【第9話】両親への報告
コントのような会話を聞いて、志乃はふくふくと笑った。それを見て美麗は志乃の頭を撫でる。
「いやぁ、よかった。みんな酷い顔だったから。今いつもよりいい顔してる!」
その言葉を聞いて志乃たちは紅茶を飲む前、どんな気持ちだったかを考えた。不安な気持ち。その不安が顔に現れていたのであろう。
(やっぱりお母さんには敵わないな……)
志乃は心の中で再び美麗に感謝した。
「でもさ、これいつもの紅茶じゃないよね。どうしたの?」
蒼真は不思議そうに美麗を見つめる。美麗は「そんなことより」と言って、蒼真の質問には答えなかった。
「志乃ちゃん、話すことあるんでしょ」
「うん……」
「そんな、怒ったりしないんだから、ゆるーく行こうぜ!」
「うん!」
志乃は語った。自分が高校生になる前からずっと夢を見ていたこと。それが自分の前世の夢であったこと。断木の儀に乱入して、千年桜を開花させたこと。自分が朧姫だったこと。今現在、皇鬼綾斗と付き合っていること。蒼真、紅賀のこと。全て洗いざらい話した。
志乃が話し終えると、美麗は少し黙り込み、優華は普通に紅茶を飲んでいた。
ドギマギと志乃は紅茶を啜る。1分くらい経ったところで美麗が口を開いた。
「……つまり、志乃ちゃんが超ハイパーウルトラベリーキュートなのは常識ってことだね?」
「うん……!?」
「なるほどなるほど。うんうん、私の娘が可愛い、息子がかっこいいのはみんなが知ってる常識ってことだ」
「うーん? 母さん、ちゃんと理解した?」
「自分の母ながら大丈夫かこいつって思ったぞ……」
思っても見なかった美麗の反応に困惑する志乃たち。蒼真は理解しているかどうかも疑っている。紅賀は少し呆れている。
「え、理解してるよ〜志乃ちゃんが朧姫で、蒼真、紅賀が朧姫の護衛だったってことでしょ? 紅ちゃん、呆れないで……理解してるから」
「うーん、思ってた反応と違う。父さんは? 理解した?」
さっきから黙りこくっている優華に対して話を振る蒼真。
「お前らも面倒くせえ星の元に生まれたって訳だな。まぁ頑張れ」
「それだけかよ……」
「何か言って欲しいのか?」
紅賀が少し不満そうな顔で優華を見る。ニヤニヤと美麗は優華を見つめ、つついた。
「もぉ〜ゆうちゃんてば、ツンデレなんだからぁ……正直に娘息子たちが可愛いと吐きな!」
「つつくな、俺はいつでも自分の気持ちに正直だ」
「またまたぁ〜」
デレデレの表情で優華をつつきまくる美麗とそれに対して鬱陶しそうにする優華に志乃たちは思い悩んでいた自分たちが馬鹿馬鹿しく感じた。ちょっと嬉しそうに志乃が微笑むと、美麗はハッと思い出したかのように志乃に詰め寄った。そして、今日一綺麗な形の笑顔で問いかける。
「でさ、志乃ちゃんは皇鬼って奴と付き合ってるんだ?」
「う、うん!」
えへへと志乃が嬉しそうに答えると、美麗は冷たいオーラを放った。部屋の温度が2度ほど下がったかと錯覚するようなオーラ。優華は溜息をつき、蒼真、紅賀は目を見開きぶるりと震えた。
「ふーん、そうなんだ、へぇ……」
「えと、あの、お母さん?」
志乃が少し怯えた目で美麗に話しかけると、美麗は直ぐにいつもの暖かい雰囲気の美麗に戻り、「うん? どうしたぁ?」と気の抜けた声で返答した。優華は美麗にデコピンをお見舞いする。
「こいつらの前でそんなオーラ出すなよ……怖がるだろうが」
「……可愛い私の志乃ちゃんに手をだした輩が許せなくて。う〜みんなごめんっ! お母さんのこと怖がらないでぇ!」
えぐえぐと涙目で志乃と紅賀に抱きつく美麗。それを紅賀は鬱陶しそうに、志乃は嬉しそうにされるがままにされた。
蒼真は美麗の態度、優華の先ほど発した言葉に引っかかっていた。自身の唇を触りながら思案にふける。
(お前らも面倒くさい星の元に生まれた……か。何故『も』なんて使ったんだ? やはり自分の親ながら全く素性が分からない。一体、彼らは何なんだ……?)
どんどん眉間に皺が形成されていく。その様子を美麗は志乃と紅賀に抱きつきながらも冷静に見ていた。
ダイニングテーブルのすぐそばには窓がある。カーテンの隙間から眩い光が差し込む。それがちょうどその対極にいた美麗の顔に当たった。美麗は眩しそうな顔で目を顰めた。その時だ、一瞬美麗の丸い瞳孔が猫のような鋭い細長い瞳孔に変化したのだ。蒼真はこれを逃さなかった。
「ねぇ、母さん、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかな」




