七日目 楽に割り切れるものでもないけれど、彼の願いをかなえるためなら
「ねえ、なんでこんなところにいるの?」
「んー、ちょっと家出した。君は?」
「私は、ちょっと友達とけんかして、」
「うん」
「ねー聞いて、ひどいんだよ。みんなゆりちゃんにごめんなさいしろっていうの。だから家飛び出してきちゃった。」
「君も家出なの。一週間くらい君の家にとまれないかなと思ったんだけど、だめそうだ」
「そーなるのかな?一週間って何かあるの?」
「お祭りがね、あるんだ。行きたいって言ったら、その日はどうしてもだめなんだって、だから家出して、一人でお祭りに行くんだ」
「そっかー、一緒に行かない?ゆりちゃんもよんでさ、みんなで行くの。そっちのほうが楽しそう」
「いーね、楽しそう。でもけんかしてるんじゃないの?」
「うーん・・・でも、楽しそうだから、がまんしてごめんなさいする」
「あっいた!」
三人目の声が響く。
「あ、ゆりちゃん」
「あれがゆりちゃん?」
「えっと、ゆりちゃん、その・・・ごめんなさい。」
あの日、出会ったことは間違いだったのだろうか。いや、きっと大丈夫。これからも彼女は幸せに生きていけるはずだ。
七日目
目を覚ました。覚ましてしまった。覚ませてしまった。
まだ日は昇っていない。
背中が痛い。ここは外だ。だがまだ僕はいる。死んではいない。
まだ、止められる。
「待って」
彼女が動きを止める。腰まで海に浸かっていた。
「・・・」
海に入り、手を取る。
「なんで、邪魔するの」
震える体を抱きしめる
「なんで死なせてくれないの」
「それでも僕は、柄谷佳は君に生きていてほしいから」
「佳は死んだの。もういないの」
「僕は、死んだ柄谷佳とは別人なのかもしれない。それでも僕は彼の記憶と思考を持っている。僕は、彼は、君に生きてほしいって願ってる。」
「ずるいよ、なんで一緒に連れて行ってくれないの。」
「ごめんね」
「許さない。いやだ、おいていかないで」
「ごめんね」
「謝らないでよ。」
「ごめんね」
「だって、私は、佳と、あなたと、一緒にいたいだけなのに」
「あなたと一緒、に暮らして、あなたと一緒に、子供を育てて、たまに、百合に、冷やかされて、二人で、百合に怒って、でも楽しくて、それだけで、いいの、ただそれだけ、でいいのに、なんでだめなの、私贅沢かな、贅沢だよね。でも、それが、できないならいやなの、もうこの世界なんて、いらないの。いらないのに、なんで私を、あなたは、佳は、この世界に縛り付けるの。」
ただ、痛かった。聞いているだけで、辛かった。
でも、柄谷佳のために、僕のために、そして大好きな友人のために、それを受け入れるわけにはいかなかった。
「それでも、僕は、君が好きで、百合は、君が好きで、そして生きて、幸せになってほしい。僕がいなくても、君は幸せになれるはずだから」
彼女は首を横に振った。
「僕はいなくても、百合はいるでしょ。それに、この世界は、辛いだけじゃないから。きっと君はこれから色々な人に出会うから。だから、大丈夫」
「いやだ、怖い、色々な人に、会って、でも、あなたはいなくて、あなたのいない、記憶が、重なって、あなたが、薄れていくのが、怖い。忘れてしまうのが、怖い」
「君は、忘れないよ。」
「なんで、そんなの。」
「君は、僕を、佳を、愛してるから。そうでしょ」
「・・・うん、でも。」
「大丈夫、意外とこの世界は君に優しいから、百合は君を愛しているから、君は僕を愛しているから、だから大丈夫。幸せになれる。」
「・・・」
「百合を一人にしちゃいけないでしょ。大切な人を失わせたくないでしょ。君も、百合が好きでしょ。だから生きて。」
「・・・」
「いい?」
「・・・ひとつだけ、」
「なに?」
「いま、絶対に、私が、わすれないことをして。あなたを、私に、刻み付けて」
波の音がする。潮風のにおいがする。まだ朝早いからか。泳いでいる人はいない。
「彩」
声をかけられた。
「もう、行っちゃった?」
一つ頷いた後
「うん」
「そっか。もう、いいの」
「・・・うん、大丈夫」
「・・・じゃあ帰ろうか、その前に墓参りにでも行く?」
「んー、大丈夫、ご飯、食べよう。家にたこ焼きあるよ」
「たこ焼きだけじゃ足りないんじゃないかな・・・」
「じゃあ作ってくれる?」
「もちろん」
おなかをさする。空腹だからというわけではない。それに、そうなっているかもわからない。けど、どっちであっても、私は幸せにならなければならないのだ。それが私の愛する人の、人達の願いなのだから。
とりあえず、完結ですが、なんで彼がそんな体になったのかを一応次の話で書こうと思います。
正直自分でも蛇足である感じがしているのですが、世界観的な補強になれば幸いです。