二人の逃避行
アリスにどうして人さらいにあっていたか、何故袋から抜け出すことができたのかなどを聞いていると驚くべきことが分かったそれは―
「アリスが魔導学校の学校長!?そんなはずないでしょ!私が見たことある学校長は眼鏡のお姉さんで、あなたみたいなちびっこではなかったわ」
一年前の試験の時に会場で見た姿アリスのような少女ではなく長い黒髪を縛った大人の女性であった。身長から髪の色、胸のサイズまですべてが違う。
「あれは代理の秘書だ馬鹿者!母上が失踪して以来、私が継いだのである。といっても流石に幼すぎるって事で母上の時からの秘書だった彼女に基本的なことは任せているが」
にわかには信じられないことだがこれが事実なら言うことがある。それはー
「私を魔導学校に入学させてください!」
アリスの前でエリーゼは土下座をしていた。プライドがないと思うかもしれないが、魔導学校の倍率を考えるとこの行動にも納得いくだろう。
魔導学校では他の一般学校に比べ、特殊な方法を用いている。学科毎に分けられるのは他の学校と共通だが、さらにそこでランク毎に分けられるのである。上位の者たちは総じて期待ができる。
何が言いたいのかと言うと就職率が良いという事である。私が入るつもりでいた一般科は、ランク分けはされていないがそれでも色々な仕事につける。
一昔前までは誰でも手軽に稼げるというのが冒険者だったが、最近ではギルドに登録するためには学校を出なければいけない所が増えたのが一つの原因でもあるだろう。何事にも知識は必要なのである。
「どの道何か礼をしないととは思っていた。私が叶えることができそうな願いで安心したよ。但し私ができるのは口添えだけで、後々どう転んでもは責任取らないぞ」
腕を組みながら笑顔でアリスは答えてくれた。
「さぁ、礼をするためには学校まで運んでもらわないといけないな。ほれかがめ」
言われるがまま屈むとアリスが背中に捕まってきた。 仕方がないと彼女を背負い、魔導学校目指し歩き出した。
そこで彼女達が、さっきまで伸びていた男がそこから居なくなっている事に気づけていれば良かったのだが、エリーゼもアリスもまだ少女。うっかりもするだろう。
だが気配に気づけただけ良しとするべきであろう。
巨大な腕が振り下ろされる瞬間、エリーゼは前方に思いっきりとび間一髪潰されずにすんだ。
ドン、という重い音ともに地面がへこむ。なんという力だろうか、こんなものをくらえば私だけではなく背中にいるアリスまでもつぶされる勢いだ。
「躱したか。さっきからすばしっこいことだな。」
そこにたっていたのはさっきまでそこで伸びていた男だったモノと思われる。何故曖昧なのかというとさっきまでとは姿が全く違うからである。「声が一緒なので同一人物だ」と判断するしかないほどの変わり具合であった。
その姿はこちらの世界、イーストアースでは見かけることがなく、私達が裏世界と呼んでいるウエストアースに住む魔獣ガルムであった。
「何故魔獣がこんなところにいる!やつらはこちらの世界には移動できないはず。来ることができても低ランクの魔物、魔獣クラスしかも神話級なんてありえない!」
アリスが叫んでいる間もガルムの攻撃は止まず、道だけでなくまわりの家までもが破壊されていく。私は私で攻撃をよけるのが精いっぱいでまわりのことを気にしている余裕がなかった。
「アリス!攻撃手段はある!?アリス!くそっ」
アリスを呼ぶが彼女から返事はなく何か考え事をしているようだった。そんな彼女を背負い、攻撃をよけながら逃げていたが一向に助けに現れる人はいなかった。
「助けを呼ぼうと思っているのならばそれは甘いぞ。誰にも感知されない程度の人払いの魔術をつかったからな」
「薄々そう思っていたけどやっぱりそうか。でも私は他にもおかしい点をみつけたぞ。お前本当のガルムじゃないだろ!」
「・・・どうしてそう思う」
「アリスが言っていたようにガルムは神話級の魔獣だ。実在するかも怪しいものだ。そんな生物が魔法も魔術も人払い以外つかわず、ただ殴りつけたりするだけ。神話級とは言えないありさまでしょ」
アリスもおかしいと思っていたようで補足をするかのように喋りだした。
「お前変化だな?確かあの魔法は姿だけならば知識があればできたはず。他の魔法を使わないというのにもそれで合点がいく」
図星をつかれたのかアリスの問いには答えず、襲い掛かってきた。最初と同じく右足による踏みつけ、もちろんエリーゼは躱そうとする。がそれを彼女の左足に巻き付いたツタが許さない。
「なっ!?」
絡みついたツタを外そうとするがきつく巻き付いて外れない。これは魔術で生み出されたものだろうと判断したエリーゼはアリスを投げた。次の瞬間―
ブチッとさっきの重い音とは違う無慈悲な音が鳴り響いた。
「エリーゼ!!!」
辺りには血のにおいが充満していた。