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五日目 生きる意味は分からないけれど

「さて何を買ってもらおうかな」

「あー、奢るとは言ったけどさ、高いのやめてね?」

「しょうがないなあ。じゃあ僕はこれで。」

選んだものを渡し、彼女が自分の分と合わせてレジに持っていく。

彼女はレジ袋を断り、僕に一つが手渡される。

「ねえ、大丈夫?」

「ん?何が?」

「昨日、ゲーセン行ったとき、視線を感じるーとか言ってたじゃん」

「んーわかんない。けど今のところ何もないからなあ」

「ストーカーとかじゃないよね」

「えー?こんな私をー?自慢じゃないけど私あなた以外に告白されたことないよ」

「今も感じるの?」

「んー、うん、視線というか、なんか違和感がある。」

「本当に大丈夫?それ」

「うーん、まあ大丈夫でしょ。気のせい気のせい。」

そういって彼女は氷菓を口にする。

「まずい」

「そんなことある?・・・なにその奇怪なフレーバー」

自分もソーダ味をかじる

「なんか新しいものに挑戦したくなりまして、というか食べ物に奇怪て、交換しない?」

「嫌だよ・・・」

「まーまー一口でいいからさ」

よくよく見ると少しだけ彼女の顔が赤い

「しょうがない、間接キスがしたい健気な彼女のために一口だけもらってやろう」

「うー・・・なんか最近調子乗ってない?生意気だぞ」

自分の持っているアイスを差し出し、彼女の持っているアイスをかじる。

奇怪な味がする。その瞬間背中に痛みが走った。



五日目


目を覚ます。

そうか、百合の家にいるんだ。

カーテンを開けると赤い光が目に入った。もう夕方らしい。僕も最近睡眠が長いような気がする。

「おはよう、百合。」

「おそよう、佳。彩はまだ寝てる?」

「まだだね。昨日外歩かせたから、疲れてるのかも」

「朝、というかもう夕方だけど作ってあるけど食べる?」

「いや、僕はいいかな。」

「せっかく作ったのに」

「ごめん」

「・・・ねえ、明日夏祭りだけど」

「うん・・・」

何も言えなくなる。沈黙にテレビの音声だけが響く。

どこにでも流れているようなニュースが流れる

かちゃりと扉があいた。そちらを見ると彩と目が合う。

「今日は遅いね。もう夕方だよ」

彩が隣に座り、手を握った。

『速報が入りました。○○町男子学生殺人事件の犯人が』

テレビの電源が切られる。百合が慌てて消したらしい。しかしそれが手遅れであることは僕も、百合も理解していた。

「ぃゃ」

「落ち着いて彩」

「嫌」

「大丈夫、僕はここにいる」

「イヤ」

「今、僕は君と一緒にいる」

「いやっ!」

手が振りほどかれる。彩が百合の家から飛び出す。

「佳!」

「彩は僕が彩の家に連れて帰る。百合は先に彩の家に行ってて。」

「二人で探したほうが」

「いや、大丈夫、僕は彩から離れられないから、なんとなく彩のいる方向もわかる。」

「信じていいの」

「信じて」


「ここは・・・」

墓地だった。

何かに導かれるかのように歩いている。

少しずつ、それが近づくのを感じる。泣き声が聞こえる。

彼女が座り込んでいた。そしてその正面の墓石には『柄谷 佳』と彫られていた。

「うっ・・・あっ・・・」

何をしても、何を言っても彼女を傷つけてしまう気がして、何もできなかった。


「あなたは・・・だれなの・・・?」

久しぶりに、彼女の言葉を聞いた気がした

「僕は、佳だよ。柄谷 佳」

「嘘、佳はあの時死んだの、あなたはなんでここにいるの?」

「僕がいなかったら君が死んでしまうと思ったから」

「なんで、私は死んではいけないの?」

言葉に詰まる。そんな簡単に自殺してはいけないとか、命は大切にとか、道徳的解答が浮かぶが、彼女が聞きたいのはそういうことじゃないのは分かり切っていた。

「なんで私はいきているの?佳が死んだこの世界で。」

「分からない・・・けど僕は佳で、僕は君に生きてほしいと思っている。」

「あなたは・・・ずっと一緒にいてくれる?」

嘘をつくことはできなかった。

「君が生きることを決意したら、僕は消える。」

「やだ。」

「ごめん。」

手を握る。振りほどかれないように強く

「ねえ、明日の約束、覚えてる?」

彼女が微かにうなずいた。

「明日、言いたいことがあるんだ。」

「いわなくてもわかってる。」

「それでも、言いたいから、とりあえず、それまでは生きて。」

「・・・」

長い沈黙ののち、彼女は頷いた。


「よかった・・・本当に良かった・・・」

百合が僕と、背中の彩をみて安堵した。

「もう二人に会えないんじゃないかと思って・・・」

「ごめん、怖かったよね」

「うん・・・」

「でも、まだ終わってない。」

「分かってる。明日、頑張って、私が行っても多分邪魔になるだけだと思うから。」

「分かった。」

「あと、これ」

小さな箱を渡される。

「それでしょ?何日か前に君が言いよどんだやつ」

「なんでここに・・・」

「君の家族がね、彩に渡そうとしたんだけど、受け取らなかったらしい。私から渡しますってごねたらもらえた。渡すかどうかはきみにまかせる。」

「うん、ありがとう」

「じゃあ私、そろそろ帰るから。」

「帰るの?」

「うん、三日後に、また来る。」

「三日後って・・・」

「君達のいない部屋で君達を待つのは心が持たない。」

「そう、じゃあ僕とはこれでお別れだね。絶対に死なせないから、安心して。」


「百合」

「なに?愛の言葉?」

「違うわ、いや違わないか、ありがとう、大好きだったよ。」

「佳はずるいね、置いてかれるほうの気持ちを味わわなくて済むんだ。・・・あとは頼んだよ、私の最愛の友人君」

笑顔を見せられた。振り向き、彼女が玄関から出ていく。

玄関が閉まる。もう僕は百合と会うことはないのだろう。彼女は今、どんな表情をしているのだろうか。

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