序章
『非常事態発生。非常事態発生。乗組員は直ちに避難してください。』
『繰り返します。非常事態発生。非常事態発生。乗組員は直ちに避難してください。』
艦内に配備された複数のスピーカーから、緊急アナウンスが喧しい程に流れている。
扉を開けて艦橋へ立ち入る
「失礼します!艦長、何があったのですか!?」
「狭山准尉か……今は悠長な事をしている場合では無いのでな、簡潔に説明をする。」
艦長の話によると、自分達の乗っている……つまりこの艦が、現在正体不明な敵に攻撃を受けており、あと十数分程度で超高エネルギーの「なにか」が放出される兆しがあるという事だった。
「ですが、この宇宙巡洋艦には最先端のエネルギー防護壁が備わっている筈です!それを使わないのですか!?」
「使わないのではない!……使えないのだ……っ。」
「何故ですかっ!?」
普段は冷静で寡黙な艦長が、声を震わせながら……絞り出すように残酷な事実を口にした。
「…この艦に向けられているエネルギー波とでも呼ぶべきものは、この艦に搭載されたエネルギー防護壁を展開したとしても防ぐことは出来ない。もし防ごうとしたところで、この艦ごと宇宙の藻屑となるのが関の山、といったところだろうな……。」
「そん…な……。」
「もう時間が無い!一刻も早く脱出艇に乗り、近くの星へ逃げるのだ!!」
「しかしっ!」
「……艦長としての命令だ、早く行きなさい、狭山准尉」
「……了解しました……っ」
扉を開けた後、艦長の方へ向き直り、
「……ご武運を」
と言い残し、敬礼をして、艦橋を後にした。
カン、コン、カン、コンと、鉄の道を蹴る。
『艦に向けられているエネルギー波はあと5分程で放出される。乗組員は直ちに脱出艇に乗り避難せよ。繰り返す。艦に向けられているエネルギー波はあと5分程で放出される。乗組員は直ちに避難せよ。』
スピーカーからは、艦長からのアナウンスが流れている。
私は脱出艇保管庫の扉を開け、すぐに脱出艇に乗り込んだ。
「……艦長、どうかご無事で。」
そう呟きながら、射出シークエンスを開始した。
『射出路面、異常無し』
『機体、異常無し』
『燃料、補充完了』
『乗組員狭山悠司准尉のバイタル、異常無し』
『射出シークエンスを完了しました。脱出艇の射出を開始します。』
ゴゥンゴゥンと鈍い音を立てながら、脱出艇射出門が開く。
『脱出艇、発射!』
アナウンスの音が響くと、脱出艇は勢い良く宙へ投げ出された。
「……艦長、どうかご無事で。」
小さく呟いて、私は目の前に少しばかり小さく見える星へ向けて、舵を切った。
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