【第3話】設立の話
「なんで、皇鬼様が学園長? 帰ってきたって何? というかなんで笑顔なの!? 笑ったとこ初めて見たんですけど!」
誰が言ったかわからないが、この言葉が今皆が思っている全てだろう。より一層ざわつくアリーナ内。
「静かにしろ。話ができん」
うるさかったアリーナ内が皇鬼の牽制で一瞬で静かになる。そして、皇鬼は皆が静かになったことを確認すると話し始めた。
「この学園、私立天明学園は明治時代に設立した。そして、創立者がこの俺、皇鬼綾斗だ。人間の世に我ら妖が現れるようになったのはこの時代くらいからだ。そして、俺は妖の王として人間と人外が馴染めるように学校というものを作った。この時代までほったらかしていたことは悪く思う。しかし、俺がいない期間、素晴らしい学園に整えてくれたこと、ここに感謝しよう」
先生方はこれを聞いてじぃんと涙ぐんでいた。特に長くこの学園に勤務している人外の先生たちである。そして、ここからが問題であった。
「俺がここに戻ってきた理由だが、それはここにおぼ……むご「ストーップ! ストップストップ! それ以上はダメだってぇ!」むご……」
皇鬼は明らかに朧姫が在籍しているからと言おうとした。それを間一髪で黒髪に猫耳が生え、赤と黄色のオッドアイを持つ男、伊万里が止めたのだ。皇鬼の口を背後から押さえて。
生徒たちがまたざわつく。それはそうである。あの妖の王の口を背後から押さえている者がいるのだから。志乃は心の中でとても安堵した。
(す、皇鬼様……伊万里、グッジョブですっ!)
舞台脇から桜色の髪で黒い角を持つ女性も現れる。未桜である。この人物の登場にもアリーナ内は沸いた。
未桜は皇鬼のところまで行くと、思いっきり脛を蹴りつけた。そして小声で怒った。
「父上! そのことは言わないはずだったでしょう! 母上は静かに暮らしたいと申しておりました。それを言うのは母上を傷つけることになりますっ」
「しかし、ここで志乃は俺のだと言わなければ変な虫がつく」
「そのための認識阻害眼鏡でしょう! 父上は余計なことは言わないでくださいね! 絶対ですよ!」
全く何を話しているのか聞こえないが、とりあえず未桜が終始皇鬼の脛を蹴り付けていたのはわかった。伊万里も地面に降りて、疑いの眼差しで皇鬼を見据えている。話が終わったのだろう。未桜と伊万里が正面を向いた。
「お見苦しいところもお見せして、申し訳ありません。我らが愛しき学び子達。私は朧姫と皇鬼綾斗の娘、未桜と申します。どうぞよしなに」
「獣王が1人、猫王、伊万里だよ! 皇鬼ったら、ちょっとやばいからさ、俺がアシストすることになってね。みんなよろしくねー」
ここで皆が思っていることを全て言ってくれた者がいる。
「美しい……お二人ともとても美しい……というか、獣王様、軽い。ノリが軽い」
またしても誰が言ったのかは分からないが、的確である。
「父上は話すこと終わったでしょう! 早く学園長室に帰りますよ! 皆様、お騒がせしてすみませんでした……!」
未桜は皇鬼の背中を押して、舞台袖に追いやる。その時またしても志乃に笑顔をむけ、あまつさえ手を振ってきたのだ。伊万里はすぐさま皇鬼のことを叩く。そしてそのまま舞台袖の陰に隠れた。
「なんか、台風のような人たちだったわね……志乃、大丈夫?」
「……大丈夫に見える?」
「み、見えないね……」
日南、萌黄が心配そうに志乃を見る。志乃はというと体育座りし、顔を膝に埋めていた。
「でも、皇鬼様のお気持ち、とても分かりますのよ」
志乃の隣で鏡華が笑う。
「愛する人の周りに虫がたかるのは嫌ですわ。だから牽制したいの。志乃もその気持ち少し分かるでしょう?」
「……む、分かるけど……むむ」
「あまり、皇鬼様を責めないであげてくださいまし。分かりまして? 志乃」
志乃はチラリと鏡華を見る。そういえば、鏡華は堀内貴臣という皇鬼の秘書官の男性とお付き合いをしているのだ。志乃は少し悩んだが、納得せざるを得なかった。
そして、始業式は皇鬼によってドタバタに終わった。




