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朧月夜、あの桜の下で  作者: 秋丸よう
【第1部】約束の桜
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【第19話】魂の伴侶と昔話

 新学期が始まり、11月にある文化祭の準備も着々と進んでいた。志乃のクラスはベビーカステラの屋台を出すことになった。



 そんなことはさておき、志乃にちょっかいを出してくる水無瀬アリスが学校をちょくちょく休むようになった。チラリと聞いた噂によると選定会なるものに行ってるとか行ってないとか。

 志乃はというと、9月3日に晴れて16歳になった。蒼真、紅賀も誕生日を迎え、8月20日、21日に17歳となった。この周辺は朧月家ではお祭り騒ぎである。バースデーハイというものだ。誕生日が続き、気持ちが昂っているのだ。


 志乃は新学期が始まってからは綾月公園に行っていない。それまでは綾に会うために毎日のように通ったが、会えなかった。兄達は綾のことを聞いて少し眉をひそめたが、志乃が楽しそうに話すのを見て、それ以上詮索するのはやめた。

 綾月公園で見た枝垂れ桜のことを思い出すとある人物のことが気になった。そして今日の授業では志乃がずっと気になっていた人物の事を学ぶ。



「今日の国学では皆さんお待ちかねの人物、朧姫様について学びますー」


 古山先生がいつになく楽しそうにしている。


「では、皆さんの朧姫様へのイメージを聞いていきたいと思います。 では……来栖君!」


 来栖旬はイラついた表情をしながらも素直に答えた。


「……めちゃくちゃ美人」

「そうです! 朧姫様はとてもお美しい御方でした。次は水無瀬さん!」


 アリスは自信満々に答える。


「賢く、聡明で、皇鬼様の傍に仕え、心の支えとなった御方です」

「素晴らしい!」


「なんだか、古山先生、褒め倒しマシーンみたいになってるよ……」

「そ、そだね……」


 古山先生を見て、クラスメイト達は苦笑いをした。


「でもね、水無瀬さん、一つだけ違うところがあるんですよ……朧姫様は側仕えのように、傍に仕えた訳では無いんです。朧姫様は皇鬼様と対等な関係で隣にいたんですよ」


 あ、真剣モードに入った。誰もがそう思った。


「朧姫様と皇鬼様は魂の伴侶。魂の伴侶とは日本固有の人外種である妖だけが本能的に理解することが出来る、自分自身の(つがい)のことを指します。妖の魂の伴侶に選ばれるのは同じ妖の時もあれば、人間の時もあります。人間を娶る場合は花婿、花嫁と呼ばれます。妖は魂の伴侶を見つけると、一目惚れします。妖の話によると雷に撃たれたように、本能的にそうさせるそうです。この現象は解明されていません。そして、妖の生涯の長い妖生でたった1人、魂の伴侶しか愛しません。その魂の伴侶が死んだ後も生まれ変わるのを自分が生きている限り待つそうです。ロマンティックですよね……」


 あ、と我に返り、ごほんごほんと咳払いをする古山先生。


「私達に近しい人物で魂の伴侶なのは国永満先生ですね」


 その言葉に皆が反応する。


「あ、相手はまさか……!」

「猫矢菜子先生ですよ」

「やっぱり噂は本当だったんだー!」

「よっしゃこらぁ!」


 騒ぎ出すクラスメイト。主に高入生以外だが。


「猫矢先生からは許可は取っていますので、話しますね。あれは国永先生が新任として天明学園に来た時――」


 国永先生ら新任教員達が職員室で自己紹介をしていたんです。その時ちょうど猫矢先生はちょっとした用事で職員室にいなくてですね、国永先生の番になった時に職員室に戻ってきたんですよ。そしたら猫矢先生、本当に雷に撃たれたみたいな顔して、国永先生の両手をガシッと掴んで、

「あなたは私の魂の伴侶だ! 私はあなたが現れるのをずっと待っていた。私の花婿、好きだ!」

 って言い出すんですよ。私は静かに笑ってしまいました。あの猫矢先生がそんなこと言うだなんてってね。まあ、でも1番びっくりしているのは国永先生ですよね。ちょっと間が空いて、国永先生は顔を真っ赤にしたんですよ。可愛かったですね。国永先生は小さな声で、

「ま、まずはお互いのことをよく知ってからにしません……? えっと、猫矢先生?」

 って言ったんですよ。こんな初対面で求婚されて、嫌がるだろうなと思ってたんですが、結構本人は喜んでて……私は声を上げて笑ってしまいました。猫矢先生はいつも顔に表さないんですが、満面の笑顔で尻尾をゆらゆらさせて、もうめちゃくちゃ嬉しそうでしたね。そして、今に至ります。



「ほえ……」

「はわ……」


 みんなが顔を赤らめて宇宙猫を背負っていた。男子が女の顔になっていた。カオスである。


「魂の伴侶に選ばれた人間はその妖の力によりますが、力の強い妖ならその家族に援助がいったりします。だから人間はもう必死ですよね。妖にしか魂の伴侶かどうかなんて分からないし、もう決まってしまっているのにねぇ……人間って愚かですよねぇ、ま、私も人間ですけどね……はははっ!」


 カオス空間がすんと元に戻される。そういえば古山先生はこんな人だった。


「という訳で、魂の伴侶とは妖と唯一対等な関係になれる役柄なんですよ……だから朧姫様は皇鬼様と対等な関係だった、とされています。まあ、ただ単に溺愛していたというものありますがね」


 さて、とパンと手を打つ。


「朧姫様は今では絶滅したとされている『天津鬼(あまつおに)』と呼ばれる種族でした。見た目は白髪、黒角、紫の瞳と言われています。天津鬼は天津神に使える神使でした。神の眷属という訳です。天津神は高天原にいる神々のことを言います。天津鬼達は病に苦しむ地上の人間、妖達を見て、心を痛めます。そして、地上に降り立つ許可を神々に求めたのです。神々はその心意気に大層心を打たれ、天津鬼達にある能力を授けます。それが様々な病魔、怪我を治す治癒能力でした。神々はその力を天津鬼達の体液に宿しました。そして天津鬼達はある村に降り立ったのです」


 生き生きと話す古山先生。


「そして村で人間達からは治癒の神として崇められ、妖達からも特別な力を持った神聖な妖として崇められました。天津鬼達は病魔や怪我を治すと大層喜ぶ人間達がとても好きになりました。人間と対等な関係で日々を暮らしていました。しかし、そんな平穏な日々は続きませんでした」


 古山先生は暗い顔をした。


「飛鳥時代後半、その日々は終わりを告げます。都から貴族達が天津鬼達の話を聞き付け、村に訪れたのです。村人達と一緒に仕事をしたり、遊んだりする天津鬼達を見て貴族達は美しい、欲しいと思いました。そこからは勝手に因縁を付けられ、村人達を人質に取り、天津鬼達を無理やり都に連れて帰りました。そして、地獄の日々が始まります。これは奈良時代後半まで続きました。貴族達は天津鬼達をタライ回しにし、時には遊びの一貫で血を流させ、癒しの力を楽しみ、時には美しい天津鬼達の体を使って遊びました。天津鬼達は治癒能力があると言っても、自分たちの怪我や病魔は治せません。天津鬼達は心身共に弱り果てていき、最後に残ったのは村で人間に化けて暮らしていた天津鬼の子孫の3人だけでした。その3人が朧姫と護衛の蒼と紅です。この事に神々は怒り狂い、都では流行病が猛威を振るい、たくさんの人々が亡くなりました。この厄災を恐れて天皇は村に残っていた朧姫を貴族の位に付かせ、天皇の命で保護します。これが朧姫の、いや、天津鬼の昔話です」


 そして、と続ける。


「天津鬼は神の使い。虚を払う力も持っていました。其れが声です。天津鬼が歌えば邪気が薄まり、神気が高まると言われています。現在では天津鬼は保護対象となり、また、援助金がでます。まあ、絶滅したとされているので、審査は厳しいですけどねぇ……それでも自分が天津鬼だという者は後を絶たないんですよねぇ」


 人間も妖も結局は愚かだと先生は言った。

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