袋の中身は
「これはさすがにまずいね」
ただ魔導学校に試験に行くだけのはずだったのにどうしてこうなったのか。相手の男は魔法が使え、剣も使えるときた。盗賊として生きていくにはもったいないくらいの高スペックだ。正直羨ましい。
「今からでも自首しない?魔法も剣も出来るなら傭兵でも冒険者でもなんでも出来ると思うよ。警備塔までなら付き合うからさ」
「面白い冗談を言う娘だ。しかしその必要はない。俺はそれを届けて金を貰いこの国から出る。それで終いだ。迂闊に首を突っ込まなければ死ぬことはなかったがそれはもう過ぎたこと自分の運の無さを呪え」
『切雨』
男の手からでた水の塊が数個の刃になり、まっすぐエリーゼの体を確実に貫いた。貫いたはずだったが―
「何故死んでいない!?今お前の体を貫いたはずだそれが傷すらないのはどういうことだ」
彼女は五体満足で何事もなかったかのように立っていた。最初に左肩に受けた傷さえもなくなっていた。変わったところと言えば、服が破れているところと最初はきれいな水色だった髪色が燃えるような赤色になっていたことだろう。
エリーゼは相手が驚いて動きが止まっていることをいいことに駆け出し、一気に距離を詰めそのまま勢いを殺さず男を殴り飛ばした。彼女の細い腕から放たれたとは思えない威力のパンチを食らい、男はゴミ置き場に頭から突っ込んだ。一撃をもらった男は当たり所が悪かったのかゴミに突っ込んだまま、動くことなくそのまま伸びていた。
彼女が深呼吸をすると同時に赤く染まっていた髪も元通りの水色にすっと戻った。
「方法がこれしかなかったとはいえあんまりいい気分じゃないわね。体がえぐられて気分がいい人なんていないでしょうけど。」
魔法で貫かれた体を気にしつつ、戦闘になったことでその場に置いた袋を回収しに戻った。ここまで自分に迷惑をかけたのだから元の持ち主に返して金をせびろうと決め、心の中で笑いつつ袋を置いた場所に戻ると中身がなくなった空の袋が置かれていた。
また奪われたか!?と思い男のほうをみるがまだ伸びたまま。じゃあどこに―
「今、お前は袋の中身を探しているのだろう。答えてやろう、上を見上げよ」
偉そうな少女の声が上から聞こえてくるのでその方を向いてみると、そこにはネイビーカラーのゴスロリを纏った推定10歳くらいと思われる金髪少女が、腕を組みながら浮いていた。浮いているといったがジャンプで一瞬浮いているとかではなく、空中で静止していたのであった。
「・・・えっときみは?」
「そうだな、まず名を名乗っておこうか。私の名はアリス・キテラ、アリスと気軽に呼んでくれて構わないぞ」
胸を張りながらアリスと名乗った少女にいろいろな疑問が浮かんだがとりあえず―
「何故飛んでるか分からないけれどそこから降りておいで、危ないよ」
「子供扱いするな!とうッ」
掛け声と共に浮かんでいた場所から少し飛び上がり、そのまま急降下してくる、私目掛けて。
「ちょい待ちちょい待ち!ーーぐはっ」
アリスは私の頭を踏んで勢いを殺しつつ地面に着地した。その姿はどこか誇らしげにみえる。一方私はと言うと蹴りの衝撃に耐えられず尻餅をついていた。
「これが流星膝蹴、子供扱いした罰だ!」
これはまたとんでもない人と関わってしまったのかもしれない。人攫いに合うくらいなので普通ではないとは思うが。
子供扱いされたことに対して怒っているアリスを尻目に見つつ、とりあえず彼女の保護者を探すかとエリーゼは立ち上がったのであった。