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朧月夜、あの桜の下で  作者: 秋丸よう
【第2部】それぞれの大切
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【第2話】新しい学園長

【第2話】新しい学園長

「何故って……この量を相手するのがきつそうだったからな」


 しれっという顔でそう言う紅賀。それに対してイラつきを覚えたのか、君月はより一層紅賀のことを睨みつけた。


「……ふん、やっぱり、朧月兄弟はそう言う道具に頼らなければ虚は倒せないのだな。俺みたいに華麗に斬り捨てるなんて芸当はできないと言うわけだね」


 志乃から見ても今日の君月は様子がおかしかった。いつもの君月玲央(きみづきれお)は一軍女子を周りに侍らせ、何をしている時も女子がいると言う感じだった。いつもお調子者で自意識過剰な男。それが君月玲央という人物だった。

 しかし、今日の君月はどうだろう。1人で黙々と虚と戦い、しかも隙だらけ。いつものオーラは一片も見られない。


「……あんた、何があったの?」


 その言葉を発したのは日南だった。眉間に少し皺を作り、怪訝な顔で問いかける。日南の言葉に反応して君月は一瞬顔が引き攣ったが、すぐにグッと抑え込んだ。そして、そのままダッシュで学校の方向に向かって行ってしまった。

 日南は不思議そうな顔で走っていく君月を目で追った。志乃も同じ顔をしていた。


「なんだったんだろう……」

「私にもわからん」


 志乃たちはそのまま学校に向かった。




***

 遅刻することなく無事登校できた4人は一緒に新たなクラスを見るため、職員室前の廊下に向かった。1年生はエントランス前、それ以外は職員室前にクラスが張り出される。


「すぅーはぁー緊張するね……」

「いや、何緊張よ! 大丈夫大丈夫!」


 志乃は何に対してか分からないが緊張し、日南は志乃の背中を叩いて笑っていた。その様子にほっこりする朧月兄ズ。その背後からにょっと誰かが出てきた。花香茉莉(はなかまつり)である。それに続くように宮下萌黄(みやしたもえぎ)藍色院鏡華(あいじきいんきょうか)がぞろぞろと登場した。


「あっ志乃ちゃん! 日南ちゃん! おはよーです!」

「お兄さんたちもおはようございます!」

「おはようですわ!」


 そして、人がばらけてきた瞬間を狙い、新たなクラスを探す。開口一番は志乃であった。


「A組だあ!」

「私もー! 茉莉は?」

「私もA組ですぅ! 今年は志乃ちゃんと一緒だぁ! 私のエデン……」

「茉莉ちゃん……私もAだよっ」

「わたくしもAですわ! 全員同じクラス、という訳ですわね! なんという幸運!」


 茉莉は少し宇宙の方に頭が行っているみたいで、それを見て萌黄は少し困惑気味に笑っていた。鏡華は天を仰ぎ、日南は志乃と両手を繋いでキャッキャウフフしていた。ここで再び朧月兄ズは妹たちの様子を見て、花を散らしてほんわかした。しかし、そんな時は長くは続かず、はっと我に帰る兄ズ。


「始業式始まるよっ! 早く行こう!」

「ちょっとほんわかし過ぎた。いくぞ」


 そう言って足早に去っていく蒼真と紅賀。その様子を見て志乃たちも後を追った。




***

「なんか……先生たちがいつもよりソワソワしてない?」


 そう言ったのは萌黄であった。


「確かに……そわついてるというか、ざわついてるというか……」

「何かあったのかもしれませんわね」

「案外、すごーい人が先生になるとかそんなんじゃないですかぁ?」


 茉莉は冗談めかしてコロコロ笑う。しかし、その茉莉の冗談が当たるだなんてその時は誰も思わなかった。



「えー、それでは学園長からお願いします……」


 チラチラと舞台袖の方を見て困惑する司会進行役の先生。志乃から見える位置にいる古山先生はキラキラと目を輝かせて、子供のようにソワソワしている。志乃には一抹の不安が生じる。


(まさかね……そんなね……)


 周りの生徒はいつも通りざわついており、中には夢現の人もいた。


「あの校長の話、長いんだよなー」

「わかる。金にもの言わしている感じがまたたまらなく嫌だよな」


 学園長には人望がなかった。金が1番という人物だからだ。裏口入学の話も有名であるし、政府の役人からも賄賂をもらっているという話も聞く。

 しかし、登場した人物は志乃が予想していた通りの人物だった。


 黒い、長い髪を靡かせ、颯爽と歩く人物。グレーに少し紫が入り混じったような色の着物を纏い、黒い上着を腕を通さずに羽織っている。

 正面を向くと、その長いまつ毛から覗くようにブラックオパールのようなオニキスのような瞳が現れる。


 予想外の人物の登場で生徒たちはシーンと静かになった。しかし、それも一瞬。気づけば、阿鼻叫喚、というのが相応しいのだろうか。女子は黄色い歓声を高らかにあげ、男子は驚きの声をあげている。先生たちはこの上なく困惑の表情である。


「天明学園の学園長として帰ってきた。皇鬼綾斗(すめらぎあやと)だ。これからよろしく頼もう。わが愛しい学び子達よ」


 凛とした、アリーナ内に響く声で言葉を紡ぐ皇鬼。皇鬼はいつも通り仏頂面だったが、明らかに誰かを探している目つきだった。志乃は冷や汗をかきながら、日南の背後に隠れようとしたが、時すでに遅し。皇鬼が志乃に気づいて、こちら方面に笑顔を向けてきたのだ。


(ひえぇ……綾斗さん、こっち見ないでぇ……)


 志乃は心の中で切実に叫んだ。

 周りはというと、皇鬼が笑顔になったことに驚きを隠せない様子だった。

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