表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朧月夜、あの桜の下で  作者: 秋丸よう
【第1部】約束の桜
23/67

【第18話】不思議な少年

 その男の子は異質だった。肌は日焼けを知らないように真っ白だったが、その他は全身真っ黒だった。鴉の羽のような髪、ブラックオパールのような瞳。今の時代、着物を着て遊んでいる子供はいないに等しい。なのに、少年は黒い着物を着ていた。

 志乃は一瞬でその子が人外だとわかった。声を掛けようとすると、少年が小さな声で呟いたのだ。


「……見つけた」


 志乃には何を見つけたのか分からなかった。志乃が不思議そうな顔をすると、少年はぽろぽろと綺麗な涙を零した。志乃は焦る。


「あわわ、あわわ、どうしよ! ……あ、これ、あげるから!」


 そう言って少年にアイスの入った袋を半ば強引に手渡すと、急いで手を洗いに行った。

 少年は不思議そうな顔をしていた。


 志乃は戻ってくると、やらかしてしまったと言う顔をした。


「ご、ごめんね、知らない人から貰う食べ物なんて嫌だよね……!」


 袋を渡すように言うと、少年はそれを拒んだ。


「……ほしいの? 大丈夫! 変な物なんて入ってないからね」

 

 少年は袋の中のアイスを取りだして、袋を開けた。すると入っていたのは2人で食べる系のアイスだった。


「恥ずかしい……間違って買ってしまった……」


 志乃は顔を隠して悶えた。その様子を見て少年はくすと笑い、志乃に話しかけた。


「一緒に食べようよ、お姉さん」





***

 2人は千年桜がよく見えるベンチに座って、アイスを食べた。少し溶けていたが、甘く冷たかった。

 志乃はぺろぺろとアイスを食べながらチラリと少年の横顔を見る。それに少年は直ぐに気付き、2人の視線は絡み合った。


(子供なのにどこか大人びていて、不思議な男の子。この子は一体何者なんだろう?)


 志乃は考えていることが顔に出やすいタイプである。志乃の顔を見て、少年は口を開いた。


「お、僕の事、気になるの?」

「……へぇっ!」


 志乃は心を読まれた気がして、素っ頓狂な声を上げた。少年はふふと嬉しそうに笑った。


「ふふ、お姉さんは面白いな。そうだなぁ、僕の事は綾って呼んでよ。お姉さんの名前は?」

「志乃……朧月志乃です」

「志乃、志乃ねぇ……綺麗な名前だ。あ、アイス食べないと溶けるよ?」

「わ、ほんとだ」


 少年、綾は志乃の半分溶けているアイスを見て指摘した。志乃の口では到底溶ける速さに追い付けず、見かねた綾は志乃のてろりと零れそうなアイスを食んだ。

 

 ドキと震える心臓。志乃は不覚にも綾が自分のアイスを食べる姿を見て心が揺らいだ。

 

 長いまつ毛。

 頬に影が落ちる。

 志乃は自分と綾の周りだけ蝉の声が聞こえなくなった気がした。


 そもそも変なのだ。公園の外からは蝉の声が忙しなく聞こえるのに、公園内の蝉は静かな鳴き声だった。



「志乃?」


 綾に呼ばれて志乃の意識は引き戻された。


「どうかした?」

「……ううん、大丈夫」


 志乃は残りのアイスを食べ終えた。その間、綾は幸せそうな顔で志乃の顔を眺めていた。


「志乃、僕のことどう思う?」


 突然の質問に驚く志乃。


「……子供なのに、大人っぽくて、うーん、小さな子供に言うことじゃないけど、ちょっとドキドキしたかも」

「……そっかぁ、そっか。ふふ、嬉しいな」


 志乃の率直な感想に綾は満足したように、ベンチから降りた。


「志乃、僕は帰るね。またここで会おう、約束だよ?」


 綾は志乃が瞬きをすると、今まで居なかったのように姿を消した。でも、綾と一緒に食べたアイスの袋を見て、確かに今まで一緒に居たということを感じた。


 綾を見て、志乃はなんだか懐かしく感じていた。


「……なんか、不思議な子だったな。あ、もう結構いい時間! 帰ろ」



 そして志乃は夕日に照らされた道を歩いて帰った。

 


 


***

 その日の夜、また、夢を見た。

 誰かのことを膝枕している夢。とても愛おしい()()()を思いながら、頭を撫でるととても幸せな気持ちになった。




 

 

 志乃は綾のことを日南達に話した。

 でも、何度か友達と綾月公園に足を運んだが、綾には会えなかった。



 

 夏休みが終わる。

 新学期が始まる。

読んで頂きありがとうございます!

ブックマーク、感想、レビュー、評価、いいね、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ