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朧月夜、あの桜の下で  作者: 秋丸よう
【第1部】約束の桜
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【間話】君の幸せを願って

「皇鬼様、今日は皇鬼様にご相談があって参りました」


 その日は志乃が泣いていたあの日から4日後だった。

 国会議員の男が皇鬼別邸にやってきたのだ。名前は知らない。冬だと言うのに少し汗ばんだ、太った男で、皇鬼の第一印象は「汚い」だった。


「相談とはなんですか、黒木議員」


 貴臣が先立って話をする。ここで初めてこの汚い男の名前が黒木だと知った。気味の悪い笑顔を浮かべて口を動かす。


「実はですね……綾月公園の誘致についてなんですが……」

「はぁ……それは何度も断ったはずですよ」


 貴臣はわざとらしくため息をついて答える。


「誘致……ねぇ」


 皇鬼は志乃の事を考えていた。志乃が皇鬼の事を思い出そうとして苦しんでいたのを皇鬼は知っている。分かっていた。


(ここで、千年桜が無くなれば、君との約束は果たせないけど、今の君は幸せになれるかもしれない。昔の君は絶対に怒るけど)


 貴臣と黒木はわーきゃーと論争をしていた。


「だ、か、ら、あそこは皇鬼様と朧姫様の約束の地だと言ってるでしょう! なぜ分からない!」

「約束の地だとしても、もう桜は枯れており、花がつくことは絶対に有り得ません! あの土地があれば良いのでしょうが! 別に桜は必要ありません!」

「桜がいるって言ってるでしょうが! 話聞いてます?」

「この小僧め、私が下手にでていると言うのに……あの土地が公園なのは、勿体ないんですよ!」


 

 貴臣は黒木のことを煽りだし、黒木は貴臣の事を馬鹿にし始めた。もう、顔がひっつきそうな勢いで喧嘩している。

 そこに終始黙っていた皇鬼が口を開いた。


「もう、潮時かもしれないな……」

「皇鬼様……」


 貴臣は最初は驚いた顔をしたが、直ぐに悲しそうな顔になった。黒木は論争に疲れ、はぁはぁと息を切らしていたが、その言葉を聞いて、顔を輝かせた。


「で、では……!」

「ああ、千年桜の伐採を許可しよう」

「おお! やっとご決断なされたのですね! では早急に……」

「ただし、条件がある」

「へ……」


 皇鬼はオニキスの瞳で黒木を見据える。


「あれは千年を生き、神が宿っている。だから『断木の儀』を執り行う。桃の木が満開な頃合が良い。3月中旬にやる。わかったな」

「は、はひ……」

「わかったな?」

「はい! 了解致しました! そのように総理に伝えておきます!」


 では、と黒木は急いで皇鬼別邸から去っていった。

 貴臣は心配そうな顔で皇鬼を見る。


「お前も、粘ってくれて感謝する。今まで信頼できなくてすまなかった」

「っ! ……はい! 滅相もございません! 私、堀内貴臣は皇鬼様に忠誠を誓っております故!」


 目に見えてはしゃぐ貴臣を見て、皇鬼は薄い笑みを浮かべ、執務室を出ていった。その背中は悲しみに暮れていた。





***

「ねえ、朧姫、俺は君との約束を破ってしまった」


 寝室で、皇鬼は紫色の宝石に向かって話しかける。無情にも返事はかえってこない。


「でもね、あの笑顔を見せられたら、今が幸せって聞いたら、俺はもう必要ないんだなって思ってしまったんだ」


 キラリと輝く宝石。それが皇鬼には返事をしているように見えた。

 


「本当は俺は…………」


 その声は誰にも聞こえない。

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