四日目 死んでから初めて笑った
「おーい佳」
「ん、百合か」
「お?私は今明らかに残念そうにしたのを見逃さなかったぞ」
「してないです。というか一緒に来るんじゃなかったの」
「んー、心の準備だって」
「ゲーセンに行くのに心の準備ってなに」
「まー乙女にはいろいろあるのよ。目瞑ると出てきやすいんじゃないかな。私がいいっていうまで開けちゃだめだぞ」
「なおさらわかんない。まあいいや寛大な心で試してやろう」
目をつむる
「なんで上からなんだこいつ。まあいいや。ほら早く来なよ」
「だっていつもと違う格好はちょっと・・・というかこれ変な男に絡まれたりしない?」
彩の声が聞こえる。っていうかいたのか
「まあ佳って男には絡まれたりするんじゃないかな」
「まあそれはいいけどさ・・・なんか最近視線を感じてさあ」
「自意識過剰お疲れ様ですー彼氏できたからって調子乗ってんじゃないよ」
「ほんとなんだって」
「ねえそろそろ目開けていい?」
いるんだからよくない?
「うぇっちょっと待って」
「いいよ。素直な感想を言ってね」
目を開ける。見慣れないスカートを着けた彩がいた。
「ちょっ待ってって」
「うーん、馬子にも「素直な感想を言ってね」・・・かわいいよ」
それを認めると顔が熱を持つ。夏のせいか
「うー・・・」
「かわいいよねぇ・・・」
恥ずかしさからか暑いからか店内に逃げ込んだ。
「じゃあ二人とも僕は見てるから、楽しんで」
「楽しんでじゃないよ、君たちが楽しむんだよ。ほらプリクラ入って」
「ちょっと百合!?押さないで、あーもう分かったよ、ほら佳早くする!」
気恥ずかしかったが、なんだかんだ楽しかった。しかし帰った後、写真を見て、そこに百合がいないことに少しの寂しさを感じたのを覚えている。
四日目
目が覚めた。
少したってインターホンが鳴る。
「今日は早いね。」
「まあ早くても損はないかなって。」
「ありがとう。」
「感謝されることじゃないよ」
居間に移動する。
「ねえ、彩を外に出したいんだけど、どこがいいかな。」
「え、外に行くの?」
「ここにいても何も変わらない気がするから。」
「外に行ったら何か変わるの?」
「・・・」
分からなかった
「まあ、でも確かにここにいても変わらないかもね。君達もともとはどこにデート行ったりしてたの」
「海とかゲーセンとか」
「あぁ・・・君が遠巻きから見てるのが目に浮かぶね」
「けど海は一昨日行ったけど駄目だったんだ。あのコンビニのところで具合が悪くなって。」
「うん・・・じゃあゲーセン行く?」
「遊んでくれるかな?」
「さあ・・・分からないけど、断りはしないんじゃないかな」
「そうだろうけど」
「まあうだうだ考えるより行動するのはいいことだと思うよ」
百合は話を切り上げ、料理を作りに行く。残された僕は彩の様子を見に行くことにした。
「着いたー」
百合が呟く
「早く中入ろう。暑い」
「そうだね、彩、入ろう」
「まず何で遊ぶ?」
百合が彩に聞く。反応を返さないと思っていた。しかし彼女は微かに特定の方向を向き、頷いた。
「えっと、何だったか分かる?佳」
「多分・・・プリクラ」
「あー・・・なるほど、あの日君達かなり楽しそうだったもんね。じゃあスカート着てくればよかったね。」
百合が彩の手を放そうとする。多分あの日の再現をしたいのだと思ったのだろう。しかし彩がその手を放さなかった。
「ん?どうしたの?」
「多分三人で撮りたいんじゃないかな。あの時百合いなかったから」
「そっか・・・なんか嬉しいね」
百合が再度手を握り返し、三人で中に入る。
百合がコインを入れ、画面を触る。
それが終わり、カウントダウンが聞こえてくる。
「二人とも何を辛気臭い顔しとるかー、ほら笑うんだよ。」
百合がくすぐってくる。
「ちょっくっやめろ、というか僕じゃないだろ笑わせるのは!」
「うるせーもっと楽しむんだよ、誰を笑わせるとかじゃないんだよ。というかもっと近寄るんだよ見切れるでしょ」
「それはお前がくすぐったから逃げたんであって・・・あーもう!ほら彩ももっと笑え」
彼女の顔を触って無理やり笑顔を作る。
「それだとカメラに写らんでしょうが!」
百合に蹴られる。
「お前・・・蹴りはダメだよ蹴りは・・・」
久しぶりに笑えた気がした。
「ふー・・・次は何して遊ぶ?」
「んー・・・帰る」
「は?佳君はゲーセンにプリクラだけやりに来たの?」
彩とつないでいる右手を上げる。彼女の瞼は半分閉じ。今すぐにでも寝てしまいそうだった。
「あー・・・そりゃしょうがない」
彼女を背負う。
「背負って帰る気?死ぬよ?」
「途中でタクシー拾うよ。」
「はー・・・もっと頼っていいんですがね・・・佳君よ」
「何か言いたそうだね」
「近くに私の家があるから泊まってきなさい。知ってるでしょ?」
「あー、いいの?親とか」
「今日は帰ってこない」
「ありがとう、じゃあお邪魔します」
「よろしい」
「ねえこれ」
「どうしたの、それ、今日撮ったやつ?」
「うん、もっと盛ればよかったなーと思って見てたんだけどさ。これ少しだけ彩が笑ってるように見えない?」
目の錯覚か、僕たちの願望か、それは微かに微笑んでいるように見えた。