【第27話】隠された覚醒
志乃はこんなにも元気なのに、何故学校を休んでいるのか理解出来なかった。
今日は美麗も優華も家にいるので、暇という訳では無かったが、友達に会えないことが寂しかった。
「ただいまー!」
「お邪魔します……」
「お久しぶりですわー! 美麗様!」
「お、お邪魔します!」
夕方、玄関から声がした。日南達だ。美麗はどうぞどうぞと言って、友達を家に上げる。
「志乃ちゃん! 元気? 大丈夫?」
「志乃は頑張りすぎなんですの」
「志乃ったら、自分の状況理解してなかったのよ」
「志乃ちゃん、これお見舞いの品です……!」
「わーわー、皆、1人ずつ喋ってー!」
志乃の部屋に入った途端、一気に話しかけてくる鏡華達。志乃は困ったふうに装っていたが、友達に会えたことがとても嬉しかった。
「というか、日南、あなただけ家に入る時の言うことが違ったんですけど。何、『ただいま』って、あなた、朧月の家の子になったんじゃないでしょう!」
「いや、第2の家だし……」
「ええー! いいな、羨ましい! 私も朧月の家の子になる! そんで、お姉様って呼ぶ」
「茉莉ちゃん……ずっと志乃ちゃんのことお姉様って呼びたいって言ってたもんね……」
「日南ちゃん、うちの子だったの?!」
「つっこむのがしんどい!」
萌黄が倒れる。ドッと笑いが巻き起こる。皆で持ってきてくれたお菓子を囲んでピーチクパーチクたわいも無いことを話す。志乃はとても楽しかった。
「あ、千年桜、切られるって知ってる?」
「ああ、あの桜のことですわね。もちろん毎日の出来事はチェックしていますわよ」
「もう、びっくりで! なんで切られるか、萌黄ちゃん知ってる?」
「いやいや、私がなんでも知ってるなんて思わないで……実はね皇鬼様が承諾したんだってさ」
「知ってるじゃん!」
「えへ」
「はいはい、で、何故あんなにも千年桜を大切にしていた皇鬼様が承諾なんてしたんです? 訳が分からないですわ……」
「いや、そこまでは分からないな……」
「とか言って、知ってるんでしょ」
「いやいや、今回ばかりは知らないって!」
「えー」
「やっぱり、無くなるんだね……」
志乃が悲しそうな顔をすると、皆も困った顔をした。そして、鏡華が口を開いた。
「この世にはいつかは無くなるものばかりなんですのよ……志乃」
「だから、この世にあるうちに大切に大事に扱わなければならない。未練なんて残らないくらい」
「そして、送り出すんだよ……常世に」
「人も物も動物も、いつかはこの世から無くなってしまいます。だから今を大切に生きるしかないんです」
「みんな……」
志乃は感動した。
「しかーし、諦めたらそこで終了!」
「諦めなければどうにかなる時もあーる!」
「諦めも肝心とか言いますけど、諦めない心はとても大切ですのよ」
「当たって砕けろってやつですね!」
「何それ……ぷっ」
感動が一気に笑いに変わった。
「もう! 私の感動返せ!」
実はこの4人は学校で志乃が千年桜のことで悩んでいるのを日南から聞き、作戦を立てたのだ。名付けて「感動から一転大爆笑作戦」である。結果は大成功である。
「作戦通り……!」
萌黄が悪い顔でニヤつく。他の人もヘッヘッへと笑っている。
「あははっ、皆めちゃ悪い顔! ふはっ」
志乃が笑いころげていると、いつの間にか帰ってきていた蒼真と紅賀が部屋にノックして入ってきた。日南達らゴソゴソし始める。
「じゃあ、私達、帰るね!」
「楽しかったです!」
「第2の家だから、私はここに泊まる」
「うらやましいぃ!」
日南以外はさっさと帰ってしまった。そして、蒼真と紅賀は志乃の周りに座る。そして、話し始めた。
「今日の朝、聞いてもらいたいことあるって言ったよね、今から話そうと思って、日南ちゃん以外の人には帰ってもらったんだ。ごめんね」
「いや、別にいいけど……なんで日南ちゃんだけ?」
「日南は、俺たちの相談に乗ってもらったりしてたからな」
「そゆこと」
日南は満足気に答える。蒼真と紅賀は顔を見合せて、頷いた。妖気とも分からぬ力が部屋の中に充満する。
蒼真と紅賀の髪が白くなり、黒角が生えた。瞳孔は猫のように縦長になっている。志乃は身震いした。兄達が変化を解くのを見るのは初めてだったからだ。蒼真と紅賀は変化を解いたのに、溢れ出る妖気は止まらない。その時、日南が声を上げた。
「志乃、その姿……!」
「え?」
志乃の髪も白くなり、額から黒い角が生えていた。
「これは……」
「それが志乃の本当の姿」
志乃は部屋にあった姿見で自分のことを確認する。目を輝かせて、くるくると自分の姿を見た。
「本当はね、志乃は入学式の日に覚醒していたんだ。それを僕達が隠してたの、ごめんね」
「ごめん……」
蒼真と紅賀が頭を下げて謝る。それを見て志乃は慌てふためいた。
「全然大丈夫だよ! なんか理由があったんでしょ?」
「……ああ、俺達は天津鬼なんだ。だから隠していた」
「天津鬼……天津鬼!? でも、お母さん、天津鬼じゃないじゃん、なんで?」
「母さんのことはよく分からないんだ……天津鬼の血を何らかの形で受け継いでいるとしか考えられない」
「確かに、お母さん、謎だらけだもんね……」
これで納得してしまうのが朧月家。日南は理解出来なかった。
「志乃は変化の解き方分かんないでしょ? 今日からみっちり特訓ね。戦い方も」
「最近特訓してなかったから嬉しい!」
「しっかり、母さんの血受け継いでるわ……」
紅賀は呆れた顔で志乃を見る。美麗は戦い大好き戦闘狂なのだ。
志乃と日南が部屋を出ていくのを確認すると、蒼真と紅賀は暗い顔で話し合った。
「本当はもっと別の理由あるんだけどね……でも」
「でも、俺達は君を今度こそ守らなければならない」
「だから、僕は、嘘をつこう」
「だから、俺は、隠し通そう」
「僕達のことを思い出しても、あれの事は思い出さないように」
「決して思い出してはいけない」
「「今度こそ、君を守ろう、朧姫」」
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