしんなりしたらスライスチーズを載せて、チーズがとろけたら完成だ。


 史也とアチアチ言いながら試食する。

「どう?」

「うん、この前よりぜんぜん美味い」


「良かった」

 史也が元気になって、本当に良かった。


「あとね、この前作った時は、西京みそを自分で作ったのが嬉しくて、塗りすぎていたと思うんだよね。全面べったり塗っていたから」

「え? じゃあ、そっちが原因じゃない?」


 ワハハ、と笑った2人の間に、突然かけちゃんの顔がにゅっと出てきた。


「わあっ!」

 オレたちは、食べかけのトーストを放り出す勢いで驚いた。


「オレの分は?」

 かけちゃんにギロリと睨まれた。


「いや、あの、楽しそうにしていたから、お邪魔してはいけないかなと……」

 オレは素直に言い訳をした。いや、本気でそう思っていたし。


「邪魔じゃないから。ぜんっぜん、大丈夫だから」

 コワイ笑顔で、作ることを強要されてしまった。えのきを半分残しておいて良かった。




 というわけで、結局、かけちゃんとお姉さんと母親にも食べてもらい、無事に「美味しい」をいただくことができた。よかった、よかった。


 そしてオレと史也は、床に落としてしまったトーストがもったいないということで、神社のハトにあげようと、外に飛び出した。


 外は良い天気で、西日が眩しい。まだ6月だけど、すっかり夏のような暑さだ。


 神社は学校の向こう側で、どちらかというと史也の家の近くにある。西日を背にして、オレ達はプラプラ歩いて神社に向かう。


「あーあ、未知流にいろいろ褒められて、オレはちょっと天狗になっていたな」

 史也が両手を挙げて、伸びをする。

「え? それでさっき、落ち込んでいたの?」


「お、落ち込んでないし!」

 何か、強がっている。


「史也はさ、調子に乗って、天狗になっているくらいでいいんだよ」

 オレは思っていることを素直に言ってみる。


 史也はきょとんという顔をしてから、「何だよそれ、どういう意味だよ~」と言いながら、オレの首をがっつりつかんでブンブン振り回した。やれやれ、機嫌が良くなったみたいで一安心だ。


 史也がオレをヘッドロックしたまま、間近でオレを見つめて言った。

「やっぱりさ、まだ誰も気づいていないものを見つけたいよな」


「そんなものが見つかればいいんだけどね」

「見つけてやるぞ!」

 言いながら、史也が自分の頭をオレにぶつけてきた。


『ゴチン!』と音がして目の前に火花が散った。


「痛たた……今、火花散ったよ?」

 オレは痛いよりも、初めて見る火花に驚いた。


「オレも! 初めて見た!」

 史也も一緒になって、頭を押さえながら感動している。

「聞いてはいたけど、頭をぶつけると本当に火花が散るんだな。スゲー!」


「自分でやっておいて何を驚いているんだよ」

 怒るよりも笑ってしまう。


「驚くだろ! 初めて見たんだし。ホラ、また未知流といるだけで新しい発見が」

 史也も笑っている。

「いや、今のオレはただの被害者だから」


「だって、未知流以外にこんなことしないもん」

 史也がくしゃっとした笑顔で、オレが怒れない言い方をする。分かって言っているんだろ、こいつめ。

オレは、文句を言いたい気持ちと、ちょっと嬉しいという相反する感情がまぜこぜになって、どう収集を付ければ良いのか分からなくなったので、とりあえず頭突きした。


『ガツン!』


「痛ったあ~!」

「イタタタタ……あれ? 火花が散らないな」


「下手クソ!」

「ヒドイ~」

 痛いけど、とりあえずスッキリしたので良しとする。


 そんな、どうでもいいやり取りをしているうちに神社に着いた。


 神社は高いところにあるので、階段を上らなければならない。このクソ暑い中、西日に晒されながら上る百段はちょっとキツイ。


 あまりの暑さに2人とも無口になる。


 暑い。暑くてクラクラする。


 何故、今、こんなにつらい思いをしながら階段を上っているのかを考える。


 何しに行くんだっけ? ああそうだ、ハトにパンをあげるのだ。でも、ここまでしてハトにパンをあげる必要もなかったのでは? そうだな、用水路に蠢く鯉の群れでもよかったかも……などと、あまりの辛さに自問自答を繰り返す。


 ぐったりして体が前のめりになり、ふと階段を上る自分の足が目に入る。いつも履いている見慣れたスニーカーだ。

「……?」

 自分の履いているスニーカーを見て、何か違和感のようなものを感じたのは、暑くてクラクラしていたせいだろうか。


「ふあー、やっと着いた!」

 とりあえず、上がったところにある鳥居のすぐ左の、大きな桜の木の日陰に入ってペットボトルの麦茶をゴキュゴキュと飲む。母親があらかじめ半分凍らせた状態で用意してくれたお茶はキンキンに冷えていて、暑さにだらりとしていた身体を爽やかに復活させてくれる。


「ぷはーっ、生き返る!」

「お茶が美味い!」


 神社には見回したところ、他に誰もいない。


 鳥居をくぐった先には真っすぐな参道がお賽銭箱のある建物に続いている、そこそこ広い神社だ。夏には広場に出店がたくさん出て、賑やかなお祭りで盛り上がる……あ。いつも家族と行くだけだったお祭りだけど、今年は史也と一緒に来られるのかな……?


 何てことをこっそり考えていたら、ハトが1羽、オレたちの足元に舞い降りた。


 この神社にはいつも『餌やりさん』が来るので、人が来ると必ずハトが近づいてくる。

 うちではオレが小さい頃から、古くなったパンがあるとここに来て、ハトにあげるのが楽しみだった。最近ではハトの『フン害』とか問題になっているけど、ここは神社から許可も出ているし、安心してあげられるのだ。


 いつもはもっと、すぐにたくさんのハトが集まって来るんだけど、今日は暑いせいか今のところ、この1羽だけだ。


「よく来たな!」

 と言いながら、早速パンをちぎってあげる史也。1羽しかいないから、ちょっとだけ。うまうま食べるハトを楽しそうに見ている。


 他にいないか見回すと、お賽銭箱がある建物の方から1羽のハトがノシノシと歩いてくるのが見える。


 オレは鳥の生態にはまったく詳しくないから分からないんだけど、鳥ってみんなこんな感じなのだろうか? ここのハトは、飛べるくせに移動をする時はいつも『歩き』が基本なのだ。

 しかも、その歩き方がやけに迫力がある。


「ハトってさ」

 近づいてくるハトを、一緒になって見つめていた史也が口を開いた。

「歩いて近づいて来る時って、何か怖いよな」


 史也がオレと同じような感想なのがおかしくて、ニヤリと笑う。


「うん。『ズンズンズンズン!』って音が聞こえてきそうな勢いだよね」

「あ、やっぱりそう思う?」

「ご先祖様は恐竜だしね」

「そうそう、足とか見ると確かに恐竜っぽいんだよな」


 近づいてくるハトの足に注目する。


 前の3本と後ろの1本の指で、大地をガッチリつかんで歩く足。何て力強いんだ! 確かにこれなら、飛ばなくてもいいかなと思えなくもない。でも、この暑さだし、飛べるんだから飛べばいいのにと思うのは、余計なお世話なのだろうか?


 歩いてきたハトが、オレたちの目の前で止まった。


「え? 何か、こいつ怒ってない?」

 史也がドン引きするほど、確かにスゴイ迫力だ。


 オレは言った。

「史也。早く、パンあげなよ」

「ああ、そうか。忘れてた」


 史也が笑いながら歩いてきたハトにパンをあげると、先に来ていたハトも一緒になって取り合いになる。もう、どっちがどっちか分からない。


「あれ? ということは、さっきの怖さはまさに『捕食者』の迫力だったのか! オレ、食べられる側だったから怖かったということ?」

 残ったパンを全部ハトにあげながら、史也はハトを分析している。


「そうかな?」

 オレも分析してみた。

「『どうしてボクにはくれないの?』って訴えていたのかも知れないよ?」


「いや、やっぱり怒っていたから、そんなにかわいくないと思う」

 史也がちょっと考えてから、さっきのハトのポーズを真似して言った。

「『どうしてなんだよ~! どうして、オレにはくれないんだよ~!』っていう感じかな?」

「それだ、正解」


 オレたちが笑っている横では、いつの間にかハトが10羽くらいに増えて、争奪戦が繰り広げられていたのだった。


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