【第4話】編入生
志乃は1番後ろから2番目の席、日南はその隣だった。なぜか1番後ろの席は空いている。
水無瀬アリスは違うクラスであった。志乃は内心今日何度目かの安心感を覚えた。
「同じクラスって、こんなにも幸せなんですね……」
「いや、泣くくらいか?」
茉莉がうるると涙を流しているのを見て日南はすかさずツッコミを入れる。そんな時ガララと教室の前のドアが開いて、先生がやってきた。日南はこの世の終わりという顔で机に突っ伏した。
まさかの今年の担任は鳴宮天麻だった。ミルクティー色の髪を靡かせ、黄色い瞳で生徒たちを一瞥する。その時、志乃の方を見て顔を輝かせた。
志乃は去年に日南に言われたことを思えていた。鳴宮天麻には気をつけろという言葉。緊張の面持ちで鳴宮を見る。鳴宮はまるで子供のように目を輝かせているのみ。安心していいのか分からないが、とりあえず敵意はないので警戒をとく志乃。反対に日南が物凄い形相で鳴宮を睨みつけていた。
「なんで、あんたが担任……!」
「あ、日南ちゃんいたんだね! そうそう、みんなにも聞いてほしいんだ! 突然、重鎮の人たちからお前学校の先生やれって言われて……僕は研究に没頭したかったんだけど、やらないなら研究費減額って言われて……泣く泣くきたんだよ……でも、研究対象がいるから楽しめそうだなぁ!」
鳴宮はチラリチラリと志乃を見る。志乃は身震いした。何故だか寒気がしたのだ。おまけに身の危険も感じた。
「あんた、志乃に手ぇ出してみろ……しばく!」
「わぁ、日南ちゃんガラ悪いー! そういえば、そんなこと一年前に言われたなぁ……あれは怖かった。うんうん、あ、こんなこと話してる場合じゃなかった! 今日は編入生を紹介しまーす!」
微妙な空気が漂っていたクラスが一気に盛り上がる。
「誰だろ」「男子かな、女子かな」「男子ならイケメン、女子なら美少女で」「ちょ、それは問題発言」「なんでもいいけど面白いやつがいいな……」
様々な声が飛び交う。その様子を鳴宮はうんうんと笑顔で見届け、そして、扉を開いた。
黒に少しだけ紫を足したような色の髪。黒真珠のような輝きを放つ瞳。スラリとした長く美しい体躯。いわゆる儚い系男子という者だった。
「花霞影です。編入生ということなのでこの学園のことは分かりません。皆さんからご教授願おうと思っています。これからよろしくお願いします」
澄み切った声でハキハキと喋る。鳴宮は終始胡散臭い笑顔で、志乃にはそっちが気になって仕方がなかった。
「花霞君に質問したい人ー!」
鳴宮はおちゃらけた様子で手を挙げる。それに反応して次々にクラスメイトたちが手を挙げる。そこからは質問タイムが始まった。
「花霞君は人外ですか!」
「そうだよ」
「なんのー?」
「それは秘密」
「か、彼女はいますか!?」
「うーん、今のとこ居ないかな……」
続々と質問を繰り出していく中、志乃だけは鳴宮の方に集中が行ってしまい、気が気では無かった。
「朧月さんは聞きたいことないの?」
「えっ」
ついに質問の催促が回ってきた。そこでやっと志乃は花霞をちゃんと見たのだ。
どこかで見たことあるような、そんな懐かしい顔。しかし、別人である。
(どうして、こんなに懐かしく感じるんだろう……)
この時の志乃には分からなかった。眉間に皺を寄せる志乃を見て、花霞は満足そうににこりと笑った。それも何故だか分からなかった。
「はーい、質問タイムおわりー! 連絡事項言っていくからちゃんと聞いてね!」
鳴宮の声で現実へと引き戻される。志乃はホームルーム中ずっとぼんやりと空を眺めていた。欠けたピースを本能的に探しているのか、いや、欠けたことすらも気付いていない彼女は何を探しているのだろうか。
授業の終わりをしらせる鐘が鳴る。




