【第29話】断木の儀、前日
おはようございます!
今日は夕方に投稿出来ないので、朝方に投稿しました!
1番の見せどころもあとわずか。皆様、よろしくお願いします!
ついに、断木の儀、前日。ニュースでは着々と準備が進められ、ただの公園には見えなかった。
妖の王、皇鬼綾斗も参列するらしく、その姿をひと目見ようと、人々が断木の儀の観覧スペース抽選券をかけて裏で戦っていた。
志乃達は学校があるので、学校でテレビ中継を見ることになっていた。
自分こそが朧姫だと言うアリスは断木の儀について悲しそうに語っていた。
「皇鬼様と私が愛を誓った桜が切られるなんて、私見ていられないかも……」
「そうだよね……水無瀬さん、可哀想だよ」
「動けない私を皇鬼様が肩に乗せてくださり、その状態で桜を見た日だったかしら。桜が私達を祝福するように揺らいだの。あの時はまだ咲いていたのに……」
「それって、朧姫だったころの記憶だよね! すごい!」
「千年の恋が叶うはずだったのに……」
「千年間咲いていないって、なんだか、悲しいな……」
これを聞いていた日南は気持ち悪そうな顔をした。
「キショ……」
萌黄も鏡華も嫌な顔をしていた。
「なにあれ、同情を煽ってるの……?」
「まったく、くだらないですわね」
「まあまあ、みんな……」
志乃は皆を宥める。あと思い出さたかのように話し出した。
「アリスちゃんって、断木の儀の観覧行かないの?」
「あーそれね、外れたんだって抽選に」
「金でものを言わすようなタイプですけど、それでも無理だったなんて。観覧スペースの戦いは凄いですね……」
「鏡華ちゃんは?」
「わたくしは、皆さんと見たいので。1人で見るのは嫌ですわ」
「なんか、鏡華らしいね……」
クラスの大半がアリスの話題をする中、志乃の周りだけが違う話題で盛り上がっていた。
志乃が3日間寝込んでからというもの、アリスは志乃にちょっかいをかけて来なくなった。何故だかは分からない。日南と萌黄はなにか企んでるんだと疑い、鏡華は嬉しそうだった。
しかし、兎に角、クラス中、いや、学校中が明日の断木の儀の話題で持ち切りだった。だって、あの殆ど人の前に姿を現さない皇鬼綾斗が来るのだから。しかも、その皇鬼が大切にしていた千年桜という名の枝垂れ桜を切るのだから。そりゃ、お祭り騒ぎである。
しかも、朧姫に選ばれた女子がこの天明学園にいるのだから、どんなもんかと単なる興味から見に来るものが多数いた。B組は人、人、人の人だらけだった。誰もがアリスのことを見に来る。アリスは毎回わざとらしく覚えてもいない、政府の管理する皇鬼の記憶の本で見た事をまるで自分事のように話した。
日南や鏡華、萌黄からしてみれば良くそんなに嘘が付けるものだと感心していた。志乃はアリスが話す内容に対して不思議な既視感を覚えていた。
「どうしたの、志乃」
「んー? なんかちょっと……」
「やはり、わたくしの志乃はアリスの事が気になるのですね、もちろん悪い意味で!」
「いやいや、違う……なんかアリスちゃんの話してること、知ってる気がして」
「ふふっ私の話ですかぁ?」
志乃のすぐ後ろにアリスが居たのだ。皆驚きと警戒を隠せない。しかし、そんな日南達を見ても、アリスは上機嫌だった。ニコニコと笑っている。
「皆さんも、私の話ですか? ふふっ嬉しいなぁ。私ね、あの時は志乃ちゃんのこと、怒鳴ってしまったけど、あれは私が間違っていたわ。ごめんなさい」
「は、はぁ……」
「よくよく考えてみたら皇鬼様が私に会いたくなかったのは、断木の儀を控えていたからだと思うの。私達の思い出の千年桜を切るんですもの……どんな顔で会ったら良いか分からないわよね。だから会えなかったの。あの時志乃ちゃんは朧姫と皇鬼様の恋は万年と続くと言っていたの、あれは間違っていなかったわ。私達の恋は千年桜が断ち切られたとしても、続くの……! 嗚呼、なんて素敵なの……」
恍惚な表情を見せるアリス。周りの人達はうんうんと頷いて、感動している。
「志乃ちゃんも私達の恋、応援しててね……!」
言いたいことを言い終わったのか、アリスはコツコツと足音を立てて、話を聞きたがっているであろう大勢の人達の元に向かった。アリスという大嵐が去ったのを確認すると、日南ははぁっと大きな息を吐いて話し出した。
「ま、まじで何あれ……ひ、引くわ……1周回っても怖いわ」
「数々の戦場をくぐりぬけてきたわたくしも、あれは引きますわね……」
「数々の戦場の意味が分かり兼ねるけども、水無瀬さん、ちょっと頭イッちゃったんじゃないのかな?」
「ここまで来たらすごいね」
あの鈍感な志乃も含め、4人全員がどっと疲れていた。そして声を合わせてこう言った。
「「「「すごい嵐だった……」」」」
***
志乃は学校が終わると、蒼真達とは帰らずに、寄り道をして帰ることにした。寄り道の行先は綾月公園である。綾月公園に近づくにつれて、警察車両や何かの業者の車両が増えていく。立っている人も増えていく。
綾月公園は関係者以外入ることは出来なかった。入口に柵がされており、中は明日の式典用に椅子が用意され、テントが貼られていた。でも千年桜を見るには問題は無かった。千年桜はいつもと変わらぬ姿で公園を覆う。周りのある桃の木も少し早めの満開で、一面ピンク色だった。
「あなたは、明日切られるというのに悠長だな。今咲いたら、切られなくても済むのに、頑なに咲かせようとしない……あなたは、誰を待っているの?」
夢の中のように返事は無い。ただ無常に風がなぎ、木の枝を揺らすだけ。道行く人も忙しそうに過ぎ去っていく。明日切られる千年桜に目もくれないで。
「千年桜……あなたはこんな終わり方でいいの?」
誰にも聞こえない声で志乃は呟く。その言葉は志乃の意志を固めるには十分だった。
そして、日は落ち、夜が訪れ、朝が来る。
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