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トンデモ非日常サン、コンニチハ

#1-5『トンデモ非日常サン、コンニチハ』


 あまりの衝撃に、俺は顔を赤らめながら両手で口を押えていた。いや、もう顔が熱い。そして、俺を見つめてくる彼女も、まだほんのりと顔を赤らめているような……。


 え、なに? これって“一目会ったその日から”ってやつ? それとも向こうの挨拶か何か? それともそれとも彼女って落ち着いた印象だったけど実は情熱的で積極的? 俺……俺、このままどうなっちゃうの……?

 

「私の話している内容が分かりますか?」


「え?」


 あまりの衝撃に頭の中がお花畑になっていた俺は彼女の声で我に返った。というより、相変わらず何を言っているのか分からない彼女の言葉を理解している俺に意識を引き戻された。


 耳では彼女が先ほどしゃべっていたのと同じような言語を聞いているのに、俺の脳内聴覚では日本語で理解している。


「互いの言葉を理解できるように術を施しました。私の言葉が理解できるようになったか否か、答えていただけますか?」


「え? あ……はい、わかるように……なってます……」


 まだ耳から入ってくる音声と、脳内で展開される言葉の違いに困惑しながら半分うわの空で俺は言葉を返した。


「結構。いくつか貴方から聞きたいことがあり、私からお話したいこととお願いしたいことがあって、このような形をとらせていただきました……もし、あなたの世界に於いて失礼なことをしていたのなら、先に謝罪しておきます」


「あぁ……いえ、大丈夫です……ちょっとびっくりしたけど……」


 実は、まだ色々と頭の中でグルグル回っているが、とりあえず意思疎通が出来たのだし、まずは彼女の話を聞いてみるため彼女が話すことに意識を集中する。


「まずは、見ず知らずの私に食事を提供してくださり有難うございます。私はエリアスの魔術師でブリジットと申します。貴方は?」


「俺は橘悠真たちばなゆうまです。ここ、日本で主に民俗学──生活様式や言い伝えなどをもとに文化・思想を研究する学問を学んでいる、学生……かな」


 俺が自己紹介をすると、彼女、ブリジットは俺が話したことを反芻するように「日本……民俗学……」と口の中で呟き、少し思考を巡らした後、もう一度質問してきた。


「ユウマさん、あなたに魔術師か、その類の知り合いはいらっしゃいますか?」


「あ、いやぁ……そもそもこちらの世界に魔法使いはいません……残念なことに」


 苦笑しながら俺がそう答えると、彼女の顔に落胆の色が浮かぶ。


「え……いない……?」


「あっ! いや! 昔はいた、というかそういう言い伝えが残っていて……ええと、今はいないというか、世間でそう言われているだけで、い、今でも人目につかずにひっそりと暮らしているのかもしれないというか、いて欲しいというか……あ、いや、いるかもしれないという可能性がないわけでもないわけで……」


 こちらの世界の魔法使いと知り合いにでもなりたかったのだろうか? 彼女の落胆した様子に訳もなく焦った俺は支離滅裂しりめつれつに弁解じみたことを口走ったが、彼女は俺の言葉が耳に入っていないのか深刻な顔でうつむいたままで、それがよりいっそう俺の不安を掻き立てる。やがて顔を上げた彼女の表情にはどこか心細さが感じられた。


「どこから話したものか……以前、私がこちらにやって来てしまった時のことは覚えていらっしゃいますね?」


 問われて俺が頷くと、彼女も了承するように頷くとこれまでの経緯いきさつを話し始めた。


 内容を要約するとこうだ。


 きっかけは新しく身に着けた空間転移の魔法を試したら意図しない場所に出て、あとから異世界に跳んだことを知ったらしい。このようなことに詳しいエルフの知人──あちらにもエルフは存在するらしい。俺の知っているファンタジー作品のエルフとか伝承のエルフなのかどうかは判らないが──に聞いたところ、近くにある複数の世界が接触、重なることがあり、その時に何らかの拍子に接触した世界に転移してしまうことがあるらしい。


 そして大抵は接触もしくは重なった世界は、それぞれそのまま離れていくものだが、極まれに再び接触、重なることはあり、それでもだんだん接触する間隔があいてやがて離れていく。


 しかし、万一それぞれの世界の接続が強くなって離れなくなると融合が始まり、一方がどちらかの世界に取り込まれる形で摂理が混ざり合ってしまう。その際、取り込まれる世界は崩壊を起こし、やがて消滅してしまうのだそうだ。


「──いまのところ私が見て回った限りでは、私のいた世界に崩壊の兆候はありませんでした。しかし、私が門を開いた時に出口が再びこちらの世界に繋がってしまったということは、二つの世界が再び接触したということです。このまま融合が始まった場合、こちらの世界で崩壊が起こることも考えられます。こちらに魔術師や賢者がおられれば、そう言った兆候を感知する手立てや世界を切り離す対策を立てる相談が出来ると思ったのですが……」


 そう言って彼女は顔を曇らせた。え? 世界が崩壊するの!?


「あ、え、ええっと、魔術師がいるかどうかはわかりませんけど、天気やら地質やらを観測、研究している人たちはいるし、なんか異変があったら知る手立てがないわけでもないです」


 まだ若干、動揺の抜けきらないまま俺はスマホを取り出して、ネットで天気予報やニュースを検索して彼女にスマホの画面を見せ、表示される文字が読めないであろう彼女に内容を説明した。彼女はスマホを操作する俺の指使いや画面を見ながら口元を手で覆いながら、ずっと驚嘆した表情を貼りつかせていた。


 あぁ、なんか俺、現代魔法を使ってる気分。気持ちいい


 俺が愉悦に浸りながらスマホであれこれ表示させながら彼女にそれらを説明しているとき、玄関のドアが開く音がして、聞き覚えのある声が室内に響いた。


「ただいまぁ! 今日バイトで遅番おそばんの子が休みで最後まで残ることになっちゃってさぁ。晩ゴハン買って来たんだけど、悠ちゃん、もう食べちゃった?」


 面倒ごとが起こる予感しかしない。


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