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朧月夜、あの桜の下で  作者: 秋丸よう
【第1部】約束の桜
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【第11話】中心的存在

 志乃は最近、アリスの自分に対する態度が変わったなと感じていた。


 話しかけても、返事は返ってこない。というか、きつく返される。また、志乃がドジをするとどこからとも無く小さな笑い声が聞こえてきたりする。見ると水無瀬軍団の人達だった。最近ではクラスの高入生の人間が話しかけてこない。

 これは明確ないじめである。しかし、志乃はいじめというものを知らない。というか分かっていない。志乃的には皆どうしたんだろな程度である。なんかそういうイベント事かなと思っている。


 日南は気が付いていた。志乃の事を虐めてるんだなと。何度も先生に言ったが、明確な証拠がないと言われた。しかも志乃は虐められてると思っていない。だからいじめにはならない。なーこ先生もご立腹のようだった。



 

 このような状況になったのは5月下旬にあった実技演習の後からだ。今は6月下旬。日南は十中八九、水無瀬アリスが先導してると考えていた。アリスの取り巻きは自発的に。その他は脅されて。アリスは賢い。一切証拠はださない。日南は時々ちょっかいをかけてくる来栖旬の方がまだ可愛い方だなと思った。






 


***

 水無瀬アリスは何時でも何処でも自分が1番でないと気が済まない性格であった。


 水無瀬アリスの家は富豪である。というかイギリスでは大貴族であった。アリスはイギリス人の母と日本人の父を持つ。

 幼い頃から褒められる事しか知らない。怒られることも、非難されることも無かった。何をやっても許されたのだ。気に入らないメイドは母に泣いて訴え、辞めさせた。

 

 アリスの母は一人娘のアリスに甘々で、なんでも言うことを聞いた。父はちゃらんぽらんな性格だったが、常識だけは兼ね揃えていた。だから、アリスの事もちゃんと叱った。その度にアリスは大泣きし、母に訴えた。母はアリスが泣く度に父を怒鳴りつけた。そして、母と父の関係はどんどん悪化した。家の体裁のために離婚はしなかったが、父は別邸に飛ばされ、母は愛人を作り、アリスも本当の父親より、自分の言うことを聞いてくれる愛人の方を父と見なした。


 アリスは自分の見た目にも自信を持っていた。プラチナブロンドの緩くカールした長い髪。夜空を吸い込んだような群青色の瞳。タレ目がちで小さな口の整った顔。自分よりも美しい人は居ないと思っていた。ましては、自分に釣り合うような男はもっと居ないと考えていた。その時までは。


 たまたまテレビをつけると、日本の特集番組が放送されていた。


「日本……あの男の出身国ね」


(あんなちゃらんぽらんな男が育った国なんて興味はないのだけれども、国は悪くないし、少し気になるわ……)


 そう思って、じっとテレビを見ていた。天皇という、イギリスで言う王様の地位にいる人の映像が出てきた。そして彼女は出会ったのだ。


「美しい……」


 彼女は目を奪われた。天皇という男ではなく、その隣で不貞腐れた顔をして話している男の方に。

 全身真っ黒。彼女の第一印象はそれだった。しかし、後を追うように美しいという感情が大きくなる。カラスの羽のような艶のある黒い髪。オニキスのような黒い瞳。スっと筋の通った綺麗な鼻。ほの薄いピンク色の唇。一目惚れだったのだ。これほどまで私に釣り合う、いや、それ以上の男だ、そう思った。

 早速母に聞くと、あの方は日本の人外の王様、皇鬼綾斗(すめらぎあやと)様だと言われた。私は母に懇願した。あの人と結婚したいと。しかし、その時初めて母が渋ったのだ。あの母が、自分の言うことなら何でも聞いてくれる母が。アリスは母に大泣きしてお願いした。そうしたら、母はしょうがないという顔で調べてくれた。


 

 母の調べによると、その人はずっと朧姫という魂の伴侶を探しているという話だった。魂の伴侶、朧姫は絶対に私なんだ、彼女はそう思った。16歳になれば日本の朧姫を選定する組織で立候補できるのだと知り、アリスは日本のどうせなら良い学校に進学すると決めた。彼女の母は少し寂しそうな顔をしたが、天明学園という学校に首席入学させてくれるように手続きをしてくれた。本当は高等部の首席は他にいたらしいが、アリスの為ならばお金を渡せば、簡単に降りてくれると考えていた。しかし、その家族がだいぶ粘ったらしく、最後の最後にやっと理解してくれたらしい。その首席予定だった生徒の名前が朧月志乃だった。


 そして天明学園に入学した。アリスはその首席予定だった朧月志乃という人物を確認するために声を掛けた。そんな賢い人物なら私の隣に置いて上げてもいいと考えていたからだ。

 そして落胆した。賢くても、こんな子は傍には置けない、いや、置きたくない。そう思った。やはり、勉強しかして来なかったから、美容には手が行かなかったのね、と思った。しかも自分の嫌味にも全く気が付かない。


「はぁ、超がつく馬鹿ね、あの子。期待して損した」


(しかも人外だし)


 アリスがこの学園に来て、驚いたことは人外と共学という事だった。綺麗に人に化けているが、所詮は人外。人ならざる者。イギリスでは人間と人外は完全に分かたれていた。だから、人外と言うだけで内心嫌悪した。人には絶対見せなかったが。


 

 そして、アリスは賢いアピールをしまくった。だって首席だから。それが嘘の首席だとしても、首席という事実がある、そう考えた。


(でも、鳴宮先生の時、私よりもあんな汚い子が目立っていた。悔しい)


 そんな心情を抱えていた。



 

 アリスは勉強も出来たが、実技も得意だった。だから実技演習の時も私が1番目立つと自負していた。


 なのに、なのに、アリスは前座だった。

 しかも聞けば、親に教えてもらった、だなんて。


(私はちゃんとした教師を呼んで、稽古をつけてもらっているのに、なんで。たかが素人の親に教えてもらった方が出来るわけ?)


 アリスはイライラしていた。でもその時、朧月志乃の種族の話になったのだ。朧月志乃は嫌そうに話していた。


(……ぶ、ふ、あはは、なんだ、やっぱり中途半端な成り損ないじゃない! 私の方が上なんだ! これからは私の方が凄いってことを見せつけていかないと、そうしないとあの子、分かんないもんね)



 そして、志乃への意地悪が始まったのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の秘密が何なのか、気になる展開でした。いじめの描写があったりのほほんとできる展開があったり、緩急もよかったです。
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