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プロローグ n日目 いつか、きっとある未来
二人の男女がいた。
「久しぶり」
「君の人生は幸せだった?」
女は微かに首を縦に動かす。
「よかった。心配だったんだ。僕はエゴで君を生かしたから。」
沈黙が訪れる。
「あれ。言いたいこといろいろあったはずなのに何も出ないや。」
女が少し手を動かす。男は意図を察したのかその手を取る。
男は手の温もりと薬指の付け根に金属質の冷たさを感じた。
「少し名残惜しいけど、僕はここまでかな。」
女は少し驚いたような顔を見せる。
「君の最期を看取るのは、僕じゃないから。」
男が手を放す。
「じゃあ、またね。じゃないか、さようなら。」
男の体が透け、少しずつ消えていく。女は名残惜しそうにそれを見つめた後、
「ありがとう」
という声を出そうとした。
果たして発声できたのか、男に届いたのかは女には分からなかったが、男は完全に消える直前に微かに笑ったように見えた。
「―――――!」
扉が開いたような音がした。果たして女にそれが聞こえたのだろうか。
しかし女は一組の男女と子供を認識し確かに笑った。