【第28話】思い出せない
物語もいよいよクライマックスに近づいて参りました!
この後も作品を読んでいただけたら幸いです!
冬の寒さも収まり、春らしくなる3月上旬。
志乃は蒼真と紅賀と一緒に変化術の特訓をしていた。朧月の家の隣には住居スペースとは別に訓練場があり、そこで毎日欠かさず練習していた。
「志乃は感情で変化解けちゃうから、その辺の対策が必要だね」
「次はあれな、妖術な」
紅賀が手をかざすと、どこからともなく火の玉が現れる。蒼真も魚の形の水をだした。志乃は目を輝かせて、感嘆する。
「すごい!」
「紅賀より、僕の術のほうが綺麗でしょ?」
「あ? こっちの方がキラキラしてていいだろが」
「まあまあ、私はどっちも好きだよ」
火花を散らしていがみ合う2人。志乃はそれを落ち着かせる。そこで、志乃ははて、と思う。
「私の術はなんだろ?」
「それは僕達にも分かんないなぁ……」
「それなら、自分の血に聞いてみたらいいんじゃね?」
「血?」
「あー、あれ? やめときな、痛いから」
「やる!」
蒼真は止めたが、志乃はやると言って聞かなかった。結局は蒼真が折れ、外でそれをやることになった。
「ちょっと我慢しろよ」
志乃はうんと言って、手を差し出した。紅賀が爪で志乃の腕を切る。血がたらりと垂れた。そのうちの1滴が地に落ちる。ぴちゃんと。すると血は霧のように空気に溶け込みだしたのだ。
「なんだろ……幻影かな……」
「なんでもいいから何か想像してみろ。で、現実にあるものだと思い込め」
「うん!」
志乃は何を想像するか迷った。
(あ、千年桜……)
そんなことを思った。すると、靄は形を成し、どんどん大きくなる。
「何考えたの……」
「え、千年桜」
「おいおい……」
訓練場を覆い尽くすような大きな木。蒼真は恐る恐る触った。
「これは……志乃が思い込んだものを現実のものとして投影する幻影だな……触れる」
「小さいものにしろよ……」
「す、すみません……」
紅賀の指導の元、幻影の術を解く。志乃が無いと思えば無くなるようだった。志乃はあることに気がついた。さっき紅賀に切ってもらった腕の傷が跡形もなく治っているのだ。
「治ってる……」
「ああ、それな、俺たちもよく分からないんだ」
「僕も治るの不思議だったんだよね……やっぱ、母さんかな……」
「「「まあいっか!」」」
これで終わるのが朧月家である。
「志乃はさ、貴妖刀、出せる?」
「分かんない」
「こう、出ろーって思えば出るよ」
「なんかよく分かんないけど、やってみる」
蒼真によく分からない貴妖刀の出し方を教わり、実行に移す。
(おいで……)
志乃の手元に小さな粒子が集まる。それが形を成していき、刀になった。持ち手は黒と紫、刀身は純白の貴妖刀だった。
「出せたじゃん! すごい!」
「えへ」
「名前は?」
「多分、月詠夢幻……かな」
「志乃っぽい」
「僕はね……天色雨天」
「俺は朱禅」
「おー! ぽいね!」
その日の特訓は終了し、夜ご飯まで少し時間があった。
「眠い……」
志乃はベッドで疲れて眠ってしまった。そして、夢を見る。
3日間寝ていた時からまた夢を見るようになったのだ。
***
「――、愛してる」
「――、――、こっち!」
「俺だけの――」
私もです、――様。
ふふ、はしゃぎすぎですよ、――様。
あなただけの――ですよ。
どの夢を見ても、貴方しか出てこない。
でも貴方の顔が分からない。私の名前も分からない。貴方の名前も分からない。
どんな表情なのか、どんな声で私の名前を呼ぶのか、分からない。
何も思い出せないの。愛しい貴方のことが何にも分からないの。どうして、神様。どうしてですか、こんなにも、我が一族は使えてきたのに。どうして――
――神を恨んではいけません。
「ここは……」
――夢の終着点です。
「私は、誰だったんだろう……途中で記憶にないこと言ったりするのは、なんでなんだろ」
花ひとつ咲かせていない千年桜は揺れる。
――それは貴女が…………だからですよ
「君も教えてくれないし……あ」
――?
「あなた、切られちゃうんでしょ? どうするの?」
――私は歴史の流れに身を任せるだけです、だから大丈夫です。泣かないで。
志乃は知らないうちに泣いていた。千年桜はさわさわと嬉しそうに揺れる。
――貴女は私のためにも泣いてくれるのですね。
「当たり前!」
――そんな貴女に助言です。何事も諦めないで。
また、大量の桜の花弁が舞い荒れる。
「ちょ、待って……」
そして、志乃を飲み込んだ。
***
静かに目覚める。
誰かが階段を上る音がする。部屋にノック音が響いた。
「志乃、ごはん、て、寝てたの?」
「……うにゅ」
「寝ぼけてるわ……」
蒼真は志乃をおんぶすると、そのまま部屋を出ていった。
そして、刻刻と時間は過ぎる。断木の儀の日が近づいていた。
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